2015年10月24日土曜日

なぜETFは無視? 日経 田村正之編集委員の「真相深層」

24日の日経朝刊総合1面に田村正之編集委員が書いた「真相深層~投信コスト二極化」という記事では「超低コストの投資信託の投入が相次いでいる」と最近の動きを紹介し、「投資家が自分の選択次第で、低コストでの長期資産形成ができる時代がようやく始まった」と結論付けている。しかし、記事ではETFを無視して、ETF以外のインデックス投信の“コスト革命”をかなり大げさに描いている。その点は評価できない。

ビューホテル平成(福岡県朝倉市)から見た筑後地方
        ※写真と本文は無関係です
ファイナンシャルプランナーと証券アナリストの資格を持っていることが誇りの田村編集委員は「超低コスト」のETFにも精通しているはずだ。ETFを含めて考えると記事中の「超低コストの投資信託」という説明が怪しくなるのは分かるが、投資初心者も読むであろう記事なのだから、そこは逃げずにETFも含めて論じてほしかった。

具体的に、記事の前半部分を見てから、いくつか追加で指摘をしておきたい。


【日経の記事】

20~40歳代の資産形成層に向けて超低コストの投資信託の投入が相次いでいる。一方で圧倒的な資金量を持つ高齢層には複雑で高コストの投信が売れ続け、投信販売は二極化している。

「まだ公表されていないが、ニッセイアセットマネジメントから、11月にネット販売向け投信のコストを大きく引き下げると連絡を受けた。投信は“コスト革命”といえる時代に突入した」。複数のネット証券会社幹部が口をそろえる。

戦いの契機は9月。三井住友アセットマネジメントが、これまで確定拠出年金(DC)向けだった超低コスト投信を、ネット証券向けに一般販売を始めたことだった。

投信は購入時に販売手数料がかかることがあるほか、持っている間、信託報酬(信報)というコストが毎日引かれる。長期の保有で特に影響が大きいのは信報だ。

三井住友の投信の信報は国内債券が年0.1%台、全海外株式が0.2%台。ともに指数に連動する低コストの「インデックス型」と呼ばれる投信だが、従来の同種の投信に比べても半分未満の超低コストだ。

インターネットは若い世代の書き込みですぐに「祭り」状態になった。「グッジョブ!」「最終兵器だ」。三井住友の横山邦男社長は「予想外の反響の大きさに驚いた。低コストで長期で資産形成したい若年層への手ごたえを感じた」と話す。

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まず、「信託報酬」を「信報」と略すのはやめてほしい。非常に読みにくかった。それほど長い用語でもないので「信託報酬」でいいのではないか。また、三井住友の横山邦男社長に「低コストで長期で資産形成したい若年層への手ごたえを感じた」と語らせているのなら、若年層がどのぐらい「超低コスト投信」に飛び付いているのか、数字で見せてほしかった。

ネット上の「祭り」の盛り上がりは何とでも書ける。こうした情報だけ載せて、具体的な販売に関する数字が抜けていると「宣伝臭さ」が漂ってしまう。見出しでは「『超格安』の指数連動型、20~40代つかむ」となっているが、「20~40代に人気なんだな」と納得できるデータは記事のどこにもない。

結論部分にも改めて注文を付けておく。


【日経の記事】

ニッセイや三井住友の投信は米国の低コスト投信にひけをとらない。投資家が自分の選択次第で、低コストでの長期資産形成ができる時代がようやく始まった。

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この書き方だと「ニッセイや三井住友が超低コストの投信を投入してきたので、日本でもようやく低コストでの長期資産形成ができる時代に入った」と解釈できる。冒頭で述べたように、ETFを考慮に入れると、こうした話は成り立たない。海外株式を投資対象とするものも含め、かなり低い信託報酬で投信を選べる環境は以前から整っている。

「日本の投資家は日本の投信にしか投資できない」との前提が感じられるのも気になった。海外ETFを取り扱う日本の証券会社はいくつもあるのだから、「ニッセイや三井住友の投信」に頼らなくても以前から「低コストでの長期資産形成ができる」はずだ。

それでも田村編集委員は「投資家が自分の選択次第で、低コストでの長期資産形成ができる時代がようやく始まった」と考えるのだろうか。


※記事の評価はC(平均的)。田村正之編集委員の評価はDを据え置く。 

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