2016年9月18日日曜日

日経企業面「国内フォークリフト大手」まとめの問題山積

日本経済新聞の企業報道部は「まとめ物」の記事を作るのが苦手だ。18日の朝刊企業面「国内フォークリフト大手 新興国市場に照準 豊田織機など」という記事も問題山積だった。そもそも「まとめる」だけの事実がないのに、強引に仕上げてしまっている印象を受ける。
角島大橋(山口県下関市) ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】 

国内のフォークリフト大手が新興国市場の開拓を進める。豊田自動織機は傘下の台湾メーカーの製品を販売する地域を広げ、販売台数を2020年に現在の2倍以上に増やす。三菱重工業は傘下企業の事業を再編・統合し、東南アジアと中国で事業基盤を固める。フォークリフトは日本メーカーが世界シェアの3分の1を握る。成長市場を取り込み、競争力を維持する。

世界最大手の豊田織機は、15年に傘下に収めた台湾のタイリフトが生産する価格競争力が高い製品をインド、アフリカ、東南アジアで販売する方針だ。各地で製品の実証試験を始めた。現在、タイリフト製品の市場は台湾と中国にほぼ限られているが、拡大する

各地で豊田織機の販売網を活用し、傘下に新たにタイリフト製品の販売会社を設立することも検討する。タイリフト製品の販売台数は15年に1万台弱だったが、20年には2万~3万台に増やす。20年にグループの世界シェアを25%まで高める。

三菱重工は傘下のニチユ三菱フォークリフトやユニキャリアホールディングスの事業を再編する。ニチユ三菱はシンガポールで旧三菱重工系と旧ニチユ系の販売統括会社を統合同国やマレーシア、豪州で販売網を一本化する。製品を増やすほか、重複機能を省きコストを下げる。

今春に加わったユニキャリアとの間でも再編を進める生産・販売拠点を統廃合し、調達も一本化する方針で、約10%の世界シェアを積み増す

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問題点を列挙してみる。

◎2社だけで「まとめ」?

国内のフォークリフト大手が新興国市場の開拓を進める」という話でまとめるのであれば、「国内のフォークリフト大手」が最低でも3社は欲しい。しかし、今回の記事に出てくるのは「豊田自動織機」と「三菱重工業」だけだ。これでは苦しい。どうしても2社で記事を仕上げるならば、書き出しは「国内のフォークリフト大手の豊田自動織機と三菱重工業が新興国市場の開拓を進める」などとして、2社に絞った話だと明示してほしい。


◎三菱重工は「新興国市場に照準」?

三菱重工の事例は「新興国市場に照準」とか「新興国市場の開拓を進める」といった類の話には見えない。本来ならば、新興国を重点的に攻めるような事例が要る。ところが、出てくるのが「販売網を一本化」とか「生産・販売拠点を統廃合」といった内容だ。「新興国市場の開拓を進める」ことと無関係とは言わないが、かなり苦しい。

三菱重工に関しては、最初の段落で「東南アジアと中国で事業基盤を固める」と書いているが、読み進めると「同国(シンガポール)やマレーシア、豪州で販売網を一本化する」となり、話が噛み合わなくなってくる。これでは「東南アジアと豪州で事業基盤を固める」だろう。ただ、「豪州」は「新興国」とは考えにくいので、記事の趣旨と合わなくなってしまう。


◎「When」が抜け過ぎ

日経の企業関連記事の悪しき伝統とも言える「When抜き」が、今回も複数ある。「世界最大手の豊田織機は、15年に傘下に収めた台湾のタイリフトが生産する価格競争力が高い製品をインド、アフリカ、東南アジアで販売する方針だ」と書いているが、いつから「販売する方針」なのかは不明だ。

ニチユ三菱はシンガポールで旧三菱重工系と旧ニチユ系の販売統括会社を統合、同国やマレーシア、豪州で販売網を一本化する」件についても、時期を教えてくれない。「(ユニキャリアとの間で)生産・販売拠点を統廃合し、調達も一本化する」のも、いつからかは謎だ。


◎直近の数字がないと…

20年にグループの世界シェアを25%まで高める」と言われても、現状がどうなっているかが分からないと辛い。「10%→25%」と「22%→25%」では、なかり印象が違ってくるはずだ。

約10%の世界シェアを積み増す」も分かりにくい。現状の世界シェアが「約10%」で、それを「積み増す」とも解釈できるが、世界シェア10%分を今のシェアに「積み増す」と言いたいのかもしれない。前者の可能性が高そうだが、どちらかだと断定できる材料は記事中にはない。


今回の記事では、まず豊田自動織機の話を取材してきて、その後に「同業他社の動向も加えて、まとめ物に仕上げよう」と考えたのだろう。しかし、使える事例が見当たらず、「使いにくい事例」でさえも三菱重工ぐらいしかなかったのではないか。それでも強引に「まとめ物」にしたのが、この記事の苦しさの源だと思える。


※記事の評価はD(問題あり)。

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