2016年2月22日月曜日

日経 田中陽編集委員の日本マクドナルド決算に関する誤解

22日の日本経済新聞朝刊企業面に出ていた「経営の視点~マクドナルド、再生は可能か  『客離れ』に隠れた問題点」という記事には、筆者の誤解を感じた。原価率が100%を超えた日本マクドナルドホールディングスについて「優秀な人材を多く抱え、数字には明るいはず。同社は商売の基本を踏み外しているのではないだろうか」と田中陽編集委員は述べている。しかし、記事をよく読むと「基本を踏み外している」のはマクドナルドではなく田中編集委員ではないかと思えてしまう。
吉野ヶ里歴史公園(佐賀県吉野ヶ里町) ※写真と本文は無関係です

問題のくだりを見ていこう。

【日経の記事】
 
原価よりも安い値段で商品を売ったらどうなるか。赤字となるのは明白だ。それを実践しているグローバル企業がある。日本マクドナルドホールディングスだ。優秀な人材を多く抱え、数字には明るいはず。同社は商売の基本を踏み外しているのではないだろうか

「(日本進出以来)過去45年の歴史の中でもっとも厳しかった」。同社が発表した2015年12月期決算。サラ・カサノバ社長は決算を振り返った。言葉通り、最終損失は347億円で、01年の上場以来最大の赤字決算に沈んだ。使用期限切れ鶏肉事件や異物混入などによって客離れが進んだことだけが理由だろうか。

冒頭の話に戻るとこうなる。前期の直営店舗売上高は1425億円。一方、材料費や労務費などの原価は1431億円。原価率は100.4%になる。売るだけ赤字が膨らむ負け戦だ。創業者、藤田田氏が陣頭指揮を執り、低価格化に突き進んだ00年12月期でも原価率は79.3%。利益は出ていた。100%超は上場以来、今回が初めてだ。

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記事で言う原価は材料費、労務費、その他経費を含む。しかし、外食業界で「原価率」と言えば普通は「食材費率」だ。記事の「原価よりも安い値段で商品を売ったらどうなるか。赤字となるのは明白だ」という説明に最初は違和感がなかった。「原価率=食材費率」との前提を持っていたからだ。ただ、「マクドナルドがそんなバカなことをするのか」との疑問は残った。さらに読み進めると「材料費や労務費などの原価」との説明にぶつかる。ここで何となく謎が解けた。おそらく、分かっていないのは田中編集委員の方だ。

田中編集委員に教えてあげたい。「売れば売るだけ赤字が膨らむような、商売の基本を踏み外したやり方をマクドナルドはしてませんよ。安心してください」と。

日経にも問い合わせを送ったので、その内容を紹介したい。これまでのパターンで行けば回答はないだろう。


【日経への問い合わせ】

「経営の視点~マクドナルド、再生は可能か」という記事についてお尋ねします。記事の中で田中陽編集委員は日本マクドナルドホールディングスに関して「前期の直営店舗売上高は1425億円。一方、材料費や労務費などの原価は1431億円。原価率は100.4%になる。売るだけ赤字が膨らむ負け戦だ」と解説しています。2015年12月期が同社にとって「負け戦」だったのは否定しませんが、「売るだけ赤字が膨らむ」との説明には疑問を感じます。

例えば、食材費を下回る価格で販売すれば「売るだけ赤字が膨らむ」と言えます。しかし記事にもあるように同社の原価は食材費以外も含んでいます。決算短信によると「既存店の改装やメンテナンスに関わる支出」も直営売上原価の一部のようです。つまり原価の中に固定費が入っています。同社の場合、原価率は100%をわずかに超えているだけなので、限界利益(売上高-変動費)はマイナスになっていないはずです。この場合、売れば売るほど損益としてはプラス(利益が増える、あるいは赤字が減る)です。

外食業界で注釈なしに「原価率」と言う時は「売上高に対する食材費の比率」です。この場合、原価率100%超えは「売るだけ赤字が膨らむ」ことを意味します。しかし、マクドナルドは固定費も含めて原価率を出しています。この場合、話が変わってきます。田中編集委員が「原価率100.4%=食材費率100.4%」と誤解しているわけではないでしょう。しかし、記事で話を進める時には「原価率が100%を超えれば、売るだけ赤字が膨らむ」という業界の常識に引っ張られているように思えます。

「売るだけ赤字が膨らむ」という記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題ないとの判断であれば、その根拠を教えてください。1週間経過しても回答がない場合、記事の説明は誤りだと断定させていただきます。

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ついでに1つ注文を付けておこう。

【日経の記事】

直営店と同様の商品、サービスを提供するフランチャイズチェーン(FC)店での営業も厳しいに違いない。そのため同社はFC店に対して前期に135億円の財務施策を実施。だが本業で稼ぐためにFC店になった加盟店主にしたらたまったものではない。ミルク代よりも原価を上回って売れる価値のある商品を求めるのは当然だ。

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135億円の財務施策」が分かりにくい。決算短信にも「財務施策」と書いてはある。しかし、それをそのまま記事に使うようではダメだ。必要ならば取材して、もっと分かりやすい表現に変えてほしい。

記事の内容から「135億円の財務施策」は支援金の類だと推察できる。FC加盟店にとっては、ないよりあった方がいいだろう。なのに記事では「加盟店主にしたらたまったものではない」と続く。言いたいことは分かるが、構成が良くない。田中編集委員のために改善例を示しておこう。「財務施策」に関しては、推測で書き換えてみた。

【改善例】

直営店と同様の商品・サービスを提供するフランチャイズチェーン(FC)店での営業も厳しいに違いない。そのため同社はFC店に対して前期に経営支援金の名目で135億円を支払った。だが本業で稼ぐためにFC店になった加盟店主にとって、単純に喜べるものではない。目先の資金援助よりも、原価を上回って売れる価値のある商品を求めるのは当然だ。


※記事の評価はD(問題あり)。田中陽編集委員への評価もDを据え置く。

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