2015年6月3日水曜日

「税金考」を考える(2)

1日付の日経朝刊総合・経済面に出ていた「税金考」の「専業主婦世帯優遇『103万円の壁』企業手当てにも」という関連記事についても考えてみたい。以下は記事の全文だ。

モン・デ・ザール(ブリュッセル)  ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

税金には社会の実情に合わせたさまざまな軽減制度がある。専業主婦世帯の税負担を軽くする「配偶者控除」はその代表例だ。

控除とは「差し引く」の意味だ。配偶者控除は年収が103万円以下の妻(夫)がいる場合、夫(妻)の所得から38万円を差し引く。所得が減る分、所得税率をかけて計算する税金も軽くなる。

逆に103万円を超えて控除がなくなると、夫の税負担が急に重くなり夫婦合計の手取額が減る懸念が生じる。いわゆる103万円の壁だ。

実際には妻の年収が103万円を超えても141万円まで緩やかに控除額を減らしていく「配偶者特別控除」がある。例えば、年収が120万円の場合、夫の所得から差し引けるのは21万円。少しずつ控除枠が減るため、夫婦の収入が増えているのに手取りが減る逆転現象は生じない。

だが、多くの企業は「妻の年収103万円まで」を基準に配偶者手当を支給している。そもそも、配偶者控除は専業主婦が多かった1960年代に出来た制度。共働きの夫婦が多数派になった今も、専業主婦世帯を優遇する仕組みが形を変えながら生き永らえているのが実態だ。


1面の記事では「税金が静かに日本をゆがめている」と書き出しで訴え、最初の事例に「配偶者控除」を選んでいる。しかし、総合・経済面の関連記事では「(配偶者特別控除があるので)少しずつ控除枠が減るため、夫婦の収入が増えているのに手取りが減る逆転現象は生じない」と解説している。これでは、配偶者控除という制度が「日本をゆがめている」とは言い難い。

記事では「だが、多くの企業は『妻の年収103万円まで』を基準に配偶者手当を支給している」とも書いている。それが問題ならば「日本をゆがめている」のは税ではなく企業の給与体系の方だろう。「103万円を基準に配偶者手当を支給するように」と法律で定めたり、企業に指導したりしていれば話は別だ。しかし、企業が勝手に103万円を基準に手当てを支給しているのであれば、税制に文句を付けるのはお門違いだ。

共働きの夫婦が多数派になった今も、専業主婦世帯を優遇する仕組みが形を変えながら生き永らえている」ことを記事では問題にしている。「だから配偶者控除を廃止すべきだ」と考えているのだろう。しかし、これも説得力に欠ける。

まず、「税制で優遇されるべきは多数派」との前提は成り立たない。障害者を税制面で優遇するとしよう。その場合、障害者が社会の中で多数派だから優遇するのだろうか。増えているから優遇するのだろうか。そうとは限らないはずだ。例えば「障害者は収入面で恵まれない場合が多いから優遇する」との考えで優遇措置を講じたのであれば、「人数が少ないから」といった理由で廃止に動くのは道理に合わない。配偶者控除も同じだ。

そもそも配偶者控除を「専業主婦世帯を優遇する仕組み」と書くのは、誤りではないにしても正確さに欠ける。1面の記事では51歳の契約社員である河本信子さんが配偶者控除を使っている話が出てくる。しかし、河本さんは専業主婦ではない。配偶者控除は「夫婦のどちらかの収入が少ない世帯を優遇している」とは言えるだろう。仮に「どちらが多数派か」で判断するのならば、「配偶者控除を使っている世帯」と「共働きで配偶者控除を使っていない世帯」で数を比べるべきだ。


※1日の「税金考」の評価は、1面の記事も含めて「D」とする。

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