2016年10月10日月曜日

「公立の逆襲」は東京だけ? 東洋経済の特集「高校力」

週刊東洋経済10月15日号の第1特集は「大学より濃い 校風と人脈 高校力 公立の逆襲」。特集の冒頭で「凋落したかつてのエリート養成校、日比谷が復活を果たした。時を同じくしてほかの公立名門校も勢力を拡大。中高一貫校ブームが一服し、新たな地殻変動が起こっている」と謳っているが、東京以外での「公立の逆襲」が見えてこない。
福岡県立明善高校(久留米市) ※写真と本文は無関係です

まずは記事の総論部分を見ていこう。

【東洋経済の記事】

復権している公立の名門校は日比谷だけではない。本誌は国立の難関10大学の合格者数について、16年と06年を比較して増加数をランキングした。その結果が左上表だ。

トップは東大合格者数を大幅に伸ばしている私立の渋谷教育学園幕張高校だ。2位以下に目を向けると、神奈川では横浜翠嵐高校や湘南高校、大阪では天王寺高校や北野高校、東京では国立高校や西高校といった、首都圏や関西圏で抜群のブランド力を持ち、全国でも名前を知られる公立進学校が上位に食い込んでいる。

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その「左上表」には25位まで載っていて、内訳は私立10校、公立15校だ。10位(12校)までに限ると、私立5校で公立7校。「公立の逆襲」と言うほどではない。「東大」や「東大・京大+国立医学部」などで見れば、公立の勢いはさらに弱くなるだろう。

都の高校改革が結実 公立トップに返り咲き 日比谷復活の原動力」という記事に限れば、大きな問題はない。「最近は日比谷の進路指導や校風に期待し、筑波大附属を蹴って日比谷を選ぶ生徒が増えているほか、開成や筑波大附属駒場などを志望する生徒が、日比谷も選択肢に入れるようになった。10年前にはありえなかったことだという」などと「地殻変動」を描けている(「公立の逆襲」というより「都立の逆襲」ではあるが…)。

しかし「高校改革の効果が鮮明に 神奈川でも公立躍進 人気沸騰のSSKH」という記事では「SSKH翠嵐、湘南、川和、柏陽」の紹介に終始していて、私立との比較がなく「公立躍進」が伝わってこない。しかも「受験生からの人気に陰り 東京学芸大学附属の苦悩」という「公立の凋落」に関するコラムまで付けている。大阪についても似たようなもので「大阪の高校改革は最終段階 北野が突出する裏で選別進む府立高校」という記事には、やはり私立との比較が見当たらない。

埼玉に至っては「公立の逆襲」ではなく「私立の攻勢」だ。「名門校トップ対決(1)埼玉 栄東×浦和 東大合格数で首位陥落 浦和は小学生に照準」という記事では、「名門男子校の県立浦和高校が私立栄東高校に2016年の東京大学の合格者数で初めて抜かれ、県内トップの座を明け渡した」とはっきり書いている。

公立の逆襲」というからには「公立の凋落逆襲」の流れがあるはずだが、神奈川や大阪などでは「公立がかつてはダメだった」との話が出てこない。

日比谷高校をはじめとした都立高の話から広げて「公立の逆襲」というストーリーで特集を組み立てようとしたのだろうが、成功しているとは思えない。編集部の東京目線が強すぎるのかもしれない。

ついでに、気になった点をいくつか指摘したい。

【東洋経済の記事】

九州には、同じ福岡に久留米大学附設中学・高校、鹿児島にラ・サール学園という私立の中高一貫校があり、医学部を志望する家庭は公立高校ではなくこれら私立2校を第1志望とすることが多い。

ところが今年の九大医学部の合格者ランキングを見ると、久留米大附設が22人で1位、次にラ・サール、3位に9人を送り出した修猷館がランクインしている(筑紫丘3人、福岡2人)。修猷館の2~3年次に医進クラスが設置されており、これが私立中高一貫校に次ぐ合格実績を残した。

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上記のくだりで「ところが」を使っているのが解せない。「医学部に行くならば公立よりも久留米大附設かラ・サール」という認識があって、その2校が1位と2位を占めているのならば「順当」だ。この2校に次ぐのは九州では修猷館だから、3位も「順当」だ。「ところが」でつないで「意外な結果でしょ」と訴えられても困る。

この「名門トップ対決(2)福岡~九大合格者100人超 御三家の熾烈な争い」という記事では他にも気になる点があった。修猷館の校風だという「不羈独立(ふきどくりつ)」や、福岡高校の校訓「至誠勵業(しせいれいぎょう)」を振り仮名なしで記事に載せるのは感心しない。もう少し読者に親切な誌面作りを心掛けてほしい。

最後に「政界編~慶応と創価学園が2強 国会議員は名門私立が圧倒」(筆者はジャーナリストの横田由美子氏)に触れておこう。

【東洋経済の記事】

日能研のデータによると、中学受験の偏差値で灘や開成が70を超すのに比べて、創価中学は48と決して高いとはいえない。ただし創価学会の関係者にとっては特別な存在であるようだ。

「創価中学・高校は学会関係者にとって慶応よりも価値のあるブランドなのです。だから競争率は高く、8倍や10倍になる年もある。偏差値とは関係なく、簡単に入れる学校ではありません」(ある卒業生)。

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卒業生」はそう言うかもしれないが、だとしたら「なぜ偏差値が低いのか」の説明が要る。レベルの低い受験生が多く集まって競争率が高くなっている場合、難易度は低くなり得る。だから偏差値で難易度を見るのではないのか。日能研のデータが間違いでなければ、創価中学には高い学力がなくても入れるはずだが…。


※特集全体の評価はC(平均的)。暫定でCとしていた中島順一郎記者と鈴木良英記者への評価はCで確定とする。中原美絵子記者はCを据え置く。暫定でB(優れている)としていた二階堂遼馬記者は暫定Cに引き下げる。宮本夏美記者は弱含みながらBを維持する。

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