2019年3月23日土曜日

絶賛に値する日経ビジネス東昌樹編集長の「編集長の視点」

「素晴らしい」の一語に尽きる。日経ビジネス3月25日号に東昌樹編集長が書いた「編集長の視点~取締役会議長に禁じ手 日産は変われない」というコラムは文句の付けようがない。まずは全文を見てほしい。
長崎大学(長崎市)※写真と本文は無関係です

【日経ビジネスの記事】

日産自動車はこれからどうなってしまうのでしょうか。

カルロス・ゴーン元会長の不正疑惑で揺れる日産。コーポレートガバナンス(企業統治)を強化するために新設したガバナンス改善特別委員会が「会長が務めていた取締役会議長を社外取締役に任せるべき」と近く提言するようです。日産はこれを受け入れる見通し。すでに会長職は空席にすることで調整しており、取締役会議長が日産企業統治のトップとなります。

日産がその取締役会議長に招こうと検討しているのは経団連の前会長である東レの榊原定征・特別顧問だとされます。榊原さんはNTTなどの社外取締役や経済財政諮問会議の議員も務め、実績も能力もある立派な方です。しかし、日産が本気でガバナンスを改革したいと思っているなら、別の方を探した方がよいのではないかと思います。

なぜなら、「社外取締役を取締役会議長に」と提言するガバナンス改善特別委員会の委員長は榊原さんだからです。これは社長指名委員会のメンバーが社長になるようなものです。

労働組合が強い時には労組の言いなりになり、ゴーン元会長が君臨するとその言いなりに。安直に強い者を担ぎ上げ、おもねる体質が日産問題の根底にあるのは間違いありません。今度は経団連会長の看板に頼ろうとしているのならば、日産のガバナンスは改善できるとは思えません。

今号の特集は「人材問題」。人手不足は深刻ですが、よく目を凝らせば、人材は社内外にいるものです。取締役会議長の適任者もきっと。


◎手本とすべき記事

記者として最も必要なものは何かと問われれば「健全な批判精神」と答えてきた。署名入りでコラムを執筆するならば「自分だから書ける、自分にしか書けないものは何か」を考えてほしいとも訴えてきた。

記事の書き手には、結論に説得力を持たせるべく構成を考え、簡潔で分かりやすい文にまとめる技術も要る。その上で、リスクを負って自らの主張を世に問う覚悟も欠かせない。

そうした条件を満たす書き手がコラムを書いたら、どんな内容になるか。今回の「編集長の視点」が1つの答えだ。

日経では「経団連」に批判的な記事が載ることは稀だ。東編集長は「経団連の前会長である東レの榊原定征・特別顧問」を直接的に批判している訳ではないが、「経団連」や「榊原さん」のご機嫌を損ねる可能性は十分にある。そうなれば、いずれ日経本社に戻る東編集長の処遇にマイナスに働く懸念もある。そのリスクを負って今回のコラムを書いた姿勢をまずは評価したい。

日産がその取締役会議長に招こうと検討しているのは経団連の前会長である東レの榊原定征・特別顧問だとされ」ていることに対し「日産が本気でガバナンスを改革したいと思っているなら、別の方を探した方がよいのではないか」「社長指名委員会のメンバーが社長になるようなもの」と異を唱えているのも納得できる。

調べた範囲では、東編集長と同じ視点に立っている記事は見つけられなかった。唯一無二とは断定できないが、東編集長だからこそ書ける内容に仕上がったと言えるだろう。「今号の特集は『人材問題』」と誌面の中身に触れた後で「よく目を凝らせば、人材は社内外にいるものです。取締役会議長の適任者もきっと」と結んでいる。着地も見事だ。

今回の記事には、コラムの書き手が手本にすべき要素がぎっしり詰まっている。記事作りに関わる多くの人に読んでほしい。そう願わずにはいられない。


※今回取り上げた記事「編集長の視点~取締役会議長に禁じ手 日産は変われない
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00107/00013/


※記事の評価はA(非常に優れている)。東編集長への評価はB(優れている)を据え置くが強含みとする。東編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

コメントの主は誰? 日経ビジネス 東昌樹編集長に注文
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/12/blog-post_16.html

「中間価格帯は捨てる」で日経ビジネス東昌樹編集長に注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_87.html

「怪物ゴーン生んだ」メディアの責任に触れた日経ビジネス東昌樹編集長に期待
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_3.html

詰め込み過ぎが惜しい日経ビジネス東昌樹編集長の「傍白」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_17.html

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