2015年10月9日金曜日

データの裏付け乏しい日経 田中博人記者の「スクランブル」

9日の日経朝刊マーケット総合1面「スクランブル~業績相場 移行へ半歩 電機・自動車株見直し機運」で田中博人記者は「『業績相場』への移行をにらみ、市場は半歩踏み出している」と分析している。ただ、記事に載せた数表を見る限り、根拠に欠ける。

福岡タワー(福岡市早良区) ※写真と本文は無関係です
業績期待の高い銘柄が上昇」とのタイトルを付けた表では、今期営業利益の乖離率(QUICKコンセンサスが会社予想の何倍かを示す)と株価上昇率(8日終値と9月29日終値を比較)を対比させている。記事では「電機」「自動車」と業種別にしているが、ここでは乖離率の高い順に並べてみた。

        乖離率(倍)     株価上昇率(%)
ソニー      1.24          14.5
ホンダ      1.16          10.7
トヨタ       1.12          9.4
スズキ      1.11          8.6
NEC       1.04          10.0
三菱電     1.03          14.3


上記のデータを踏まえて、田中記者は以下のように解説している。


【日経の記事】

市場には業績相場の兆しがほのかにみえる。日経平均採用銘柄の電機や自動車株で、16年3月期の営業利益の上振れ期待が強い銘柄が見直されているのだ。市場予想平均のQUICKコンセンサスが会社予想の何倍かを示す乖離(かいり)率を大きい順に並べると上位企業の多くで8日までの株価(9月29日比)が1~2割上昇している

例えば、画像センサーやゲームが好調なソニー。今期営業利益は前期比4.7倍の3200億円とみるが、市場予想は会社予想の約1.2倍と上方修正期待が強い。8日までの株価上昇率は14%以上に達する。「投資のポートフォリオを割安で好業績な主力輸出株に入れ替える動きが広がっている」(いちよしアセットマネジメントの秋野充成氏)という。


田中記者は記事中で「日経平均が直近安値を付けた9月29日と比べると、業種別日経平均の『電気機器』や『自動車』の上昇率は10%前後と日経平均(約7%)を上回る」とも書いている。そして、乖離率の高い銘柄はその上昇率が「1~2割」らしい。ただ、数表の銘柄を見る限り、正確には「8~14%」に過ぎず、「1~2割」というより「10%前後」に近い。つまり、乖離率の大きい銘柄ほど上昇率が高いとは考えにくい。

それは数表の6銘柄からも分かる。乖離率と上昇率のトップはいずれもソニーだが、上昇率2位は乖離率6位の三菱電。他の銘柄を見ても、乖離率と上昇率の相関は見出しにくい。自分の描いたストーリー通りのデータが得られなかったのに、田中記者は修正せずに突っ走ってしまったのだろう。

そもそも「業績相場になれば、会社予想と市場予想の乖離が大きい銘柄が買われる」と想定するのが不自然だ。市場予想が形成された段階で、その予想はほぼ同時に株価へ織り込まれる。QUICKコンセンサスに関しては、公表された数値だからなおさらだ。9月29~10月8日に市場予想が変化したのならば、話は別だが…。

ついでに言うと、最終段落に出てくる「それでも9月下旬までの売り一辺倒という異常事態からは脱しつつある」との説明にも疑問符が付く。どの期間を指しているのか明確ではないので、仮に「9月1~29日」としよう。この間の18営業日のうち、日経平均が上昇したのは7営業日。1300円を超える大幅高になった日もあれば、3日連続の上昇も記録した。それでも「売り一辺倒という異常事態」だったのだろうか。


※記事の評価はD(問題あり)。田中博人記者の評価も暫定でDとする。

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