山辺道文化館(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
東京都台東区の「ホテルグラフィー」。観葉植物が茂る雰囲気が受け、欧州からの旅行者に人気だ。ロビーにパンフレットを置いた飾り棚がある。素材は段ボールだ。
製造したのは王子グループの王子産業資材マネジメント(王子IMM、東京・中央)。先細りする包装資材の需要を開拓するため、消費者との共同開発を支援するサイト「Wemake(ウィーメイク)」で昨年春からアイデアを募った。
王子IMMの商品開発担当者は約40人。サイトでは数百人から意見をもらえる。「シンプルでおしゃれな棚ができた。社内にはない発想だ」と同社の山県茂・販売戦略本部長は手応えを感じる。
あえて捨てたものもある。商品の知的財産権だ。棚は一見素朴だが、強度や量産しやすさなどを考え抜いた。開発プロセスをネットに公開しなければ特許権などを獲得できる可能性もあったが「知財を独占するより、新たなものづくりを選んだ」(山県本部長)。
技術開発の成果や著作物は、法令に基づいて独占権を得ることに価値があった。その常識が崩れつつある。
バンダイナムコエンターテインメントは自社ゲームの知財を開放する「カタログIPオープン化プロジェクト」を進める。審査を通った個人や企業に、ゲームのキャラクターや音楽を使ったスマートフォン(スマホ)向けゲームなどの二次創作を認める仕組みだ。
対象は、2000年代までに発売した「パックマン」「ゼビウス」といった計21のゲーム。バンダイナムコは、二次創作されたゲームに付ける広告収入の一部などを受け取る。できるだけ多く使ってもらい、広く薄く対価を得る狙いだ。
ネットで知恵を募る「ユーザー・イノベーション」の手法に詳しい神戸大学大学院経営学研究科の小川進教授は「大量生産・販売に向かずに企業が製品化しづらかった商品やサービスを開発できる」と話す。
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取材班の考えでは、トヨタ自動車が2015年に発表した燃料電池関連の特許実施権の無償提供などもシェアリングエコノミーに含むのだろう。しかし、トヨタのニュースを聞いた時に「ここでもシェアリングエコノミーが広がってきているな」と思う人はかなり少ないのではないか。
記事に出てくる「バンダイナムコエンターテインメント」の話も引っかかる。これは「技術開発の成果や著作物は、法令に基づいて独占権を得ることに価値があった。その常識が崩れつつある」と言える一例なのか。「広告収入の一部などを受け取る」代わりに「二次創作を認める」のだから、知的財産権の活用によって利益を得るだけの話だ。これだと「独占権を得ること」には今も価値があることになる。「対価を支払って特許取得済みの技術を使わせてもらう」といった昔からある関係と似たようなものだろう。
しかも、上記の話は「ルール」とあまり関係がない。「知的財産権」のシェアリングを妨げる「ルール」は、記事を読む限りでは見当たらない。ならば「シェアエコノミーとルール」というタイトルの連載で取り上げる意味があるのか。
記事の後半部分にも注文を付けたい。
【日経の記事】
シェアリングエコノミーの存在感は高まっているが、先行きはバラ色なのだろうか。
月20万円以上稼げる人は、約80万人の利用者のうち、たった111人――。ネットで個人に仕事を外注するクラウドソーシング大手のクラウドワークス(東京・渋谷)が今年2月に公表した。同社は「発注者に適正な報酬金額を促している」というが、サイトには「時給200円」などの発注も見られる。
米国では請負労働者の低賃金などが社会問題になり、この1~2年、訴訟が頻発。ネットで仕事を請け負った労働者側は「正規の従業員と同等の働きなのだから、給与や労災補償なども平等に」と訴える。訴訟対応で資金が回らなくなり破綻した家事代行サービスもある。「日本も二の舞いの恐れがある」。山崎憲・労働政策研究・研修機構主任調査員は警告する。
ネットを駆使したシェアエコノミーは、世界中から最適な知恵や労働力を調達できる魔法の道具にも思える。だからこそ国境を越えた法的リスクの管理に知恵を出し合わねばならない。
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「請負労働」も「家事代行」もシェアリングエコノミーの一部だというのは取りあえず受け入れるとしても、これはシェアリングエコノミーの問題ではなく、労働問題だろう。「請負労働者の低賃金」をシェアリングエコノミーという枠で論じる必要があるのか。
しかも、取材班は自分たちで解決策を考えようとはしない。「だからこそ国境を越えた法的リスクの管理に知恵を出し合わねばならない」と他者に丸投げして連載を終えている。「知恵を出し合わねばならない」と感じているのならば、まず自分たちが出してはどうか。
シェアリングエコノミーの範囲を広げると「シェアリングエコノミーに関するルールはどうあるべきか」を論じるのが非常に難しくなる。どうしてもこのテーマで連載したいのならば、シェアリングエコノミーの範囲を狭めた上で、どこまで規制緩和して、どういう規制を残したり加えたりするのかを検討すべきだ。
今回はシェアリングエコノミーを広義で捉えすぎている上に、「ルールはどうあるべきか」に十分に踏み込まないまま終わってしまっている。その象徴が「知恵を出し合わねばならない」という結びの言葉に集約されているのではないか。
※連載全体の評価はC(平均的)。連載を担当した5人(瀬川奈都子編集委員、渋谷高弘編集委員、児玉小百合記者、伊藤正倫記者、植松正史記者)への評価も暫定でCとする。今回の連載に関しては「日経1面『シェアエコノミーとルール』に感じた問題」も参照してほしい。
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