2016年10月28日金曜日

実力不足が過ぎる日経「スズ、2年ぶりの高値」の問題点

書き手としての技量も市場への理解も不十分だと思える記事が、28日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面に出ていた。「スズ、2年ぶりの高値 国際価格 産地、雨期控え供給不安」という記事の全文を見た上で、問題点を指摘したい。
赤間神宮(山口県下関市) ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

スズの国際価格が1トン2万ドルを突破し、約2年ぶりの高値を付けた。指標となるロンドン金属取引所(LME)の3カ月先物は日本時間27日、2万500ドル前後で推移している。

産地の供給不安が価格を押し上げた。有力産地のインドネシアで生産量が減る雨期を迎える。「中国向けに輸出しているミャンマーの鉱石が枯渇するとの情報が市場に流れたのが強材料になった」(三菱商事RtMジャパンベースメタル事業部の藤原美樹副部長)

在庫も大幅に減少している。スズのLME指定在庫は26日時点で2930トン。昨年末の6675トンに比べ56%減った。現在の指定在庫には売約済みの商品が約1130トンあり、実際の在庫量は1800トン程度との見方もある。供給不安を理由に実需やファンド勢の買いが膨らんでいる。

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◎問題その1~相場の変動幅に触れていない

この記事から、スズの国際価格について「2年ぶりの高値」で1トン当たり「2万500ドル前後」ということは分かる。だが、どの程度の上昇なのかは全く分からない。

スズ、2年ぶりの高値」というテーマで記事を書くならば、いつと比べてどの程度の上昇なのかは必ず入れてほしい。「1カ月前に比べてで30%の上昇」と「年初に比べて15%の上昇」では、同じ「2年ぶり高値」でも印象が大きく変わる。仮に「1カ月間で3割高」ならば、この1カ月の市場の変化を中心に記事をまとめる必要がある。


◎問題その2~市場の仕組みを理解していない

見出しで「雨期控え供給不安」と打っているが、常識的に考えれば「雨期」にもうすぐ入るからと言って「供給不安」は台頭しない。「雨期」は毎年巡ってくる。スズは倉庫に置いておくとすぐに腐ってしまうわけでもない。例年、雨期に供給が減るならば、需要家はそれに備えて在庫を積み増すはずだ。

もちろん「今年の雨期は雨が例年以上に激しそう」といった条件があれば別だが、記事にそうした記述は見当たらない。「産地の供給不安が価格を押し上げた。有力産地のインドネシアで生産量が減る雨期を迎える」との説明からは、市場に関する知識を欠いた素人くささが漂ってくる。


◎問題その3~肝心の話を詳報していない

中国向けに輸出しているミャンマーの鉱石が枯渇するとの情報が市場に流れたのが強材料になった」と三菱商事の人がせっかく教えてくれたのに、なぜそれを深掘りしないのか。この情報が流れたのはいつなのかを確認して、材料が出た後の価格変化をまず押さえたい。

その後に「枯渇情報の確度は?」「供給国としてのミャンマーの存在感は?」といった読者の疑問できるだけ答えてあげたい。「LME指定在庫」の話や、「供給不安を理由に実需やファンド勢の買いが膨らんでいる」といった漠然とした情報は思い切って削っていい。ミャンマーの話の後で余裕があったら触れれば十分だ。


※記事の評価はD(問題あり)。コモディティー市場への理解が足りない記者と、記者への指導力に欠けた商品部デスクの“共同作業”の結果として、今回のような完成度の低い記事を世に送り出してしまったのだろう。日経商品部の部長・デスクの責任は重い。

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