2016年10月7日金曜日

日経 武類祥子次長「女性活躍はウソですか」への疑問

大きな問題があるわけではないが、色々と引っかかる記述が目立ったのが7日の日本経済新聞朝刊総合2面に載った「『女性活躍』はウソですか」という解説記事だ。配偶者控除の廃止見送りに異議を唱える武類祥子生活情報部次長の主張を順に見ていこう。
真木和泉守保臣の銅像(福岡県久留米市)
            ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

「ああ、また。やっぱりね」。政府が配偶者控除の廃止を見送ると知った働く女性の多くは、こう感じたのではないか。配偶者控除の見直し議論は、毎年、年末が近づくと繰り返される恒例行事と化していたからだ。

それでも今年は、少し景色が違っていた。税制改正でカギを握る自民党の税制調査会などが廃止に前向きだったからだ。

安倍政権の最重要課題、働き方改革でも「働く女性の裾野を広げよう」と声高にアピールしてきた。ところがフタを開けてみれば、廃止見送りどころか、年収150万円へ優遇措置を拡大する案まで飛び出した。控除の恩恵を受けず働く世帯から疑問の声が上がるのは必至だろう。

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◎「働く女性」はフルタイム限定?

この問題は「働く女性vs専業主婦」の対立の構図として描かれることが多い。今回の記事の「『ああ、また。やっぱりね』。政府が配偶者控除の廃止を見送ると知った働く女性の多くは、こう感じたのではないか」との書き出しにもその色彩が出ている。

ただ、この構図は奇妙だ。「専業主婦・パート主婦vsフルタイムで働く女性」ならば分かる。103万円の壁を意識している女性パートタイマーも「働く女性」だが、こちらの「働く女性」で「ああ、また。やっぱりね」と感じる人は少数派だろう。

武類次長には「働く女性=フルタイムで働く女性」との前提があるのではないか。しかし、パートやアルバイトとして働いている女性も「働く女性」のはずだ。

続いて見ていこう。

【日経の記事】

配偶者控除は、主婦に「働くなら、家庭に支障がない範囲で」と促す仕組みといえる。社会保険の「130万円の壁」も、10月に新たにできた「106万円の壁」も、企業の配偶者手当の支給基準も、配偶者控除が専業主婦世帯を優遇するシンボルとして存在する以上、主婦の就労を阻害し、壁であり続ける。

働き方改革の目玉「同一労働同一賃金」が実現すれば、正社員並みに働くパートタイマーの時給アップは避けられない。その裏で「働き過ぎないほうが得」と主婦に感じさせる制度を続けるのは整合性に欠ける。

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◎配偶者控除は優れモノ?

武類次長は配偶者控除を批判的に描こうとしているが、上記の説明だとかなり優れたものに見えてくる。まず配偶者控除は「主婦に『働くなら、家庭に支障がない範囲で』と促す仕組み」らしい。これは昨今のワークライフバランス重視の流れに沿ったものと言える。「働くなら、家庭に支障が出るくらい働け」と促す仕組みと、どちらが好ましいかは明らかだろう。

配偶者控除は「『働き過ぎないほうが得』と主婦に感じさせる制度」でもあるらしい。これも悪くない。「働き過ぎた方が得」と主婦に感じさせる制度よりはるかに望ましい。武類次長は「働くなら家庭に支障が出る覚悟を持て」「働き過ぎるぐらいじゃないと働いたとは言えない」と考えているのかもしれない。日経の女性記者を基準にすれば、そうなるかもしれないが…。

◎「シンボル」に過ぎないのに廃止?

配偶者控除の「103万円の壁」はあまり意味がないと言われている。2015年6月1日の日経の記事ではこう解説している。「実際には妻の年収が103万円を超えても141万円まで緩やかに控除額を減らしていく『配偶者特別控除』がある。例えば、年収が120万円の場合、夫の所得から差し引けるのは21万円。少しずつ控除枠が減るため、夫婦の収入が増えているのに手取りが減る逆転現象は生じない」。

今回の解説記事でこの点には触れていないが、武類次長も分かってはいるのだろう。「配偶者控除が専業主婦世帯を優遇するシンボルとして存在する以上、主婦の就労を阻害し、壁であり続ける」との書き方からは「制度上の問題が少なくても、シンボルとして悪い意味で認識されている以上、廃止すべきだ」との主張を感じる。しかし、制度が誤解されているのであれば、誤解を解いていくのが筋だとも思える。

そもそも「配偶者控除の廃止→女性活躍」というルートが怪しい。記事の残りの部分を見た上で、この問題を論じたい。


【日経の記事】

人材サービスのアイデム(東京・新宿)が主婦パートらに実施した調査では、配偶者控除や社会保険の第3号被保険者制度などが廃止になった場合、45.5%が「働く時間を増やす」と答えた。主婦パートを多く雇う企業側も、人手不足を背景に、従業員と折半する社会保険料を負担してでも「もっと働いてほしい」とするケースが増えている。女性が労働市場で活躍する方向へ風は吹き始めている。

共働き世帯の数が専業主婦世帯を上回って、すでに20年近い。50年以上続いてきた「内助の功」を評価する仕組みをなくすのは簡単でない。ただ「税は国のかたちを示す」との言葉に従うならば、今回の先送りは「女性も働いて。でも、ほどほどにね」とのメッセージに映る。安倍首相、女性活躍社会を実現するとの公約はウソですか?

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配偶者控除を廃止するとパート主婦の働く時間が増えるとしよう。それが「女性活躍」につながるだろうか。例えば、年収100万円だったパートタイマーが年収150万円になったとして、「活躍」の度合いに大きな変化が起きるだろうか。また、世の中全体の仕事量に大きな変化がないと仮定すれば、誰かが労働時間を増やした分は誰かの労働時間が減るので、全体として女性の労働時間が大きく増えるかどうかも微妙だ。

個人的には「女性活躍社会」は既に実現していると思っている。専業主婦も年収100万円のパート主婦も、それぞれの社会的役割をきちんと果たしていれば立派な「活躍」だ。「配偶者控除の廃止が女性活躍社会の実現につながる」との考え方には、「専業主婦=活躍度ゼロ」「パート主婦=活躍度が低い」といった前提を感じてしまう。しかし、本当にそうなのだろうか。武類次長には、その辺りを十分に考慮した上で紙面作りをしてほしい。


※記事の評価はC(平均的)。武類祥子次長への評価は暫定でCとする。

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