2016年9月15日木曜日

日経1面「三菱商事、ローソンを子会社化」に欠けた視点

15日に日本経済新聞朝刊1面のトップを飾った「三菱商事、ローソンを子会社化 TOB検討 1400億円超、コンビニ2強追う」という記事は腑に落ちない内容だった。子会社化の理由について「ローソンをてこ入れする」などと書いているが、ローソンを助けるためだけならば、TOBによる子会社化は必要ないし、役に立ちそうもない。
福沢諭吉旧居(大分県中津市) ※写真と本文は無関係です

記事の中身を見ていこう。

【日経の記事】

三菱商事はコンビニエンスストア3位のローソンを子会社化する。TOB(株式公開買い付け)を実施、出資比率を現在の33%から51%に高めることを検討している。買収額は少なくとも1400億円を超える。三菱商事は食材など世界的な調達網を生かしてローソンの商品力を強化すると同時に、電力小売りや金融などのサービスも共同展開し上位2社を追う体制を整える

コンビニ業界では、1日にファミリーマートとユニーグループ・ホールディングスが経営統合して、ローソンを売上高で抜いて2位に浮上した。圧倒的な強さを見せる業界首位のセブン―イレブン・ジャパンとの差も開きつつある。三菱商事はローソンへの経営関与を強めて巻き返しを急ぐ

三菱商事はファイナンシャルアドバイザー(FA)を選定して検討を進めており、週内にも正式決定する可能性がある。ローソンの14日の株価(終値)は7410円。プレミアムを上乗せした価格で市場から買い集める。第三者割当増資と組み合わせる可能性もある。早ければ年内に子会社化の手続きを済ませる見通し。

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TOBに1400億円超を投じても、ローソンにカネが入るわけではない。「第三者割当増資と組み合わせる可能性もある」ので、実際には多少入ってくるかもしれないが、資金面での支援が目的とは考えにくい。

食材など世界的な調達網を生かしてローソンの商品力を強化すると同時に、電力小売りや金融などのサービスも共同展開」したいのならば、今の出資比率でも問題なくできる。ローソンが三菱商事との協力に難色を示している場合は「経営関与を強めて巻き返しを急ぐ」のも分かるが、そういう状況でもなさそうだ。企業面の関連記事での「16年6月には三菱商事出身の竹増貞信氏が社長に就任。三菱商事から多数の社員も出向していたが、さらに結びつきを強める」との説明からも問題のない関係が窺える。

記事の後半部分にも色々と子会社化後の強化策が出てくるが、どれもTOBによる子会社化が必要そうには見えない。

【日経の記事】

三菱商事は2012年に約4200億円を投じてチリの銅鉱山の権益を取得した。近年では、これに次ぐ大型投資となる。

三菱商事は子会社化することで、店舗数で業界3位に転落したローソンをてこ入れする。現在は店の1日当たりの売上高は平均50万円台半ばで、業界首位のセブンイレブンに比べ1割強少ない。収益力で2強に追いつくためには、商品力強化とともに、各店舗の経営管理など三菱商事の資金力やノウハウが必要と判断したもようだ

具体的には、三菱商事は出資する食品メーカーや弁当・総菜などの生産委託業者との連携を強化して、ローソン向けの専用工場を増やし商品力を高める。振り込みなど決済サービスを中心にした金融事業も強化するほか、割安な電力プランの店頭での取り次ぎなども強化してローソンの集客力を高める

経営を担う人材の派遣もこれまで以上に増やす。食材や物品の調達ノウハウなどを各販売店に指導するほか、上位2社に比べ遅れている海外展開についても三菱商事の人材を活用する

 将来的にはローソンとスーパーとの連携もめざす。三菱商事は約2割出資するライフコーポレーションをはじめ、北海道・東北の大手スーパーのアークスなどに社員を出向させている。こうしたスーパーの人気商品を採用したり、商品や物流の相互活用などを検討したりする見通し。調剤薬局やドラッグストアとの融合や介護施設との連携も深めていく考えだ。

