2019年3月16日土曜日

「日本の部長、データを学べ」に説得力欠く日経 村山恵一氏

日本経済新聞の村山恵一氏は「本社コメンテーター」の肩書を持つ書き手の中で最も不安要素が少ないと評価してきた。しかし15日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~日本の部長、データを学べ」という記事は問題が多かった。まず冒頭部分から見ていこう。
玄海エネルギーパーク観賞用温室(佐賀県玄海町)
           ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

米IT(情報技術)企業群、GAFAに対するデータ独占批判が世界的に高まっている。米国では一部の政治家が会社分割さえ叫ぶ。中国勢のBATを含め、大量の個人データを集めてデータサイエンスを駆使するプラットフォーマーの存在感は、確かに大きい。



◎GAFAがデータ独占?

これまで何度も指摘してきたが「GAFA」を「連携して動く企業グループ」と見なしたとしても「データ独占」はあり得ない。「中国勢のBATを含め、大量の個人データを集めてデータサイエンスを駆使するプラットフォーマーの存在感は、確かに大きい」と村山氏も書いている。ならば「中国勢のBAT」もかなりの「データ」を有しているはずだ。

デジタルデータに限っても、4社による「データ独占」などできるはずがない。「データ独占批判が世界的に高まっている」のだとしたら、誤解に基づく「批判」に過ぎない。

さて、今回の主要テーマは「日本の部長、データを学べ」だ。しかし、どうも話が苦しい。

【日経の記事】

では、肝心の産業界はどうか。データ人材が存分に能力を発揮できるデジタル文化が企業に根づいていなければ意味がない。

大企業の中間管理職にパッションがない。このままではだめとわかっているが、学び直す勇気がない」。デジタルハリウッド大学の杉山知之学長は話す。この15年でデジハリでITを学ぶ社会人は多業種に広がったが、世の中を見渡せば、なお少数派だ。データ経営のけん引役となるべき部長や課長がブレーキでは困る。

成長する世界のIT市場で日本企業のシェアは低落傾向にある。各種の調査を見ても、AI導入に消極的な企業が多い。経営者の責任は重大だが、多くのミドルの不作為も否定できないと思える



◎「ITを学ぶ=データを学ぶ」?

大企業の中間管理職」に「学び直す勇気がない」としよう。何を「学び直す」かというと「IT」のようだ。「ITを学ぶ=データを学ぶ」ではないはずだ。もちろん重なる部分はあるが、どうも話が噛み合っていない。
浜離宮恩賜庭園(東京都中央区)
       ※写真と本文は無関係です

また「ITを学び直す勇気がない=データ経営に消極的」とも言い切れない。「自分ではやりたくないが、部下がやってくれるなら大歓迎」という人は当たり前にいるだろう。

多くのミドルの不作為も否定できないと思える」と村山氏は言うが、「ミドルの不作為」が本当にあるのか何の根拠も示していない。村山氏の想像の域を出ていないのだろう。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

そうしたなか、ようやくと言うべきか。CD販売のタワーレコードが来月、ITを使いこなす人材の育成事業を始める。大量のデータを高速処理できる5Gの登場でライブや配信など娯楽も変わる。音楽に関わる人たちを鍛え業界のデジタル感度を上げる



◎あまり関係ないような…

そうしたなか、ようやくと言うべきか」と書いてあるので「タワーレコード」が始める「人材の育成事業」は「ミドル」が「データ」を学ぶものかと思ってしまう。しかし、「ミドル」に絞ったものでも「データ」に絞ったものでもないようだ。

ITを使いこなす人材の育成事業を始める」だけで、なぜ「ようやくと言うべきか」と感じたのか。「音楽に関わる人たちを鍛え業界のデジタル感度を上げる」ものならば、そもそも「音楽」に関係ない「ミドル」は対象外だ。「データ人材」を「育成」するのかも微妙だ。

日本全体でデータサイエンスの水準を引き上げられれば、世界をあっと言わせる起業家やスタートアップを輩出しやすい土壌が生まれる」という村山氏の主張に異論はない。しかし大企業の「ミドル」に「データ」を学ばせたがる気持ちが理解できない。

ミドル」の「学び直し」によって「自分の仕事の質が高まり、年若い部下との会話が円滑になり的外れな意思決定も減る」と言うが、それによって「世界をあっと言わせる起業家やスタートアップを輩出しやすい土壌が生まれる」とは思えない。

大企業の中間管理職」自身が「世界をあっと言わせる起業家」になる可能性は非常に低い。今は大企業にいる若手社員から「世界をあっと言わせる起業家」を輩出したいという話ならば、大企業は「データ経営」に消極的な方が好ましい。大企業に不満を持った人材がどんどん「起業」に踏み切れば「世界をあっと言わせる起業家やスタートアップを輩出しやすい土壌が生まれる」。

村山氏も書きたいことが尽きてきたのだろうか。少し心配になる記事だった。


※「Deep Insight~日本の部長、データを学べ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190315&ng=DGKKZO42465450U9A310C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。村山恵一氏への評価はC(平均的)を据え置くが、弱含みとする。

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