2015年6月1日月曜日

「税金考」を考える(1)

日経の朝刊1面で危なそうな匂いのする連載企画「税金考」が始まった。1日付の「税が惑わす日本のかたち」という記事も、かなり危なっかしい。「2030年大企業ゼロ」の見出しの後に以下のような記述がある。


【日経の記事】
ベルギーの王宮(ブリュッセル)  ※写真と本文は無関係です

2030年。日本は大企業がゼロの国になるかもしれない。こんな予測が話題だ。景気回復で総法人数は増え始めたが、大企業だけは年約1200社ペースで減っているためだ。

法人税法は資本金が1億円超の企業を「大企業」、以下を「中小企業」とする。国税庁統計によると、13年度の大企業数は2万1916社。2年で2464社減った。このペースならあと15年程度で大企業はなくなる


この手の計算は他の記事でも時々目にする。「このままのペースで人口が減ると、××年に日本人はゼロになる」といった類の話だ。「このままのペースで減り続ける可能性がかなり高い」という前提が成り立つなら分かる。しかし、そうでもないものに関して「このままのペースで」と前提を付けて計算しても意味はない。

例えば、日経平均株価が2万円から次の年には1万9000円、その次の年には1万8000円に下落したとしよう。その時に「このままのペースで下落が続けば、18年後に日経平均株価はゼロになる」と論じて意義はあるだろうか。「2030年大企業ゼロ」はインパクトのある見出しかもしれない。しかし、インパクトを求めすぎて、記事への信用を低下させている面は否定できない。

そもそも減資には信用力低下などのデメリットもある。株式を上場していて、経営も安定している上場企業の場合、節税メリットより減資のデメリットの方が大きいはずだ。だから、トヨタやNTTといった経営の安定している大企業から減資の話が出てこないのだろう。

さらに言えば「形式的な大企業」が減ると何か困るだろうか。減資して資本金を1億円以下にしても、企業としての実質的な規模が小さくなるわけではない。「形式的な大企業が減るとなぜ困るのか」を論じずに「大企業が2030年ににはゼロになるかも。だから大変だ」と言われても納得できないだろう。トヨタやNTTが減資して形式的には「中小企業」になったとしても、きちんと収益を上げて問題なく経営できるのであれば、納税額が多少減るとしても「実質的な大企業」として社会的役割はそのまま果たせるはずだ。

日経の1面連載企画の伝統とも言えるが、大きな話に見せるために、時として強引な展開に陥ってしまう。今回も伝統芸は健在なようだ。


※(2)へ続く


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