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出資する食品メーカーや弁当・総菜などの生産委託業者との連携を強化して、ローソン向けの専用工場を増やし商品力を高める」のに子会社化が必要だろうか。「振り込みなど決済サービスを中心にした金融事業も強化するほか、割安な電力プランの店頭での取り次ぎなども強化してローソンの集客力を高める」場合はどうだろうか。いずれも出資比率33%のままで問題なく進められる。「ローソンとスーパーとの連携」もそうだ。

企業面の関連記事「三菱商事、グループ力結集  ローソンを子会社化へ 海外出店拡大に弾み」の解説にも同様の疑問が残る。

【日経の記事】

三菱商事による子会社化で弾みが付きそうなのが、これまで出遅れてきた海外への出店だ。ローソンは海外では中国を中心に8月末で926店舗を展開する。海外で約4万店舗のセブンイレブン、6千店舗超のファミマには大きく見劣りする。

ローソンは今年7月には中国・上海で記者会見を開き、竹増社長が20年までに海外店舗数を最大で5千店に引き上げる目標をぶち上げた。中国で3千店体制を築くほか、ベトナムへの進出も検討する。

海外での出店拡大には店長などの人材のほか、現地での取引先の開拓など課題も多い。

今後は三菱商事が海外で持つ幅広い事業拠点や人材と連携して目標達成に弾みを付ける見通しだ。

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なぜ子会社化によって「海外への出店」に弾みが付くのか理解できない。「今後は三菱商事が海外で持つ幅広い事業拠点や人材と連携して目標達成に弾みを付ける見通し」と言うが、三菱商事とローソンにその気があるのならば、子会社化しなくても「連携」はできる。繰り返すが、TOBでの子会社化ならばローソンにカネは入らない。海外出店の拡大に向けたローソンの資金不足解消が狙いならば、子会社化するにしても増資が柱になるはずだ。

素直に考えれば、三菱商事は関連会社のローソンを子会社化することで自社の連結業績により大きく貢献させようとしているのだろう。だが、日経の記事では三菱商事側の視点が欠けている。ネタ元に遠慮してあえて書かなかったのかもしれないが…。

ちなみに1面には「商社はコンビニとの関係を深める」とのタイトルが付いた図が載っている。「三菱商事→ローソン」は出資比率が「33.4→51」なので分かる。だが「伊藤忠商事→ユニー・ファミリーマートHD」は「33.4%」で変化なしだ。「三井物産→セブン&アイHD」に至っては、変化なしで出資比率もわずか「1.8%」。これを基に「商社はコンビニとの関係を深める」と言われても説得力はない。

1面の記事でもう1つ。「現在は店の1日当たりの売上高は平均50万円台半ばで、業界首位のセブンイレブンに比べ1割強少ない。収益力で2強に追いつくためには、商品力強化とともに、各店舗の経営管理など三菱商事の資金力やノウハウが必要と判断したもようだ」との説明も気になった。

この書き方だと「店の1日当たりの売上高」でローソンは「2強」に劣っているような印象を受ける。しかし、ローソンはファミリーマートやサークルKサンクスより「店の1日当たりの売上高」で上回っているはずだ。

さらに言えば、「収益力で2強に追いつくためには、商品力強化とともに、各店舗の経営管理など三菱商事の資金力やノウハウが必要と判断したもようだ」という部分はやや意味不明だ。筆者の意図を推測した上で、改善例を作ってみた。

【改善例】

収益力で2強に追いつくためには、三菱商事の資金力やノウハウを生かして各店舗の経営管理や商品力などを強化する必要があると判断したもようだ。

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最後に、文の作り方で助言しておきたい。1面の記事の以下のくだりは「強化」を繰り返しているところが上手くない。改善例と併せて見てほしい。

【日経の記事】

振り込みなど決済サービスを中心にした金融事業も強化するほか、割安な電力プランの店頭での取り次ぎなども強化してローソンの集客力を高める。

【改善例1】

振り込みなど決済サービスを中心にした金融事業のほか、割安な電力プランの店頭での取り次ぎなども強化してローソンの集客力を高める。

【改善例2】

振り込みなど決済サービスを中心にした金融事業も強化するほか、割安な電力プランの店頭での取り次ぎなども増やしてローソンの集客力を高める。

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※関連記事も含めて記事の評価はD(問題あり)。いずれ発表になるネタを事前に書くのは「百害に対して一利しかない」と判断しているので、発表前に書いた点はプラスに評価していない。

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