皇居周辺の桜(東京都千代田区)※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
参院選の公示があさって22日に迫った。こんどから選挙権の年齢が18歳に引き下げられる。新たに240万人の有権者が誕生する。全体の2%程度だが、彼らの投票行動に関心が集まっている。
若者といえば昨年夏の国会デモですっかり有名になった学生グループの「SEALDs(シールズ)」。昭和のころの「若者の反乱」を思いおこさせた。
当時、若いときは革新支持で、就職し所帯をもって社会的な地位につくと保守的になり自民党支持になるケースがけっこう多かった。ところが最近はどうも違う。むしろ若者ほど保守志向が目立っている。
それは日本経済新聞社とテレビ東京の世論調査から、はっきりとみてとれる。
まず安倍晋三内閣の支持率。2016年に入ってからだけでも、全体の平均より20代の方が高い。
全体 (20代)
▼1月=47%(55%)
▼2月=47%(66%)
▼3月=46%(69%)
▼4月=53%(56%)
▼5月=56%(56%)
参院選でどこの政党に投票するかをみても20代で自民党をあげる向きが多い。
▼1月=36%(33%)
▼2月=33%(56%)
▼3月=36%(42%)
▼4月=44%(52%)
▼5月=44%(45%)
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気になる点が2つある。
まず、最新の結果である5月の数字を見ると、20代の内閣支持率は全体と同じ56%で、参院選で自民党に投票する人の割合も全体を1ポイント上回るに過ぎない。データを信じるならば「若者の保守化傾向は消えつつある」とでも評価すべきだろうか。
ただ、データ自体を信頼すべきかという問題は残る。例えば、20代の「参院選で自民に投票」は1月の33%から2月には一気に56%へ跳ね上がり、3月には42%へ落ち込むといった具合で振幅が非常に大きい。
しかも「参院選で自民に投票」が大きく減った3月には、「安倍内閣支持率」が69%と今年の最高を記録していて整合的ではない。調査結果を鵜呑みにするのは危険な気がしてくる。
これらは20代のサンプル数が非常に少ないためではないかと思える。4月調査に関する記事では、調査方法に関して以下のように説明している。
【日経の記事(5月1日)】
日本経済新聞社とテレビ東京の世論調査は、今回から対象年齢を18歳以上にするとともに、これまでの固定電話に加え携帯電話にかける方式を始めた。夏の参院選で選挙権年齢が「18歳以上」に下がるのを踏まえ、若い世代を中心に固定電話を持たない人が増えていることに対応する。
電話は無作為に抽出した番号にかけ回答を依頼しているが、3月の前回調査までは対象が固定電話のみだった。今回は乱数番号(RDD)方式で固定電話と携帯電話あわせて2210件を対象とし、991件の回答を得た。固定電話と携帯電話を合わせた全体の回答率は44.8%。集計では固定電話と携帯電話の使用状況にあわせて比率を補正している。
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若い世代の回答を確保するために「携帯電話にかける方式を始めた」のだから、20代の回答者が非常に少ないのは間違いないだろう。「991件の回答」でも全体としては統計学的に問題のないサンプル数なのだろうが、20代に関しては不十分ではないのか。芹川論説主幹がその辺りをきちんと検討したのかが引っかかる。
ついでに言うと「マイルドヤンキー」に関する芹川論説主幹の説明も引っかかった。
【日経の記事】
保守化した今の若者を原田氏は「マイルドヤンキー」と呼ぶ。地元に残って親にパラサイト(寄生)しケータイで地元の友だちとつながっている若者たちだ。
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マイルドヤンキーに「親にパラサイト」という特徴はあるのだろうか。「原田氏」(博報堂ブランドデザイン若者研究所の原田曜平氏)は2014年5月21日の日経夕刊で以下のように説明している。
【日経の記事(2014年5月21日)】
私は近著「ヤンキー経済」(幻冬舎)の中で「マイルドヤンキー」という若者像を描き出した。「不良」「ツッパリ」といった従来のヤンキーと比べると、地元仲間とつるむといった行動は通じるが、見た目も中身も実に温和な若者たちだ。
中学時代に携帯電話でつながった生まれ故郷の「いつメン」(いつものメンバー)と、結婚後も強くつながり続け、自宅から半径5キロメートル以内のエリアからあまり出ない「地元族」だ。
(中略)私が実地調査の結果などから若年層を4分類した右表で、マイルドヤンキーは「(就職や結婚などを経ても)友達を新規開拓しない(内向的)」「IT(情報技術)への関心やスキルが低い」という位置づけだ。
これに博報堂が実施した「生活定点調査 2012」の結果を合わせて推計すると、およそ3人に1人がマイルドヤンキーということになる。
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ここには「パラサイト」の話は見当たらない。少なくとも原田氏は「親にパラサイト」しているかどうかを「マイルドヤンキー」の条件としていないのではないか。マイルドヤンキーは「結婚」もするようなので、これも「パラサイト」とあまり合わない。結婚したら、基本的に夫婦どちらかは親と離れて暮らすはずだ。
芹川論説主幹は記事で以下のようにも書いている。
【日経の記事】
ちょっと前、原田氏は政府・自民党の広報対策の責任者から呼ばれた。
「マイルドヤンキーのような、地方創生の担い手となりこれから自民党を支えてくれる若者たちが増えているのは大変喜ばしい」
「いや、地元密着型で保守的な価値観は持っていますが、旧来の政治的な保守ではありません。あくまでもケータイで同級生や親とつながっている存在です」
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「ケータイで親とつながっている存在」と言われると、さらに「パラサイト」のイメージから外れてくる。もちろん、言葉の意味は普及する過程で広がっていくこともある。ただ、現時点で「パラサイト」を「マイルドヤンキー」の特徴とするのは少し無理がある。
最後に記事の結びにも注文を付けておこう。
【日経の記事】
地元に根づく若者たちもパラサイトできる親がいる間はいいが、そのつっかい棒がなくなったときどうなるか。「ゆとり世代」の保守志向は強くなく、移ろいやすいのは間違いない。
世界をみると、米国でのバーニー・サンダース現象や英国労働党のジェレミー・コービン党首にみられるように社会主義的な言説が不満を持つ若者を引きつけている。日本の若者の自民支持はまさか春の夜の夢のごときものではないと思うが果たしてどうだろうか。
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「論説主幹」という肩書を入れておいて、記事の結論が「果たしてどうだろうか」では寂しい。これはいわゆる「成り行きが注目される」型のダメな終わり方だ。しかも冗長さも目立つ。「(若者の)保守志向は強くなく、移ろいやすい」との前提で、改善例を考えてみたい。
【改善例】
世界を見ると、米国で民主党の大統領候補を目指したバーニー・サンダース氏や、英国労働党のジェレミー・コービン党首のような、社会主義的な政策を掲げる政治家が不満を持つ若者を引き付けている。そうした動きが日本に波及する可能性は十分にある。若者の自民支持は春の夜の夢のごときものかもしれない。
※記事の評価はD(問題あり)。芹川論説主幹への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。芹川論説主幹については「日経 芹川洋一論説委員長 『言論の自由』を尊重?」「日経の芹川洋一論説委員長は『裸の王様』?」「『株価連動政権』? 日経 芹川洋一論説委員長の誤解」「日経 芹川洋一論説委員長 『災後』記事の苦しい中身」「日経 芹川洋一論説主幹 『新聞礼讃』に見える驕り」も参照してほしい。
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