2019年3月6日水曜日

「自動車産業のアライアンス」に関する日経 中山淳史氏の誤解

日本経済新聞の中山淳史氏(肩書は本社コメンテーター)が6日の朝刊オピニオン面に書いた「Deep Insight~日産・ルノー、脱国益への道」という記事は問題が多かった。誤りと思える記述もあったので、以下の内容で問い合わせを送っている。
ホテルモントレ長崎(長崎市)
      ※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 中山淳史様

6日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~日産・ルノー、脱国益への道」という記事についてお尋ねします。記事中には「リーマン・ショック以降、自動車産業を見渡せば、国家を超えて企業と企業が成長を模索するアライアンスの取り組みは、日産とルノーだけになっている」との記述があります。しかし「国家を超えて企業と企業が成長を模索するアライアンスの取り組み」はいくつもあります。それは日経の記事からも明らかです。

中国・吉利、マレーシア・プロトンに49%出資」という2017年5月25日付の記事では「中国の自動車大手、吉利汽車の親会社である浙江吉利控股集団は24日、マレーシアの同業、プロトン・ホールディングスの株式の49.9%を取得すると発表した。プロトンが持つ英高級車ロータスの株式51%も譲り受ける」と報じています。「吉利は10年に米フォード・モーターからボルボ・カーを買収」「東南アジアでは、中国自動車大手の上海汽車集団がすでにタイ財閥のチャロン・ポカパン(CP)グループと合弁生産に乗り出している」との記述もあります。

他にも、英国のジャガー・ランドローバーを傘下に持つインド自動車大手タタ・モーターズの例もあります。「リーマン・ショック以降、自動車産業を見渡せば、国家を超えて企業と企業が成長を模索するアライアンスの取り組みは、日産とルノーだけになっている」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

ついでに記事の書き方にも注文を付けておきます。気になったのは「経営統合を進めたいルノーは資本の論理にあらがい、言うことを聞かない日産にいらだってきた」という記述です。素直に読むと「資本の論理にあらが」っているのは「ルノー」になります。しかし中山様は「経営統合を進めたいルノーは『資本の論理にあらがい、言うことを聞かない日産』にいらだってきた」と伝えたいのでしょう。その場合、書き方を見直す必要があります。

例えば「経営統合を進めたいルノーは、資本の論理にあらがい言うことを聞かない日産にいらだってきた」と読点の位置を変えるだけでも問題はかなり解消します。中山様は記者の手本となる記事を書くべき立場にあるはずです。細心の注意を払って記事を仕上げてください。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

記事には他にも問題を感じた。そのくだりを見ていこう。

【日経の記事】

疑心暗鬼をぬぐうのはそう難しいこととは思わない。例えば、ルノーの最大株主の仏政府が、保有する同社株式を完全に手放すか、大幅に売却する。それが実現するだけで、日産とルノーの距離はぐっと縮まるだろう

中略)日産の少数株主はもっと主張すべきだ。親子上場は日本でまだ多くの事例があるが、利益相反やガバナンス(企業統治)への懸念から米国や英国ではほぼ消滅した。そうした経営構造や慣行はできるだけ早く改善する必要があり、まず検討すべきは仏政府がルノーの経営から身を引くことだ


◎どう理解すべき?

常識的な線で「日産はルノーの支配を受け入れたくない」との前提で考えてみよう。経営統合を求める「仏政府」がルノーの「株式を完全に手放すか、大幅に売却する」と「日産とルノーの距離はぐっと縮まる」かもしれない。これは分かる。

ただ、「親子上場」的な今の状況を「改善する」方向に動くとは考えにくい。「上場」を一本化するならば、ルノーが日産を完全子会社化するような形になるだろう。しかし、それでは「ルノーの支配を受け入れたくない」という意思に反してしまうので、そうした動きが浮上した時点で「日産とルノーの距離」は離れてしまう。

「日産はルノーの支配を受け入れてもよい」との前提で考えれば、「親子上場」的な状況の解消は難しくないが、だったら「仏政府がルノーの経営から身を引く」必要性は乏しい。

親子上場」的な状況の解消に関して、日産がルノーを子会社化するのであれば「仏政府がルノーの経営から身を引く」必要はあるかもしれない。だが、今の資本関係から考えて日産がルノーを傘下に置く可能性は非常に低い。日産がそうした意思を鮮明にした場合「日産とルノーの距離」はやはり離れてしまいそうだ。

仏政府がルノーの経営から身を引く」→「『親子上場』的な状況の解消」という道筋はいずれにしても理解に苦しむ。中山氏の分析がおかしいのか、自分の読解力が低いのか…。


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~日産・ルノー、脱国益への道
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190306&ng=DGKKZO42000380U9A300C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。中山淳史氏への評価もDを据え置く。中山氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経「企業統治の意志問う」で中山淳史編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_39.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_8.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_87.html

三菱自動車を論じる日経 中山淳史編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_24.html

「増税再延期を問う」でも問題多い日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_4.html

「内向く世界」をほぼ論じない日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_27.html

日経 中山淳史編集委員「トランプの米国(4)」に問題あり
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_24.html

ファイザーの研究開発費は「1兆円」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_16.html

「統治不全」が苦しい日経 中山淳史氏「東芝解体~迷走の果て」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post.html

シリコンバレーは「市」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_5.html

欧州の歴史を誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/deep-insight.html

日経 中山淳史氏は「プラットフォーマー」を誤解?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post.html

ゴーン氏の「悪い噂」を日経 中山淳史氏はまさか放置?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_21.html

GAFAへの誤解が見える日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/gafa-deep-insight.html

日産のガバナンス「機能不全」に根拠乏しい日経 中山淳史氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_31.html

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