2015年6月25日木曜日

「税金考」を考える(5) ~「農地の適正課税滞る」

24日の日経朝刊1面「農地の適正課税滞る」と5面「税金考~農地税制 経済成長の壁に」について引き続き疑問点を述べていく。


◎税負担増で農業の大規模化が進む?
アムステルダムのダム広場に建つマダム・タッソー蝋人形館
                  ※写真と本文は無関係です

耕作放棄地も課税上は固定資産税が軽い農地と見なされ、持ち主が土地を手放さないケースが多い。農業の生産性を高める大規模化を阻む一因となっている」と日経は主張している。これが本当ならば、耕作放棄地の税負担を高めれば、農業は大規模化していくはずだ。しかし、以下の記述からすると、どうも怪しい。


【日経の記事】

放棄地といっても転用期待で放置する人が多い都市部と買い手がつかない地方では状況が違う。浜松市に放棄地を持つある男性は「二束三文でも売れるなら売りたい」と語る。


これを信じれば、田舎では耕作放棄地への課税強化などなくても、今のままで大規模化できるはずだ。「二束三文でも売れるなら売りたい」という人から、どんどん農地を買えばいい。売却に至らない耕作放棄地は、「売らない」というより「買ってくれない」と考えるべきだ。

となると、課税強化で新たに売りに出てくるのは都市部の耕作放棄地だろう。しかし、都市部にはそもそも農地が少ないのだから、耕作放棄地を買っても「大規模化」は難しそうだ。日経は「農業の競争力の強化は日本経済の再生に欠かせない。環太平洋経済連携協定(TPP)も見すえれば、喫緊の課題だ」と書いているが、例えば東京23区内の耕作放棄地を全て耕作地に変えたところで、農業の競争力強化にはほとんどつながらないはずだ。


◎課税強化で都市部の耕作放棄地は売りに出る?

日経の解説によると、都市部の耕作放棄地は税負担が軽いために商業施設や道路への転用による値上がりを期待して持ち続けるケースが多いらしい。それが本当だとして、課税を強化すれば所有者は売りに出すだろうか。転用後の売却で多額の利益が期待できるのであれば、多少の税負担増では土地を手放さないはずだ。具体的なケースで考えてみよう。

Aさんは時価1000万円の耕作放棄地を保有していて、現在の固定資産税負担は年1000円だと仮定する。10年以内に商業施設ができるのが確実で、その際には保有する耕作放棄地を1億円で売却できるとAさんは確信している。そんな時、耕作放棄地への課税が強化され、税負担が10倍の年1万円になった。Aさんは土地を手放すだろうか。

税負担は10年間でも9万円しか増えない。1000万円の土地が1億円に上がると期待できるのであれば、すぐに1000万円で手放す気にはならないはずだ。もちろん、税負担を年1000万円にしたらAさんも考え直すかもしれない。しかし、極端に重い税負担は現実的ではない。都市部の耕作放棄地が日経の言うように一攫千金を期待できるものならば、そこに賭けている所有者の考えを多少の税負担増加で変えるのは難しい。

※(6)でさらに疑問点を挙げていく。

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