2022年3月21日月曜日

FACTA「日経新聞『看板記者』が続々退社」を読んで思うこと

FACTA4月号に載った「日経新聞『看板記者』が続々退社/中堅記者にあらゆる仕事の皺寄せ/追い詰められ病院に駆け込むぐらいなら……」という記事は興味深いが、色々と疑問も湧いた。中身を見ながらコメントしたい。

夕暮れ時の筑後川温泉

【FACTAの記事】

日本経済新聞社で若手、中堅記者の退職が相次いでいる。

昨年1年で約40人、今年に入りすでに10人以上が辞めた。そのなかには同社でツイッターの最多フォロワー数を誇る看板記者もいる。入社して数年の若手が辞めていく傾向は、ここ十数年変わらないが、入社後10年前後で近い将来に編集局の柱となる中堅の離脱は昨春に実施した編集体制の再編以降で顕著となっている。


◎肝心な数字が…

中堅の離脱は昨春に実施した編集体制の再編以降で顕著となっている」と言うならば「中堅の離脱」に関する「昨春」以降とその前の比較が欲しい。今回の記事では「若手、中堅記者の退職」全体で見ても、「昨年」以降がその前と比べてどの程度の増加なのか読み取れない。

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【FACTAの記事】

従来の紙面製作に加えて電子版コンテンツの拡充を進めたことで記者の業務量が激増、人材流出でさらに負担が増すという悪循環に陥っている。


◎漠然とした話をされても…

電子版コンテンツの拡充を進めたことで記者の業務量が激増」と言うが、いつに比べてどの程度の「激増」なのか。「昨春に実施した編集体制の再編」と関係があるのか。その辺りの説明はほしい。

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【FACTAの記事】

毎年の新規採用数に相当する記者が去っていくという組織として危機的状況にあるにも関わらず、井口哲也編集局長をはじめとする編集局幹部の危機感は薄いという。この流れは加速こそすれ、止まることはないだろう。


◎「危機的状況」なの?

毎年の新規採用数に相当する記者が去っていくという組織として危機的状況」という説明が引っかかる。「毎年の新規採用数」との比較だけでは何とも言えない。記事でこの後に触れているが中途採用などとの兼ね合いもある。

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【FACTAの記事】

3月上旬、編集局内に衝撃が走った。

日銀キャップを務めている男性記者が退社を申し出たためだ。2004年入社で年齢は40歳そこそこ。金融市場を担当する旧証券部の出身で、ニューヨーク駐在中の20年春に始めたツイッターはチャートなどを多用した分かりやすいマーケット解説で人気を博し、フォロワー数は37万を超える。SNS時代における同社の看板記者と言える貴重な存在だった。ほかにも旧経済部で最年少キャップを務めた中堅記者ら取材現場を仕切るキャップクラスが続々と会社をあとにした。若手はともかく中堅に対しては会社側も引き止めたというが、翻意させることはできなかったという。

問題は退職者だけではない。心身に支障をきたす記者も増えているというのだ。

あるニュースグループでは、若手記者の不足で中堅にあらゆる仕事の皺寄せがいった結果、首が回らなくなって体調不良を訴え仕事を休むことになったという。病院に駆け込まざるを得ないほど追い詰められている記者が出てきているということだ。


◎問題は増減では?

体調不良を訴え仕事を休む」記者はいつの時代もいるだろう。「病院に駆け込まざるを得ないほど追い詰められている記者が出てきている」のは好ましくはないが、組織の問題として見るならば、その人数の増減が知りたい。しかし、そうした情報は見当たらない。

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【FACTAの記事】

日経は電子版の有料会員が約80万人にのぼるなど斜陽産業である新聞業界の中では勝ち組と言われている。給与水準は業界内ではトップクラス。編集職場であれば30代半ばで年収1000万円は固い。にも関わらず、退職者が後を絶たないのはなぜか。理由は大きく3つありそうだ。

一つ目は業務量の増加だ。

同業他社に比べて電子版が順調とはいえ、収益の柱は未だ販売部数約180万部の紙面。記者は電子版向けと紙面向けの取材と執筆を同時並行で進めなければならない。加えて一部記者には紙面や電子版のレイアウト、見出しをつけることにまで仕事の範囲は広がっているといい、とても若手の面倒を見る余裕がもてない状況だという。


◎ここも具体性が…

業務量の増加」も具体性に欠ける。「記者は電子版向けと紙面向けの取材と執筆を同時並行で進めなければならない」というのは「電子版」を創刊した時から続いている。「一部記者には紙面や電子版のレイアウト、見出しをつけることにまで仕事の範囲は広がっている」とも書いているが「紙面や電子版のレイアウト、見出しをつけること」も基本的には記者の仕事だ。紙の新聞で言えば整理記者が担当する。記者の中での分業が崩れている面はあるのだろうが、FACTAの説明だけでは「業務が増えて大変そう」とは実感できない。

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【FACTAの記事】

二つ目は社内の風通しの悪さ。

昨春に断行した経済部や政治部などの「部」を解体し「政策」「金融・市場」などのユニットに統合した編集体制の再編が、現場感覚のないユニット長を増やすだけの失敗に終わったことも職場環境の悪化に拍車をかけた。新設のユニット長も部長に代わるグループ長も編集局長ら幹部の指示を黙って聞き入れるだけ。結果的に幹部らの現場を無視した放言とも言える指示が議論されることのないまま記者にまで降りてきて、現場が振り回される事態が続出しているという。


◎以前の「部長」は違った?

