「現代貨幣理論(MMT)」を否定する主張で説得力があるものを見たことがない。日経ビジネス9月28日号に載った「INTERVIEW~MMTは日本を救う理論なのか」もそうだ。東京財団政策研究所上席研究員の早川英男氏の主張は、説得力を欠くと言うより支離滅裂に近い。
有明佐賀空港 空港公園のYS-11型機 ※写真と本文は無関係です |
早川氏の話をまとめて記事にした記者の責任なのかもしれないが、いずれにしても問題ありだ。一部を見てみよう。
【日経ビジネスの記事】
「インフレにならない限り、財政赤字には問題がない」「インフレになったら税金を増やせばいい」──。こうした現代貨幣理論(MMT)の主張には安易に賛成できない。物価が上昇し始めたら単純に金利を上げればいいという主張は中央銀行からすれば恐ろしい。日本の債務残高はGDPの2倍を超え、世界的に見ても相当高い水準だ。利上げした途端に支払利子が大幅に増加してしまう。財政をいくらでも出動できるという考えはマーケットを壊しかねない。
◎何を言っているのか…
「インフレにならない限り、財政赤字には問題がない」「インフレになったら税金を増やせばいい」というのが「現代貨幣理論(MMT)の主張」との認識には問題を感じない。しかしなぜか「物価が上昇し始めたら単純に金利を上げればいいという主張は中央銀行からすれば恐ろしい」と展開してしまう。「物価が上昇し始めたら単純に増税すればいいという主張は~」とならないと辻褄が合わない。
また「物価が上昇し始めたら単純に金利を上げればいいという主張は中央銀行からすれば恐ろしい」という説明にも疑問が残る。「利上げした途端に支払利子が大幅に増加してしまう」のは「中央銀行」ではなく政府だ。「中央銀行が政府を心配して…」という弁明は成り立つが「中央銀行からすれば恐ろしい」と「中央銀行」に限定する理由が分からない。「政府からすれば恐ろしい」の方が自然だ。
「支払利子が大幅に増加してしまう」と「マーケットを壊しかねない」と早川氏は見ているようだが、これも解せない。
日銀が長期金利をコントロールして0%近辺に張り付いている今の状況を「マーケット」が壊れていると見るのは分かる。だが、早川氏としては「インフレ→金利上昇(国債価格下落)」となると「マーケット」が壊れると訴えたいようだ。国債価格が暴落したとしても、市場関係者が自由に売買してその需給が価格に反映されるのならば市場は壊れていない(機能している)と思えるが…。
さらに言えば「財政をいくらでも出動できるという考えはマーケットを壊しかねない」という説明は「MMT」の否定になっていない。「インフレにならない限り、財政赤字には問題がない」というのが「MMT」の主張だと早川氏自身が最初に述べている。つまり「財政をいくらでも出動できるという考え」ではない。「インフレにならない限り財政をいくらでも出動できるという考え」だ。条件が付いている。
なのに「インフレ」になった時に「財政をいくらでも出動できる」と考えるのは危ないと訴えて意味があるのか。
まともな否定論を展開できないまま「もっとも、MMTにも『信用創造』に関する考え方には納得のいく部分はある」と肯定できる部分の話に移っていく。こちらには特に問題を感じない。だったら「MMT」肯定論で一貫させた方が説得力は出るだろう。
※今回取り上げた記事「INTERVIEW~MMTは日本を救う理論なのか」https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00605/?P=4
※記事の評価は見送る。「MTT」に関しては以下の投稿も参照してほしい。
岩村充 早大教授が東洋経済オンラインで展開した「MMT」否定論に疑問https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/mmt-deep-insight.html
「MMTは呪文の類」が根拠欠く日経 上杉素直氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/mmt-deep-insight.html
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