2019年3月19日火曜日

日経ビジネス特集「ダイナミック・プライシング」の問題点

インタビュー記事を作る場合、取材相手が事実誤認していることはよくある。しかし、その発言を「本人がそう言ってるんだから」と記事にしては記者失格だ。取材相手が経営する会社の内部事情など確認できない件もある。ただ、少し調べれば分かる範囲であれば、しっかりチェックすべきだ。
伐株山園地(大分県玖珠町)から見た風景
           ※写真と本文は無関係です

日経ビジネス3月18日号の特集「ダイナミック・プライシング~買わせる時価、買いたい時価」の中のインタビュー記事で、星野リゾートの星野佳路代表が「居酒屋でビールを飲んでもマクドナルドでハンバーガーを食べても、曜日や時間帯で値段が変わることはない」と語っていた。ここには明らかな事実誤認がある。

これに関する問い合わせと回答は以下の通り。


【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 藤村広平様

3月18日号の特集「ダイナミック・プライシング~買わせる時価、買いたい時価」について2点お尋ねします。

(1)居酒屋では時間帯で値段が変わらない?

星野リゾート代表 星野佳路氏のインタビュー記事に「居酒屋でビールを飲んでもマクドナルドでハンバーガーを食べても、曜日や時間帯で値段が変わることはない」という星野氏の発言が載っています。「居酒屋」に関しては、明らかな事実誤認ではありませんか。

外食業界では「ハッピーアワー」を設定してビールなどの価格を割り引く店が山のようにあります。居酒屋で「午後6時までビール3割引き」といった表示を目にした経験はありませんか。

居酒屋でビールを飲んでも時間帯で値段が変わることはない」という認識は誤りだと考えてよいのでしょうか。星野氏に事実誤認があったとしても、藤村様が記事にする段階で対応できたはずです。なぜそのまま記事にしてしまったのですか。


(2)ホテルは休日が高い?

特集には「ホテルは休日や休前日になると高くなり、反対に平日になると安くなるのが当たり前だ」との記述があります。一般的には、「休前日=土曜」「休日=日曜」です(祝日は無視して考えます)。なので「土曜と日曜が高くて、月曜から金曜までが安い」と藤村様は認識しているのでしょう。しかし、常識的には「金曜と土曜が高くて、日曜から木曜までが安い」ではありませんか。

記事で取り上げていた「女性向けカプセルホテル『MAYA TOKYO WOMAN』」のホームページを見てください。「平日」の金曜より「休日」の日曜の方が安くなる傾向が確認できます。「ホテルは休日や休前日になると高くなり、反対に平日になると安くなるのが当たり前だ」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。

ついでで恐縮ですが、特集に関して他にも2つ指摘しておきます。まず「革命」についてです。

藤村様は「商いの根幹である値決めに、革命が起きようとしている」と冒頭で打ち出しています。基本的に「革命」を使うのはお薦めしません。特集を盛り上げたいのは分かりますが、「革命」を打ち出した企画で「確かに革命だな」と感じた記憶がほとんどありません。

日本経済新聞の正月企画に顕著ですが、「革命」という言葉は多くの場合「それほど凄いことは起きていないが、何とか盛り上げて書きたい」という作り手の気持ちの表れです。今回の「ダイナミック・プライシング」も「それほど新しい動きではない」と藤村様自身が認識しているのが記事から伝わってきます。そこを無理して「革命」に見せる必要はないのです。かえって説得力がなくなります。

また、「『一物一価の原則』が通用しない時代が目前に迫っている」との説明にも問題を感じました。今は「『一物一価の原則』が通用する時代」と言えますか。個人的には「『一物一価の原則』が通用する時代」を経験したことがありません。

今が「『一物一価の原則』が通用する時代」ならば、同じ銘柄のペットボトル飲料はコンビニでもスーパーでもドラッグストアでも同じ価格で売られているはずです。しかし、そうはなっていません。かなりの価格差があります。

