2016年6月7日火曜日

週刊ダイヤモンド「縦横無尽」で櫻井よしこ氏にまた誤り?

ジャーナリストの櫻井よしこ氏が週刊ダイヤモンド6月11日号の「新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽~オバマ大統領の広島訪問で考えた 指導者の『言葉』と『行動』のギャップ」というコラムで、「冷戦後」とすべきところを「戦後」と誤ったことは既に触れた(※「週刊ダイヤモンドの記事 誤り認めた櫻井よしこ氏を評価」を参照)。ここでは、それ以外の問題を取り上げたい。
皇居の桜(東京都千代田区) ※写真と本文は無関係です

櫻井氏は「イランとの核合意」について「今後10年間はイランの核開発を止めることはできても、その後の保証はなきに等しい」と説明している。しかし、合意の有効期間は本当に「10年」なのか。まずは当該部分を見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

昨年七月に達成したイランとの核合意も問題含みだ。同合意は、今後10年間はイランの核開発を止めることはできても、その後の保証はなきに等しい。10年など歴史においては瞬時に過ぎる。その後、イランは必ず核開発の道に進む、そのための抜け道だらけなのがオバマ合意だというのが、少なからぬ専門家の分析である。

イランの核保有はサウジアラビアや他のアラブ諸国を核保有へと走らせるだろう。テロリスト勢力のIS(過激派組織「イスラム国」)などの手に核が渡る危険性も高い。近未来に中東さらに北アフリカに核が拡散すると考えなければならない。オバマ大統領の合意で、世界はそのような危険な局面に立たされている。

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この問題に関して、櫻井よしこ氏のホームページを通じ以下の問い合わせをした。

【櫻井よしこ氏への問い合わせ】

週刊ダイヤモンド6月11日号の「オピニオン縦横無尽」に関する私からの質問に丁寧な回答を頂き、ありがとうございます。これで終わりにしたいところですが、もう1点だけ誤りではないかとの記述があったので、改めて問い合わせさせていただきます。

問題となるのは「昨年7月に達成したイランとの核合意も問題含みだ。同合意は、今後10年間はイランの核開発を止めることはできても、その後の保証はなきに等しい」というくだりです。ここからは合意の有効期間は「10年」と解釈できます。しかし、実際にはもっと長いのではありませんか。

イランとの最終合意を報じた2015年7月14日付の日経の記事では「イランは15年以上にわたり、核兵器向けの高濃縮ウランやプルトニウムを製造・取得しないと約束した」と説明しています。

同日付のロイターの記事では、最終合意の内容について「具体的には、1)遠心分離器を3分の1に縮小、2)ウラン濃縮度は15年間で3.67%以下に制限、3)濃縮ウラン保有量は15年間で300キログラム以下に制限、4)ウラニウム研究開発は15年間ナタンツ施設に限定、5)兵器級プルトニウムの生産禁止──など」と書いています。

これらの報道から考えると、合意が順守された場合に「イランの核開発を止めること」ができる期間を「10年」と断定するのは無理があります。あえて期間を明示するならば「15年」でしょう。

記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。正しいとすれば、その根拠も併せて教えてください。お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願いします。

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ほぼ同じ内容の問い合わせを週刊ダイヤモンドにもしている。丸1日が経過したが、いずれも回答はない。記事には他にも疑問が残った。2つ挙げておこう。

◎「イランは必ず核開発の道に進む」の根拠は?

10年など歴史においては瞬時に過ぎる。その後、イランは必ず核開発の道に進む」と櫻井氏は言い切っている。しかし、なぜそう言い切れるのかは不明だ。10年後(あるいは15年後)に「核兵器を開発して経済制裁を受けるよりも、今のまま核兵器なしで行く方が得策だな」とイランが判断する可能性はゼロではない。「いや違う。イランは必ず核開発の道に進む」と櫻井氏が考えているのであれば、その理由を示してほしい。


◎イランが核を持てばサウジも持つ?

イスラエルが核兵器を保有しているのは確実視されている。しかし、サウジアラビアなどアラブ諸国は核兵器を保有していないし、核兵器不拡散条約(NPT)の締約国にも名を連ねている。なのにイランが核兵器を保有すればアラブ諸国が雪崩を打って核兵器保有に走るとは考えにくい。サウジはイランと敵対しているかもしれないが、「敵」としての度合いはイスラエルの方が大きいはずだ。

「アラブ諸国はイスラエルの核兵器保有ならば容認できる。でも、イランが保有するなら対抗上、自分たちも持とうとするんだ」と考えているのならば、その理由を示すべきだ。

結局、「昨年七月に達成したイランとの核合意も問題含みだ」と訴えたいがために、展開がかなり強引になっている。「10年など歴史においては瞬時に過ぎる」との説明もそうだ。50年でも100年でも「瞬時」と言えば言える。そして「瞬時」の後は「イランは必ず核開発の道に進む」と決め付け、「近未来に中東さらに北アフリカに核が拡散すると考えなければならない」と断定する。「近未来に中東さらに北アフリカに核が拡散する」リスクは当然ある(イスラエルを核保有国と見なせば、既に現実になっている)が、拡散が起きない可能性も十分にあると考えるべきだろう。


※イランとの合意の有効期間が「10年」ではないと仮定すると、1つの記事で2つの初歩的なミスがあったことになる。記事への評価はE(大いに問題あり)とすべきだろう。週刊ダイヤモンド2015年5月30日号の「オピニオン縦横無尽」でも、スイスの徴兵制に関する基本情報で誤りが2つあり、さらに訂正記事でも正しく訂正できなかった。そうした点を考慮すると、櫻井よしこ氏に出した引退勧告を撤回する必要は感じない。ただ、今回は「戦後」の誤りを認めて問い合わせに回答してきた。その点を重く見て、櫻井氏への評価はF(根本的な欠陥あり)からE(大いに問題あり)へ引き上げる。

※櫻井氏の過去の誤りについては「櫻井よしこ氏への引退勧告」「櫻井よしこ氏のコラム 『訂正の訂正』は載るか?」「櫻井よしこ氏へ 『訂正の訂正』から逃げないで」を参照してほしい。

追記)「10年」に関して、櫻井氏からもダイヤモンド編集部からも回答は結局なかった。

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