2016年10月3日月曜日

工夫がなさすぎる日経 小平龍四郎編集委員の「羅針盤」

多くの人が扱っているテーマでコラムを書く場合、「なぜ、あえてこの問題を自分が取り上げるのか」を考える必要がある。その意味で3日の日本経済新聞朝刊予定面に載った「羅針盤~『官製相場』を考える」は新味に欠ける内容だった。筆者の小平龍四郎編集委員は書くことがなくて仕方なく「日銀のETF購入問題」を取り上げたのだとは思う。しかし、それにしても工夫がなさすぎだ。
中津城(大分県中津市)※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

株式市場で「官製相場」という言葉を耳にする機会が増えた。日銀が上場投資信託(ETF)を積極的に購入し、株価を下支えしている状態を指す。

日銀の中曽宏副総裁は9月8日の講演で年6兆円の買い入れ額を、アベノミクス開始からの最初の3年間(2013~15年)に外国人投資家が買い越した金額が16兆円だったことと対比し「極めて大きなもの」と述べた。自分たちが株式市場の主要参加者の一人であることの自覚は日銀側も持っている。

しかも、外国人投資家は売ったり買ったりを繰り返すのが常だが、日銀という投資家が売りに回るのは今のところ考えられない。買うのみだ。株価指数が一定以上に下がるとかなりの確率で日銀が動くことも、経験則として知られる。株価の下支え役としての存在感は「6兆円」という金額以上のものがある。

経済再生に向けた金融緩和策のメニューの一つと位置づけられるため、日銀のETF購入を強く批判する向きは、決して多数派ではない。国内のセルサイド(証券会社)ほど支持者が多いようにも見受けられる。「1ドル=100円近辺まで円高・ドル安が進んでも日経平均株価が1万5000円を下回らないのは日銀の買い支え効果が大きい」(大手証券)。要は、株価の為替離れである。

ETF買いによって株価を為替変動から遮断できたとしても、企業業績はそうはいかない。2017年3月期決算の予想の前提として、足元の状況より円安・ドル高の為替水準を見込む企業もあるようだ。このまま1ドル=100円近辺の水準が円安の方向に是正されないようだと、いずれ業績の下方修正が避けられない。そうなると日銀のETF買いで維持される株価は割高感が強まり、為替離れの度合いも大きくなる。それでもなお、市場の筋論として、日銀の株価維持を積極的に評価できるものだろうか。

企業の最新の為替見通しを聞いてみたい

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基本的には「日銀が大量にETFを買うから円高になっても株価が下がらない。市場のあるべき姿として、これでいいのか」と言っているだけだ。この点は日銀がETF購入枠を6兆円に拡大した直後から繰り返し指摘されてきた。枠の積み増しから2カ月も経った後で「市場の筋論として、日銀の株価維持を積極的に評価できるものだろうか」と問いかけるだけならば、記事を載せる意味はない。円高になれば企業業績に下方修正圧力が働くのは誰でも分かる。小平編集委員にしかできない、小平編集委員ならばできる分析が欲しい。それが無理ならば、「編集委員」の肩書を付けてコラムを書く資格はない。

ついでに3点を指摘しておく。

◎「為替離れの度合いも大きくなる」?

株価と為替相場がリンクしにくくなっていると述べた後で、円高によって業績の下方修正が進むと「株価は割高感が強まり、為替離れの度合いも大きくなる」と小平編集委員は言う。これは妙だ。

「為替相場が1ドル100円ならば日経平均は1万4000円が適正水準なのに、日銀がETFを買うから1万5000円台を維持している」としよう。ここで為替相場と株価が変わらないのに、企業業績が落ち込むと株価の「為替離れの度合い」は大きくなるだろうか。

株価も為替相場も変化しないのだから「(株価の)為替離れの度合い」は大きくも小さくもならない。企業業績が落ち込んで株価が下がらなければ、株価の「業績離れの度合い」は大きくなるだろうが…。


◎「円安の方向に是正」?

このまま1ドル=100円近辺の水準が円安の方向に是正されないようだと、いずれ業績の下方修正が避けられない」とのくだりで「円安の方向に是正」と表現しているのが気になった。「今の為替相場は望ましい水準よりも円安に振れている」と小平編集委員は判断しているのだろう。しかし、その根拠は示していない。

円高が企業業績にマイナスだとしても、だからと言って「是正」すべきものとの前提で記事を書くのは感心しない。円高にはメリットもあるし、円安のデメリットもある。今回の場合、「このまま1ドル=100円近辺の水準が円安に動かないようだと~」といった中立的な表現で良かったのではないか。


◎唐突で説得力に欠ける結び

そうなると日銀のETF買いで維持される株価は割高感が強まり、為替離れの度合いも大きくなる。それでもなお、市場の筋論として、日銀の株価維持を積極的に評価できるものだろうか」と書いた後で、「企業の最新の為替見通しを聞いてみたい」と強引に記事を終わらせている。

日銀の株価維持を積極的に評価できるものだろうか」で前の段落が終わっているのだから、例えば「日銀支持派の市場参加者に改めて意見を聞いてみたい」ならば、まだ分かる。だが、小平編集委員はなぜか「企業の最新の為替見通しを聞いて」みたくなったらしい。

聞いてどうするのだろう。「今の為替相場の水準を前提に業績見通しを立てています」と言われたら、「それなら日銀の株価維持も悪くないかも…」とでもなるのだろうか。「市場の筋論として、日銀の株価維持を積極的に評価できる」かどうかと「企業の最新の為替見通し」は基本的に関係ないはずだ。説得力に欠ける唐突な結びと言うほかない。


※記事の評価はD(問題あり)。小平龍四郎編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。この評価については「基礎知識が欠如? 日経 小平龍四郎編集委員への疑念(1)」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_11.html)「基礎知識が欠如? 日経 小平龍四郎編集委員への疑念(2)」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_84.html)を参照してほしい。

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