ブリタニカ国際大百科事典 によると「一物一価の法則」は「完全競争市場の成立」を前提としており「財の移動やサービスの提供に物理的・人為的制約がないこと」が求められます。そうした条件を満たして「一物一価の法則」を具現化した時代があったでしょうか。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。注文ばかり付けましたが、特集自体は興味深く読めました。今後に期待しています。


【日経BP社の回答】

日経ビジネスをご購読頂きまして誠にありがとうございます。メールでご指摘頂いた点につきまして、お答えさせていただきます。

(1)居酒屋について

確かにご指摘の通り、居酒屋では「ハッピーアワー」などで値段が変動するケースはあります。ただしホテル料金とは違い、2倍や3倍に価格が上下するのはまれかと思います。星野代表はそうした点を考慮して、「値段が変わることはない」と述べたのだと考えます。編集部として補足すべきだったかもしれませんが、読みやすさを重視して発言をより忠実に再現しました。

(2)ホテルは休日が高い

厚生労働省がまとめた「平成30年就労条件総合調査」によると、日本企業の 84.1%は
「何らかの週休2日制」を採用しています。業種・業態によって休みの 曜日は異なりますが、日本では土曜日と日曜日を「休日」と考えるのが一般的でしょう。その場合、「休前日」は金曜日と土曜日のことを意味します。メールでは「休日=日曜」と限定していらっしゃいますが、週休1日制を採用する企業は8.9%のみ(同調査)です。土曜日は「休日」であるのと同時に「休前日」でもあります。金曜日は「休前日」であり「平日」です。
ただ、「休日や休前日になると高くなり」という表現が言葉足らずだった点は否めません。

内容としては以上の通りですが、誤解を受ける可能性を少なくするため、より丁寧に説明するべきだったと考えております。ご期待にお応えできるよう、真摯に受け止め、今後はより正確な表現になるよう心がけたいと思います。

◇   ◇   ◇

上記の回答に関して補足してコメントしたい。

まず「読みやすさを重視して発言をより忠実に再現しました」との弁明は無理がある。「居酒屋でビールを飲んでもマクドナルドでハンバーガーを食べても、曜日や時間帯で値段が変わることはない」という発言を「マクドナルドでハンバーガーを食べても、曜日や時間帯で値段が変わることはない」と修正すれば済む話だ。その方が「読みやす」いとも言える。「居酒屋でビール」は今回のインタビュー記事に必須の要素ではない。

次に「一般的」にはいつが「平日」「休前日」「休日」かについてだ。今回の場合、ホテル予約に関しての「一般的」を考えるべきだ。例えばJTBでは「休前日=祝祭日の前日と土曜日」「休日=休前日以外の日曜日と祝祭日」「平日=休前日・休日以外の月~金曜日」としている。これに従えば、祝日を考慮しない場合に金曜は「休前日」とは言えない。

百歩譲って金曜が「休前日」だとしても、日経BP社の回答にあるように「金曜日は『休前日』であり『平日』」となってしまう。そう認識しているのに「ホテルは休日や休前日になると高くなり、反対に平日になると安くなるのが当たり前だ」と書いたのならば、わざと読者を惑わせる書き方をしたと言われても仕方がない。実際は、あまり深く考えずに書いてしまっただけだと思うが…。

また、記事では「休日や休前日になると高く」なると書いているので、日曜も「高く」なる必要があるが、現実はそうなっていない。今回の回答では、その問題にも上手く答えられていない。


※今回取り上げた特集「ダイナミック・プライシング~買わせる時価、買いたい時価
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00059/


※記事の評価はD(問題あり)。藤村広平記者への評価はDで確定させる。藤村記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

読むに値しない日経ビジネス藤村広平記者の「時事深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_30.html

瑣末な問題あるが日経ビジネス「コンビニ大試練」を高評価
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_28.html

Jフロントは保育事業に参入済み? 日経ビジネスの見解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_12.html

「減り続けるATM」に無理がある日経ビジネス藤村広平記者
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/atm.html

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