2016年9月4日日曜日

伊藤忠「ペルー産高級綿」の記事に映る日経の基礎力不足

日本経済新聞の企業関連記事は総じて完成度が低い。その最大の原因は、日経産業新聞と日経MJの存在だと見ている。日経の企業報道部に配属された記者は、まずこの2紙の紙面を「埋める」ことを求められる。恒常的に記事が足りないので、要点を簡潔にまとめた記事よりも、中身の乏しいニュースでもダラダラと行数を稼いだ記事の方が喜ばれたりもする。なので、どうしても「粗製乱造」の傾向が出てきてしまう。

石橋文化センター(福岡県久留米市)
           ※写真と本文は無関係です
しかも、記事のチェック役であるデスクの多くが長年この「粗製乱造」文化の中で生きているので、まともな指導力は期待しにくい。「基礎が身に付いてないなぁ…」と嘆きたくなる記事が4日の日本経済新聞朝刊企業面にも出ていた。その「伊藤忠、ペルー産の高級綿使った生地を日本で生産」という記事の全文をまずは見てほしい。

【日経の記事】 

伊藤忠商事はペルー産の高級綿「ペルヴィアンピマコットン」を使った生地を日本で生産する。日本の産地と協力し、従来の生地とは異なる風合いや肌触りに仕上げ、中国で生産してきた既存品との違いを打ち出す。国内外のセレクトショップなどに売り込み、ペルー高級綿の取り扱いを数年内に年600トンと2015年度の3倍に増やす

ニットでは山形県や新潟県、カットソーでは和歌山県など編み物・織物の有力産地と協力する。産地ごとに編み方や織り方が異なるため、同じ素材でも風合いや肌触りに違いが出る。産地との連携で生地の付加価値を高めて、個性的な商品を求めるセレクトショップなどの需要を開拓する

日本で生産した生地を使い、ベトナムで縫製。衣服などの最終製品を日本に持ち込み、セレクトショップなどに売る

----------------------------------------

記事の問題点を列挙してみる。

◎「When」がない

伊藤忠商事はペルー産の高級綿『ペルヴィアンピマコットン』を使った生地を日本で生産する」と冒頭で書いているのに、最後まで読んでも日本でいつから生産するのか分からない。この「When抜き」は日経の企業面では当たり前で、もはや“伝統”と言ってもいい。ニュース記事の書き方の基礎が身に付いていれば、この手の記事で「When」を抜くようなヘマはまずしない。


◎説明がダブり過ぎ

国内外のセレクトショップなどに売り込み」「個性的な商品を求めるセレクトショップなどの需要を開拓する」「セレクトショップなどに売る」と「セレクトショップ」に絡んだ似たような説明が3回も出てくる。これは明らかにダブり過ぎだ。短い記事でこれだけダブらせると、伝えられる情報がかなり少なくなってしまう。


◎国内生産の規模は?

ペルー高級綿の取り扱いを数年内に年600トンと2015年度の3倍に増やす」という情報はあってもいい。だが、記事の柱は「ペルー産の高級綿使った生地を日本で生産」のはずだ。だったら、日本での生産がどの程度の規模になるのかを優先して伝えるべきだ。

これまでは中国で全量を生産していたとして、それを全て日本での生産に切り替えるのか、ごく一部を日本で生産するだけなのかが分からないと、このニュースの持つ意味を読者は判断しにくい。その辺りの情報も盛り込みたいところだ。

また、日本での生産に切り替えるとコストが上昇するはずだ。この点も、できれば触れてほしかった。


※記事の評価はD(問題あり)。「日経の粗製乱造文化の中で記事の書き方の基礎を身に付けるのは至難だ」と企業報道部の記者(特に若手)は肝に銘じてほしい。

0 件のコメント:

コメントを投稿