2016年6月15日水曜日

「学閥」に疑問残る 週刊ダイヤモンド特集「医学部&医者」

週刊ダイヤモンド6月18日号の特集「最新 医学部&医者」は悪くない出来だ。しかし、よく分からない部分もあった。特に理解が難しかったのが、37ページに出てくる「偏差値だけでは分からない 医学部の格&学閥支配マップ」だ。記事中には「大学閥で見ると、宮崎大と佐賀大が九州大閥で、大分大が長崎大閥と分かれている」といった記述もあるので、この特集で言う「学閥」とは「特定の大学を中心に形成される大学のグループ」のようだ。例えば地図で「東北大閥」を見ると、秋田大学、山形大学、東北医科薬科大学を同じ「学閥」に色分けしている。
水前寺成趣園(熊本市)※写真と本文は無関係です

ただ地図上では「熊大閥」と「千葉大閥」に支配下の大学がない。これでなぜ「学閥」なのか。「九大閥」にも「長大閥」にも入っていないので熊本大学単独でも「学閥」に当たるとの判断なのだろうか。しかし、同じ九州でも鹿児島大学はどこの学閥にも入っていないし、地図を見る限り自ら学閥を形成してもいない。熊大と鹿児島大の差がなぜ生じるのか謎だ。

さらに分からないのが四国の徳島大学だ。地図に入ったコメントには「徳島大が四国で最大学閥」と書いてあるが、熊大や千葉大のように網掛けした上で「○○大閥」とはなっていない。コメントからは「徳島大学も学閥を形成している」と解釈するしかないが、地図上のデザインでは学閥の1つになっていない。

山梨大学も不可解だ。地図では完全に「東大閥」に入っている。しかし記事には以下の記述がある。

【ダイヤモンドの記事】

そこからやや偏差値が下がるが、県内で「がっちり」と学閥を形成しているのが、中部・北陸甲信越地区の国立2番手グループだ。偏差値では山梨大学と信州大学が拮抗しており、次に三重大学、そして岐阜大学といった序列になる。だが、医学部の格という面では比較的新参者の山梨大が一段下がるだろう。

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これを読む限りでは、山梨大学、信州大学、三重大学、岐阜大学は単独で「学閥」を形成しているはずだ。しかし徳島大や鹿児島大と同様に地図では「○○大閥」とはなっていない。そして山梨大は完全に「東大閥」の一部を成しているので、記事の説明と矛盾している。ちなみに地図上で三重大はどこの「学閥」にも属していないが、岐阜大は「京大閥」に多少引っかかっているし、信州大学も「東大閥」にわずかに触れている。薄い関係があると示唆しているのか何なのか判断に迷う。全体としてこの地図は整合性に問題がある。ダイヤモンド編集部には以下の問い合わせを送っておいた。

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

6月18日号の特集「最新 医学部&医者」についてお尋ねします。36ページの「医学部の格&学閥支配マップ」では山梨大学は「東大閥」に組み込まれています。しかし、44ページの「意外に格が低い神戸大」という図では山梨大は信州大、三重大、岐阜大とともに「県内でがっちり学閥形成グループ」に入っています。山梨大学は「東大閥」なのでしょうか。それとも「県内でがっちり学閥形成」なのでしょうか。あるいは、この2つは両立するのでしょうか。両立する場合、「学閥」をそれぞれ違った意味で使っているのでしょう。しかし、その点に関する説明は見当たりません。

山梨大学に関する説明は矛盾していると考えてよいのでしょうか。矛盾がないとすれば、その根拠も併せて教えてください。

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ダイヤモンドの体質からすると回答はないだろう。

今回の地図に関してはもう1つ注文を付けておきたい。地図の中では、琉球大学が「新潟大閥」に入っているのが気になった。地域的なつながりが全くなさそうなのに学閥を形成しているのはこれだけだ(他は離れていても京大と島根大、阪大と愛媛大ぐらいの距離)。簡単でもいいので、なぜ琉球大が新潟大閥に入ったのか解説が欲しかった。

今回の特集で、地図以外で引っかかったのが「Part 3すべり止めなしの超難関 医学部『合格』への道」の中の「一科目も落とせない超難関 医学部を突破する “必勝勉強法”」という記事だ。これは誰に向けて書いているのだろうか。最初の方を見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

東京大学の理科1類、2類よりも難しい大学がめじろ押しの医学部入試。突破するにはどんな勉強法が有効なのか。面接・小論文も含めた主要科目別の対策をまとめた。

大学入試センター試験では、9割近い得点を挙げないと医学部合格はおぼつかない
 医学部受験を突破するには、最高水準の点数を取らねばならない。例えば、全ての国公立大と一部の私立大が利用している大学入試センター試験では、「85~90%超の得点が必要になる」(竹内昇・駿台予備学校市谷校舎長)というほどだ。

2次試験や私立大の試験でも7割前後の得点が必須となる。加えて、私立大の試験では出題量が多いため、短時間で大量の問題を解かなければならない。

限られた時間の中で問題を解き、高得点を挙げるために各教科に共通していえることは、ミスをしないこと。そのためには、典型的な問題を実際に書いて解くことを習慣づけることだ。手で書き出すことなく、解答を見て考え方や方向性が合っているからといって満足してはいけない

英語、数学、理科については、高校の授業の進度に関係なく、受験に必要な内容を高校2年生までに一通り終えることが望ましい。3年生では、2次試験対策や私立大の入試対策に充てたい。例えば、数学なら数3、数Cの範囲を高校2年生までに終えておこう

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解答を見て考え方や方向性が合っているからといって満足してはいけない」「数学なら数3、数Cの範囲を高校2年生までに終えておこう」というのは、完全に受験生へ向けた書き方だ。医師になろうとする人が読んでも役に立つ内容にするのはいい。しかし、自らが想定する読者層を置き去りにするのは感心しない。

ダイヤモンドは自らについて「企業やビジネスパーソンの情報ニーズに応えてまいりました」「経営者・役員クラスを中心に、企業の意思決定層が購読」と明言している。ビジネスパーソンに向けて「数学なら数3、数Cの範囲を高校2年生までに終えておこう」と訴えて意味があるのか。家庭に医学部志望の受験生を抱えるビジネスパーソン向けと言うならば、もっと書き方を工夫すべきだ。

この記事には「武田塾メディカルが選ぶ 医学部に合格する参考書20」という表も付いている。これは明らかにビジネス誌の役割を放棄して、受験対策書になっている。「医学部&医者」を特集するならば、ビジネスパーソンが知っておくべき「医学部&医者」という内容にすべきだ。「医学部に合格する参考書」の情報は受験に関わりのない人にとって必要がない。

ここまでやると、「本来の読者を脇に置いて、医学部を目指す学生やその親の方へ顔が向いている」と言われても仕方がない。


※特集全体の評価はC(平均的)。岡田 悟記者への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。D(問題あり)としていた竹田孝洋記者は暫定でCに引き上げる。藤田章夫、西田浩史、野村聖子の各記者についても暫定でCとする。岡田記者の評価については「週刊ダイヤモンドも誤解? ヤフー・ソニーの『おうちダイレクト』」を参照してほしい。

追記)結局、ダイヤモンドからの回答はなかった。

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