2016年10月16日日曜日

日経 辻本浩子論説委員「育休延長、ちょっと待った」に注文

女性問題を論じる記事を女性が書くとある種のバイアスが働きやすい。「女性筆者バイアス」とでも名付ければいいのだろうか。世の中には様々な女性がいるが、記事を書くのは大学教授や大手メディアの記者といったいわゆるバリバリのキャリアウーマンがほとんどだ。女性の中で勉強ができる方から1%の層とも言える。そうした女性が女性問題を論じると、どうしても「キャリアウーマン目線」が強くなる。
佐嘉神社 松原恵比須社(佐賀市)
           ※写真と本文は無関係です

16日の日本経済新聞朝刊 日曜に考える面に載った「中外時評~育休延長、ちょっと待った 女性の活躍に水差す懸念」という記事にも、そうしたバイアスを感じた。辻本浩子論説委員が書いたその記事の一部を見てみよう。

【日経の記事】

働く側と企業側。それぞれ立ち位置が異なるからこそ、違う意見が出る。一方が強く推せば、もう一方が待ったをかける。国の審議会では長年、そんな光景が繰り返されてきた。

しかし今、労使がともに慎重な姿勢で一致している論点がある。何のテーマか。育児休業の延長だ。

9月から、労働政策審議会の分科会で議論が始まった。国からのお題は両立支援策。とりわけ、原則子どもが1歳になるまで、最長で1歳半までという育休の期間をどう考えるかだ。待機児童の問題が解消せず、この間に預け先が見つからない人がいることが背景にある。

選択肢が増えるのはいいことでは? そう思えるかもしれないが、慎重なのには理由がある。「女性の活躍に水を差す」。そんな懸念がぬぐえないのだ。

中略)むろん、育休の延長にメリットがないわけではない。働きたいのに保育所に入れず、やむなく退職していた人には大きな助けとなる。

待機児童がいる自治体は、全国の2割ほどだ。多くの地域では、現状の制度のなかで復帰できている。保育サービスを増やそうと、今年度から企業による事業所内保育の運営への新たな助成も始まった。こうした状況も考慮する必要がある。

審議会は延長についての意見を年内にまとめる予定だ。育休の取得率は、女性は8割を超えているのに対し、男性の取得率は2.65%だ。この状況にメスを入れないまま延長だけが進めば、デメリットは女性に偏ってしまう

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引っかかったのは「この状況にメスを入れないまま延長だけが進めば、デメリットは女性に偏ってしまう」との説明だ。「育児休業の延長」で何か女性にデメリットがあるだろうか。育休期間を強制的に延長させられるのであれば、デメリットはあるだろう。実際には、辻本論説委員も書いているように「選択肢が増える」だけだ。

それでも「女性の活躍に水を差す」と辻本論説委員は訴える。育休期間はなるべく短くして、女性が職場でキャリアを積むことが女性にとっての望ましい姿であり、それができなくなるのは「デメリット」だと辻本論説委員は思い込んでいるようだ。安倍政権の掲げる「女性活躍」にそうした価値観があるのは否定しない。しかし、それを辻本論説委員が支持する必要はない。政府の姿勢とは関係なく、女性全体(あるいは社会全体)で見れば何がメリットで何がデメリットなのかを考えてほしい。

さっさと職場復帰してキャリアを積みたいと考える女性に、それを妨げない制度を用意してあげるのはいいだろう。一方、長めに育休を取って、多少キャリアを犠牲にしてでも子供と過ごす時間を取りたいと考える女性もいるはずだ。子供を持つ女性を半ば強制的に前者へ誘導する社会よりも、幅広い選択肢を提示できる社会の方が望ましいと辻本論説委員は考えないのだろうか。

キャリア系女性筆者の多くは「自分と同じような働き方が素晴らしいんだ。だから他の女性ももっと働くべきだ」と考えがちだ。それが記事にも反映される。記事の中で辻本論説委員は「長期の育休で女性がキャリアを積む機会が減ってしまえば、本人の将来に響く」とも書いている。「将来に響いてもいいから長く子供と一緒にいたい」と願う女性は、辻本論説委員にとっては「間違った方向に進んでいるから正してあげるべき対象」なのだろう。

「育休期間が長くなる=女性活躍を妨げ、本人の将来にもマイナス」という考えに基づくと、子供の数はゼロがベストで、多ければ多いほど女性にとっての「デメリット」となってしまう。しかし、これに賛成する人は稀だと思える。

記事では、「少子高齢化が進む日本は、女性の力を生かさなければ立ちゆかない。そのためにどんな対策が必要なのか。各省庁にまたがる施策全体を見まわして、方向性を示すことは、13年に『女性活躍』を掲げて働く女性の後押しを約束した首相の役割だろう」と結論を導いている。

少子高齢化が進む日本は、女性の力を生かさなければ立ちゆかない」というと、まだ女性の力を生かしていないような印象を受ける。しかし、戦時中でも高度成長期でも日本にとって「女性の力を生かさなければ立ちゆかない」状況は変わらない。女性の力なしで戦後の復興を実現できたのだろうか。現代でも、その力の生かし方は多種多様だ。辻本論説委員と同じような働き方に女性を導くことばかりが「女性活躍」ではないはずだ。


※記事の評価はC(平均的)。辻本論説委員への評価はD(問題あり)を据え置くが、強含みとする。

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