国の規制はとにかく廃止すればいい訳ではない。18日の日本経済新聞朝刊1面に載った「菅新政権 政策を問う(1)規制改革で『幻の3%』取り戻せ」という記事の筆者も異論はないはずだ。「国民が得られるはずの利益を規制が奪うケースはいくつもある」と具体例を紹介するならば「なるほど」と納得できる材料を示してほしい。今回はそれができているとは思えない。
有明佐賀空港 空港公園のYS-11型機 ※写真と本文は無関係です |
当該部分を見ていこう。
【日経の記事】
長年維持される「岩盤規制」は簡単には崩れない。国民が得られるはずの利益を規制が奪うケースはいくつもある。
ネット企業のBotExpress(東京・港)は10日、総務省を相手に東京地方裁判所に訴えを起こした。同社が4月に始めたLINEアプリで住民票を取り寄せられるサービスに「待った」をかけられたからだ。
総務省は「国が求める電子署名で本人確認をしていない」として全国の自治体に導入しないよう通知を出した。しかしLINEは広く国民に普及し、新サービスでは顔認証など最新技術も導入している。
中島一樹社長は「国の規制は民間のアイデアや技術を阻害する。規制を解いてくれればイノベーションはもっと前進するのに」と憤る。
◎BotExpressの肩を持つ根拠は?
「総務省は『国が求める電子署名で本人確認をしていない』として全国の自治体に導入しないよう通知を出した」という。なりすましのリスクを考慮しているのだろう。この「通知」に対する反論は「LINEは広く国民に普及し、新サービスでは顔認証など最新技術も導入している」だ。「広く国民に普及」していることは、なりすましリスクの低減にはつながらない。問題は「顔認証など最新技術も導入している」から、なりすましを防げるかどうかだ。
これに関しては、説明が不十分なので何とも言えない。なのに「国民が得られるはずの利益を規制が奪うケース」に仕立てている。「LINE」を使うのだから、本人の写真を使って「顔認証」をクリアできるのではないかと思えるが、記事中に答えはない。
「国が求める電子署名で本人確認」をすべきだと「総務省」が求めているのならば「BotExpress」が応じれば済むような気もする。それが難しい事情があるのだろうが、これまた記事には情報がない。
「LINEアプリで住民票を取り寄せられるサービス」が仮に便利なものだとしても、なりすましのリスクが高ければ「国民が得られるはずの利益を規制が奪うケース」と見なすのは早計だ。「国民」に被害が及ばないようにきちんと「規制」した「ケース」かもしれない。
なのに「国の規制は民間のアイデアや技術を阻害する。規制を解いてくれればイノベーションはもっと前進するのに」という「BotExpress」社長のコメントを使ってしまう。
別に「総務省」を擁護したいのではない。おかしな「規制」だと納得できれば「中島一樹社長」と思いを共有できる。だが、記事にはそれに必要な材料が見当たらない。
それに「国が求める電子署名」は「長年維持される『岩盤規制』」なのかとの疑問も残る。「電子署名」自体の歴史がそれほど長くない気もするが…。
※今回取り上げた記事「菅新政権 政策を問う(1)規制改革で『幻の3%』取り戻せ」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200918&ng=DGKKZO64002610X10C20A9MM8000
※記事の評価はD(問題あり)
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