元日銀理事の門間一夫氏の発言で構成した週刊エコノミスト4月5日号の「異次元緩和を問う② 実験がかき消した金融政策への期待」という記事は納得できる内容だった。
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一部を見ていこう。
【エコノミストの記事】
(異次元緩和という)実験によって、二つのことが明確に分かった。ひとつは、日本では、中央銀行ができることを全部やってもインフレ率を上げるのは難しいこと。もうひとつは、2%物価目標が達成できなくても特に問題はないこと。戦後2番目の長さの景気拡大局面となり、近年になく労働市場は改善した。
この現実によって、「金融緩和の不足が経済低迷の原因」という見方は完全に消えた。金融政策は、昨年の自民党総裁選でも衆院選でも話題にならず、政府と日銀の緊張関係もなくなった。日銀への批判が減ったことよりも、日本経済の課題は金融政策では解決できない、と多くの人々が納得するようになったことが、とても重要かつ建設的な変化だった。
◎今や達成できた方が問題のある「目標」に
個人的には物価は安定していてほしい。「物価目標」を導入するならば、0%に目標を設定したい。しかし日銀の黒田東彦総裁は「2%物価目標」にこだわり「異次元緩和」へと突き進んだ。
結果として「実験」は失敗に終わったのだが、皮肉にもここに来て原油高などの影響で「2%物価目標」が達成されようとしている。そして政府は物価高に対する緊急対策の策定に動いている。
よく考えればおかしな話だ。「2%物価目標」が達成されそうなのだから、コストプッシュ型であるとしても前向きに捉えるのが自然だ。しかし完全に逆。物価上昇率が0%近辺で安定している時には物価に対して国民の不満は小さかった。そして「2%物価目標」が達成されようとする状況下で不満が高まっている。
そう考えると「2%物価目標」は目標として掲げるべきものだったのかとの疑問が湧く。「2%物価目標が達成できなくても特に問題はない」という門間氏の指摘はその通りだ。さらに踏み込んで「2%物価目標は達成しない方が好ましい」と見てもいい。
門間氏の見方に注文を付けたい部分もある。そこも見ておく。
【エコノミストの記事】
(異次元緩和の)コストや副作用については、人によって見方が分かれる。緩和の副作用が生じないよう、日銀はうまくリスクマネジメントできていると私は評価している。だからこそ、日銀に対する決定的な批判はなく、政府や与党から「もういい加減にやめろ」とも言われない。効果もわずかだが副作用もわずか、ただ続けているだけ、というある種の日常風景に、異次元緩和は既になっているのではないか。その意味ではもう「異次元」ですらない。
出口の損失見通しは、その時の物価や金利の前提による。ただ、出口に向かう時は2%目標が達成されているわけだから、その分、名目成長率も上がって税収も増えているはずである。日銀の損失は政府が事実上補填(ほてん)することになるが、税収も増えているのだから、コストにはならない。
名目成長率が上がっていないのに金利を上げなければならない、という極端なケースもないわけではない。自然災害などで大混乱が起き、生活必需品の不足で大インフレになるような場合だ。しかし、その時は異次元緩和のコストなどと平和に語っていることなどできない。自然災害等に対し供給体制を強靭(きょうじん)なものにしておくことは、本当に重要だ。
◎「副作用」はそこそこ大きいのでは?
「効果もわずかだが副作用もわずか、ただ続けているだけ、というある種の日常風景に、異次元緩和は既になっているのではないか。その意味ではもう『異次元』ですらない」という見方には大筋で同意できる。ただ今年に入って状況が変わってきている。
「名目成長率が上がっていないのに金利を上げなければならない、という極端なケースもないわけではない」と門間氏は言う。その「極端なケース」(それほど「極端」とは感じないが…)が現実になりつつあるのではないか。
「自然災害などで大混乱が起き、生活必需品の不足で大インフレになるような場合」とまでは行かないが、好ましくない物価上昇は起きている。「異次元緩和」の一環として日銀が長期金利をゼロ%近辺に押さえ付けていることが円安を加速させている面もある。
それを考慮すると「効果もわずかだが副作用もわずか」から「効果もわずかで副作用はかなりある」に移行しつつあると感じる。直近の状況を踏まえた門間氏の分析に注目したい。
※今回取り上げた記事「異次元緩和を問う② 実験がかき消した金融政策への期待」https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220405/se1/00m/020/062000c
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