2016年9月22日木曜日

日銀「総括的検証」発表後の日経朝刊に感じる物足りなさ

日銀による「総括的な検証」の公表を受けて、22日の日本経済新聞朝刊ではこの問題を大きく取り上げている。よく言えば手堅くまとまっているものの、悪く言えば当たり障りのない予定調和的な中身だった。1面の解説記事「緩和生かす構造改革を」を執筆したのは経済部の石川潤記者。「この大事な時に編集委員たちは何をしているのか」と思わなくもないが、石川記者の記事自体に大きな問題はない。とは言え、内容は「金融緩和だけではダメ。構造改革をしっかりやるべきだ」という、これまでに何度も聞いたような話だ。
水田に浮かぶ墓(福岡県うきは市) ※写真と本文は無関係です

そんなことを考えていたら、日経の電子版に「日銀、マイナス金利温存の深謀遠慮  取材班キャップ座談会」(9月22日付)という興味深い記事が目に付いた。その一部を見てみよう。ちなみに、発言の主が「日銀」となっているのは「日経の日銀キャップ」を指す。

【日経の記事】

デスク 記者会見での黒田東彦総裁は精彩を欠いた。市場が「どうせ何もできない」と足元を見透かしていて、それに対する回答としては不本意だったのでは。

日銀 たしかに黒田総裁が追い詰められている感はある。昨年12月に金融緩和の「補完措置」を打ち出したときにミソがついてしまい、黒田総裁の“オーラ”が薄れてしまった。そうなると相場が思ったように動いてくれないという悪循環に陥ってしまった。そこから抜け出すために考え出したのが7月の上場投資信託(ETF)の購入であり、今回の「サプライズなし」の政策だった気がしている。当初、マーケットを意のままに操っていた黒田総裁からすると、それがもうできず、逆にマーケットに催促される構図になっているというのはその通りだ。

デスク 負けを認めたということ

日銀 そうなんでしょう。長所であり短所でもあるが、黒田総裁は軌道修正がうまい。ここで突っ張っても負けるだけと思ったら、そこは修正するということ。

デスク リフレ派は資金供給量を2倍に増やせば期待インフレ率も高まると主張してきたが、その論理は破綻しかけていると見る向きもある

日銀 その通り。日銀の主流派はリフレ派の論理を最初から信じていなかったし、量の拡大を主張してきた岩田規久男副総裁や原田泰審議委員も今回は賛成に回っている。彼らが自ら論理の破綻を認めた結果だ。この3年半の状況を見れば認めざるを得なかったということだと思う。

デスク 日銀の事務方が今回は主張を通したということか

日銀 緩和をぶっ壊してはいけないという思いが事務方も強かったので、彼らの思い通りというと言い過ぎだが、そうした思いが黒田総裁やリフレ派を引っ張ったとは言えると思う

デスク 岩田副総裁は納得したのかな。

日銀 最終的には納得したということなんでしょう。岩田副総裁より原田審議委員の方が激しかったみたいだけど。

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今回、日銀が「総括的な検証」を発表したのだから、それを受けて日経には「総括的な検証」を総括的に検証してほしかった。紙の新聞では「新たな金融緩和の枠組み」に紙幅を割いたこともあり、「総括的な検証」に対する論評が十分ではなかった。

だが、上記の「キャップ座談会」ではかなり踏み込んだ発言が出ている。それを朝刊の紙面作りでも生かしてほしかった。例えば、「『負け』認めた黒田総裁」「リフレ派の論理破綻明らかに 事務方主導で軌道修正」といった見出しが朝刊を飾っていたら、かなり読み応えがあったはずだ。

せっかくなので朝刊1面の解説記事にもコメントしておく。

【日経の記事】

「金融政策だけではバランスの取れた成長につながらない」。欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は8日の記者会見で20カ国・地域(G20)サミットの声明を引用。構造改革こそが重要だとのメッセージを発した。

金融緩和との相乗効果を引き出す構造改革をどう進めるか。安倍政権は働き方改革を経済政策の軸に据えるが、生産性を高める抜本策を示せるかは未知数。「構造改革を引き続きしっかりやっていただきたい」。黒田総裁は21日の記者会見でこう付け加えた。

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日銀が掲げる「物価の2%目標」は「バランスの取れた成長」とは別物だ。マイナス成長下で物価上昇率が2%を超える可能性は十分にあるし、物価上昇率が1%程度のまま「バランスの取れた成長」を実現する道もある。

ECBのドラギ総裁は「バランスの取れた成長」のためには「構造改革こそが重要」と訴えたのだろう。だが、構造改革を進めれば物価上昇に結び付くわけではない。そこは分けて論じてほしい。

安倍政権は働き方改革を経済政策の軸に据えるが、生産性を高める抜本策を示せるかは未知数」と石川記者は書いている。ここからは「生産性を高める抜本策を実施すれば、2%の物価上昇が実現し、バランスの取れた成長につながる」との考えが透けて見える。

ただ、構造改革は物価を押し上げるものばかりではない。むしろ物価下落につながる可能性が高い。例えば、働き方改革を進めて、解雇規制を緩め、残業代なしでの残業を容易にしたら、物価が上がるだろうか。直接的に物価を押し上げる力はないだろう。下げる方ならば多少は期待できるが…。

日経がよく実現を訴える「規制改革」も同様だ。誰でも自由に自動車の相乗りサービスを始められるような規制緩和をしたら、タクシー料金は上がるだろうか。こうした改革が日本経済にプラスに働くとしても、物価上昇に寄与するかどうかは別だ。「日本経済にとって構造改革の推進が重要だ」と考えるのならば、「2%の物価目標にこだわるのは意味がないし、かえって有害」という結論に辿り着くのが自然だと思える。


※朝刊1面の「緩和生かす構造改革を」の評価はC(平均的)。暫定でCとしていた石川潤記者への評価はCで確定とする。同記者については日経の中でかなり優秀な書き手に入ると見ている。電子版の「キャップ座談会」への評価はB(優れている)とする。

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