2020年9月15日火曜日

「戦う意思なし」と宣言すれば米中戦争に巻き込まれない? 楽観的過ぎる寺島実郎氏

週刊東洋経済9月19日号の特集 「アメリカの新常識」の中の「INTERVIEW 日本総合研究所会長 寺島実郎『日米同盟のあり方を見直す重要な機会に』」という記事で、寺島氏の発言が気になった。「考えが甘すぎるのでは?」と感じたくだりを見ていこう。

大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市)
      ※写真と本文は無関係です


【東洋経済の記事】

東アジアでも、米中対立がエスカレートして偶発的な軍事衝突が起き、火が燃え広がるかもしれない。中国も異常な焦燥感の中にある。香港を見つめて対中不信が爆発した台湾で蔡英文総統が再選され、コロナ制御で台湾の国際的評価も高まる中、米国の台湾への肩入れが強まっているためだ。習近平国家主席はここを先途と台湾への武力介入をちらつかせている。

忘れてはならないのは、「台湾には米軍基地がない」という事実だ。もし台湾に中国が武力介入し、米国が台湾防衛の行動を起こせば、中国に沖縄や岩国の米軍基地を攻撃する根拠を与える。集団的自衛権で米軍との一体化を強めた日本は、米中戦争に自動的に巻き込まれるサイクルの中にある

日本が今やるべきことは、武力で「台湾解放」をしようという中国に異議を申し立てると同時に、武力で紛争解決をしない国として、台湾問題を理由に軍事衝突を選択する意思はまったくないことを国際社会に示しておくことだ。巻き込まれてしまった後では遅い

一方、中国が猛烈な圧力を加える尖閣諸島の問題では、米国は日中の対立に巻き込まれるのを忌避している。要するに、日米同盟さえあれば平和と安全が守られるという単純な話ではないことに、日本人はもう気づかねばならない。米国への過剰同調で日米中の関係を考えれば、いやでも対立の中に吸い込まれるだけだ。

バイデン政権に代わっても、米中の緊張関係は変わらない。大事なのは、東アジアの安全保障を考えるうえで、極めて重要なタイミングに来ているということだ。

米中の間に立ち、意思疎通のパイプをつくるなど、日本が果たすべき役割は大きい。同時に、米国の戦争に自動的に巻き込まれることのないよう、主権国家として、米軍基地縮小や地位協定見直しを含め、日米同盟の再設計を試みる必要がある。新型コロナというグローバルな問題に対処するためにも、米国を一国主義的な陶酔感の中に放っておかず、国際協調の流れをつくらねばならない。日本人にとって米大統領選は、そうした根本問題に正面から向き合う機会と捉えるべきだ。


◎「意思」を示せば大丈夫?

台湾に中国が武力介入し、米国が台湾防衛の行動を起こせば、中国に沖縄や岩国の米軍基地を攻撃する根拠を与える。集団的自衛権で米軍との一体化を強めた日本は、米中戦争に自動的に巻き込まれるサイクルの中にある」という考えに異論はない。問題はその後だ。

武力で紛争解決をしない国として、台湾問題を理由に軍事衝突を選択する意思はまったくないことを国際社会に示しておくことだ。巻き込まれてしまった後では遅い」と寺島氏は言う。そんな「意思」を示して何の役に立つのか。

沖縄や岩国の米軍基地」からやってくる艦船や航空機によって中国軍に甚大な被害が出ているとしよう。その時、「日本は『台湾問題を理由に軍事衝突を選択する意思はまったくない』と言ってたから『沖縄や岩国』には一切手を出さないでおこう」と中国が考えてくれるだろうか。いくら何でも甘すぎる。

「台湾問題で米中が衝突した時に集団的自衛権は行使しない。日本国内の米軍基地の使用は一時的に凍結する」といった措置を取れば「米中戦争に自動的に巻き込まれるサイクル」から逃れられるかもしれない。だが、寺島氏はそこまで求めていない。

米国と同盟関係を結んでおいて基地まで置かせて「米中戦争に自動的に巻き込まれるサイクル」から逃れられると期待する方がおかしい。「日米同盟」の基本的な枠組みを維持するのならば「米中戦争」ではべったりと米国側に付くしかない。

主権国家として、米軍基地縮小や地位協定見直しを含め、日米同盟の再設計を試みる必要がある」とは寺島氏も言っている。だが「地位協定見直し」は中国にはあまり関係がなさそうだ。「米軍基地縮小」は多少の影響があるだろうが、「縮小」しても「米軍基地」が残るのならば「中国に沖縄や岩国の米軍基地を攻撃する根拠を与える」ことに変わりはない。

だったら、日米同盟を破棄して「米中戦争に自動的に巻き込まれるサイクル」から逃げ出せばいいのではと感じる。

「その代わりに尖閣諸島を中国に奪われるぞ」との反論があるかもしれないが、寺島氏によると「中国が猛烈な圧力を加える尖閣諸島の問題では、米国は日中の対立に巻き込まれるのを忌避している」らしい。だったら何のための「日米同盟」なのか。

日米同盟さえあれば平和と安全が守られるという単純な話ではないことに、日本人はもう気づかねばならない」と寺島氏は言うが、個人的には「日米同盟さえあれば平和と安全が守られる」とは昔から思っていない。むしろ「平和と安全」を脅かすものだと感じる。

なのに「日米同盟の再設計を試みる必要がある」などと、あくまで「日米同盟」の存続を前提に物事を考える理由が分からない。「日米同盟」は本当に「平和と安全」に寄与するものなのかという「根本問題」を考えるべき時期に来ているのではないか。


※今回取り上げた記事「INTERVIEW 日本総合研究所会長 寺島実郎 『日米同盟のあり方を見直す重要な機会に』

https://premium.toyokeizai.net/articles/-/24671


※記事の評価は見送る

0 件のコメント:

コメントを投稿