2019年3月18日月曜日

中国「中進国の罠」への「処方箋」が苦しい日経 原田亮介論説委員長

16日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「核心~中国のもう一つの憂鬱 『中進国の罠』どう回避」という記事で原田亮介論説委員長が「中進国の罠」を「どう回避」するのか「一つの処方箋」を示してくれている。これが説得力に欠ける中身だった。そのくだりを見ていこう。
八坂川(大分県杵築市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】
  
1人当たりGDPが1万ドルを超えるあたりから、途上国の経済成長が停滞する――。「中進国の罠」である。戦後これを回避できたのは日本などごく一部の国だ。習近平体制も、20年までは表向き6%成長を死守するとして、その後の成長率の低下をどこまで抑えられるだろうか。

ロンドンに本社を置く調査会社キャピタル・エコノミクスは独自に中国の実質成長率を推計し、18年は公式統計より1.3ポイント低い5.3%とみている。構造改革が進まないと、20年代末までに「2%まで下がる恐れがある」とチーフエコノミストのニール・シアリング氏はブログで指摘している。

一つの処方箋は米国の外圧を国内の改革に使うことだ。「01年の世界貿易機関(WTO)加盟は外圧となり、中国を変えた。もう一度それができるかどうか」(関氏)

いま中国では1日あたり1万8千社の会社が生まれている。1週間で日本の年間の新設法人数に匹敵する規模だ。問題はこうした旺盛な起業家精神をどのようにイノベーションにつなげるかだ

例えば日本企業からも悪名高い、技術やノウハウを中国に「強制移転」するよう求める制度がある。米中摩擦でも争点となり、中国は見直す方針だ。知財を保護しなければ国内起業家も不利益を被る。既得権を壊し、世界に通じるルールづくりを急ぐ時だ

◇   ◇   ◇

一つの処方箋は米国の外圧を国内の改革に使うことだ」という原田論説委員長の解説に感じた疑問を挙げてみる。

◎疑問その1~「外圧」が有効?

一つの処方箋は米国の外圧を国内の改革に使うことだ」との書き方からは「やりたくても抵抗が強い改革を実行するために『外圧』を利用すべきだ」とのニュアンスを感じる。

民主主義国家では国民に不人気な政策を導入する時に「外圧」が有効かもしれない。選挙や議会を考える必要があるからだ。しかし中国はそうではない。例えば「知財を保護」する政策を中国の指導部が実施に移したいと考えている時に「外圧」を利用する必要はあるだろうか。


◎疑問その2~「強制移転」の見直しが有効?

原田委員長は「外圧」を受けて「技術やノウハウを中国に『強制移転』するよう求める制度」の見直しも「中進国の罠」を「回避」するために有効だと見ているようだ。「強制移転」はどちらかと言うと制度として残した方が「中進国の罠」を「回避」するのに有効のような気もする。「技術やノウハウ」は経済成長の重要な要素だ。総合的に見ると「強制移転」の見直しが中国にとっても好ましいのかもしれないが、「処方箋」にはなりそうもない。


◎疑問その3~「知財保護」が有効?

知財を保護しなければ国内起業家も不利益を被る。既得権を壊し、世界に通じるルールづくりを急ぐ時だ」と記事を結んでいるので、「知財を保護」すれば「中進国の罠」を「回避」できると原田論説委員長は見ているのだろう。

これもよく分からない。「問題はこうした旺盛な起業家精神をどのようにイノベーションにつなげるかだ」とも書いているので、「知財を保護」→「イノベーション」が増加--と想定しているのかもしれない。

日本は知財保護で先行していて、中国は遅れているとの前提で考えてみよう。日本は次々と「イノベーション」を生み出しているのに中国はさっぱりならば、「知財を保護」すれば「イノベーション」が増加するかもと考えるのも分かる。

しかし、イメージで言えば、近年は日本よりも中国の方が「イノベーション」を生み出している感じがする。「イノベーション」の多寡と直接結び付く訳ではないが、例えばユニコーン企業は米国に次いで中国が多いとされている。

外圧」を利用して「知財を保護」すれば「イノベーション」に結び付いて「中進国の罠」を「回避」できるだろうか。無理とは言わないが、やはり説得力は感じられない。



※今回取り上げた記事「核心~中国のもう一つの憂鬱 『中進国の罠』どう回避
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190318&ng=DGKKZO42520980V10C19A3TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。原田亮介論説委員長への評価はDを維持する。原田論説委員長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「2%達成前に緩和見直すべき?」自論見えぬ日経 原田亮介論説委員長
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_77.html

財政再建へ具体論語らぬ日経 原田亮介論説委員長「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_33.html

日経 原田亮介論説委員長「核心~復活する呪術的経済」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_20.html

日経 原田亮介論説委員長「核心~メガは哺乳類になれるか」の説明下手
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post.html

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