2016年9月13日火曜日

肝心なことが抜けた日経「保険販売、手数料が高騰」

「着眼点は悪くないのに肝心なことが抜けている記事」と言えばいいのだろうか。13日の日本経済新聞朝刊経済面に載った「保険販売、手数料が高騰 初年度『100%』の異常値も 保険ショップに生保が支払い」は惜しい内容だった。保険ショップが受け取る販売手数料について「高騰している」と冒頭で述べているのに、過去と比べてどの程度の「高騰」なのか筆者の渡辺淳記者は教えてくれない。
青の洞門(大分県中津市) ※写真と本文は無関係です

記事の前半部分を見ていこう。

【日経の記事】

いろいろな保険会社の商品を取り扱う保険ショップが、商品を売るごとに生命保険会社から受け取る販売手数料が高騰している。契約者が年間支払う保険料の合計額に対する手数料の比率は60~90%もざらで、100%に達する例もある。銀行で始まった保険の販売手数料開示の流れが広がるきっかけになりそうだ。

 「販売手数料100%」――。ある保険会社が保険ショップに示した書類には、50歳未満の来店客に保険料の払込期間が30年以上の医療保険を売れば、年間の保険料に相当する金額を手数料として支払うと記されている。

月々の保険料が3000円なら年3万6000円を支払う計算。契約者が50~59歳なら92%、60歳以上だと66%に下がる。一概に比べられないが投資信託の販売手数料は約2%、自動車・火災保険でも15~20%程度とされる。

ただこの取り決めは初年度に限られる。保険ショップが得る手数料は、次年度からは保険料年額の2~5%程度に落ち着く。生保は契約時の高い手数料で保険ショップの“売る気”を引き出し、長期にわたって受け取る契約者からの保険料で、初年度の持ち出し分を回収するしくみだ。

ある業界関係者は「100%は破格だが、60~90%に設定している保険会社は少なくない」と明かす。ほかにも生保が販売に力を入れる11月や年度末の3月になると「キャンペーン」と称した手数料の上乗せもある。

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やはり、手数料の相場が本当に「高騰している」かどうかは読み取れない。他にも上記のくだりでいくつか指摘しておこう。まず「いろいろな保険会社の商品を取り扱う保険ショップが、商品を売るごとに生命保険会社から受け取る販売手数料が高騰している」という文は読点の使い方が上手くない。この書き方だと「保険ショップが高騰している」と解釈したくなる。読点はない方がまだいい。ただ、それでは読みづらいので改善例を示してみたい。

【改善例】

いろいろな保険会社の商品を取り扱う保険ショップに対し販売実績に応じて生命保険会社が支払う販売手数料が高騰している。

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また、記事では「生保は契約時の高い手数料で保険ショップの“売る気”を引き出し、長期にわたって受け取る契約者からの保険料で、初年度の持ち出し分を回収するしくみだ」と書いている。なぜ「初年度の持ち出し」が発生するのだろうか。手数料率が100%だとしても、それだけならばギリギリで「持ち出し」にはならない。経費を含めると初年度は赤字だとは思うが、「持ち出し」であれば手数料率で100%を超えてほしい。

記事の後半部分も注文なしとしない。

【日経の記事】

手数料競争が過熱している背景にあるのは保険ショップの普及だ今や国内2000店を超え、生保販売の1割強を占める有力な販売チャネルに育っており、生保には無視できない存在になっている。多様な商品を取りそろえる保険ショップで自社商品を販売員に勧めてもらうのは至難の業。商品でなかなか違いを打ち出すのが難しいなか、手数料を他社より高めに設定するのが販売員の目を引く早道というわけだ

「高額の手数料を受け取れる保険商品ばかり勧められているのではないか」。保険加入のために来店した顧客の意向をくみ、必要な情報を提供するよう義務づけた改正保険業法が5月末に施行された背景には、消費者側のこんな不信感があった。別の関係者は「もちろん販売側に原因はあるが、手数料漬けにした保険会社にだって非はある」と批判する。

銀行については外貨建て保険や変額年金などの運用型商品で保険会社が支払う手数料を10月から開示する動きが広がりつつある。不透明な手数料を明らかにしようとする流れは、がん保険や医療保険を取り扱う保険ショップにおよぶのではないか。そう身構える関係者が増えている。

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手数料が「高騰」している理由の説明も今一つだ。「商品でなかなか違いを打ち出すのが難しいなか、手数料を他社より高めに設定するのが販売員の目を引く早道」というのは以前から変わっていないはずだ。ここにきて手数料が高くなる理由にはならない。

保険ショップの普及」も手数料上昇の理由になるかどうかは微妙だ。普及の過程でショップ経営の巨大企業が育ってくれば、保険会社との力関係が強くなることはあるだろう。ただ、店舗数が増える中でショップ間の競争が激化する場合、「販売手数料は低くてもいいから保険を扱わせてほしい」という動きが出てもおかしくない。記事からは、その辺りの事情が読み取れない。


※記事の評価はD(問題あり)。渡辺淳記者への評価も暫定でDとする。ただ、記事全体から渡辺記者の持つ問題意識は伝わってきた。後は書き手としての技術をしっかりと身に付けてほしい。そうすれば、レベルの高い記事を生み出せるはずだ。

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