編集体制の再編が、現場感覚のないユニット長を増やすだけの失敗に終わった」との説明も引っかかる。販売や広告の社員を「ユニット長」に据えた訳でもないだろう。基本的には編集局の社員が「ユニット長」になっているはずだ。なのになぜ「現場感覚」がなくなるのか。これも説明が欲しい。

編集局長ら幹部の指示を黙って聞き入れるだけ」という傾向があるのは「ユニット長」「グループ長」も以前の「部長」も似たようなものではないか。そこに劇的な変化があるとは思えない。

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【FACTAの記事】

若手、中堅が日々、編集幹部の指示に右往左往するデスクやキャップを目にしていれば「こうはなりたくはない」と思うのは自然だろう。退職者の転職先を見ると、ベンチャーやIT、一般企業の広報、地方公務員など他業種ばかり。旧態依然とした企業風土を残す同業他社に移るケースは稀だ。

三つ目は現場への締め付けの強化だ。

編集体制の再編は、記事化するにあたり「最後の砦」となるチェック機能の低下をも招いた。てにをはや固有名詞の間違い、事実関係を確認する校閲、紙面のレイアウトを手掛ける紙面編集の人員が減らされたことでイージーなミスを見逃すことが多くなり、訂正を乱発する事態になった。しかし、編集幹部は記者のチェックが甘いのが主因だとして訂正を出すごとに記者とその原稿を見るデスクに研修を受けさせる「日勤教育」を導入。細かい失敗を責める文化が定着してしまったという。


◎これも以前からでは?

日経に「訂正」を嫌う「文化が定着」しているのは確かだ。それが読者からの間違い指摘の無視や、記事中のミス放置に繋がっている。「訂正」を一大事と考えず、ミスをした「記者」や「デスク」を責めないという方向に舵を切るべきだ。

FACTAの記事を読むと、最近になって「細かい失敗を責める文化が定着してしまった」との印象を受けるが、そうではない。日経の悪しき伝統だ。

記事の終盤も見ておく。


【FACTAの記事】

現場は阿鼻叫喚の様相だが、編集幹部はそれほど危機感を抱いていないというから驚きを通り越して呆れてしまう。

あるベテラン社員は「編集幹部は中途採用で賄えばいいと大上段に構えている節がある。ただ、いくら優秀な記者を中途で採用できても、十年かけて育てた記者の経験値には代えられない。彼らも記者経験があるのに、こんな当然の事実にも考えが及ばないようだ」と嘆息する。

現場の一線にいる中堅記者の声は悲痛そのものだ。

「あらゆる理不尽に耐えて仕事をしているというのに、編集幹部は踏ん反り返って思いつきの指示を出すだけ。若手、中堅記者が辞めていく責任は、働きやすい環境を整えようとしない編集幹部にあるはず。誰も何も責任を取らないのはおかしい」

果たして、これらの声は幹部たちの耳に届くのだろうか。


◎そんなに生え抜きは大事?

いくら優秀な記者を中途で採用できても、十年かけて育てた記者の経験値には代えられない」という「ベテラン社員」のコメントには同意できない。「十年かけて」日経色に染めれば、その「経験値」で良い記事が書ける訳ではない。「優秀な記者を中途で採用」できれば、同程度に「優秀な記者」の代わりにはなる。日経色に染まっていないという点では好ましいとも言える。

誰も何も責任を取らないのはおかしい」という「中堅記者」のコメントも引っかかる。「若手、中堅記者が辞めていく責任」を誰かが取るべきなのか。「中途採用で賄え」ているのならば業務には支障が出ていないはずだ。

あらゆる理不尽に耐えて仕事をしている」と「中堅記者」が感じているのならば、まず自らが動くべきだ。「改善が見られないければ退職する」との決意があれば、声を上げるのも怖くないだろう。

表面的には大人しくして「あらゆる理不尽に耐えて仕事をしている」のならば、日経の記者という仕事には「あらゆる理不尽」を上回るメリットがあるのではないか。

日経に構造的な問題があるのは確かだ。しかし、黙っていても何も解決しない。変えたいと願うなら、少しだけでも声を上げよう。それが後輩のためにもなる。


※今回取り上げた記事「日経新聞『看板記者』が続々退社/中堅記者にあらゆる仕事の皺寄せ/追い詰められ病院に駆け込むぐらいなら……」https://facta.co.jp/article/202204037.html


※記事の評価はD(問題あり)

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