2019年4月8日月曜日

「プライマリーケア」巡る東洋経済 野村明弘氏の信用できない「甘言」

記事の冒頭に「『この政策で問題は一挙に解決する』との政治的甘言は大半がウソで信用できない。だが医療にはこうしたウルトラC的かつまっとうな政策が珍しく存在する。プライマリーケアの制度化だ」と書いてあると「そんな夢のような政策があるのか」と期待してしまう。結論から言えば、期待は裏切られた。
筑後川沿いの桜(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です

週刊東洋経済4月13日号の「ニュースの核心~医療を救うプライマリーケア」という記事で筆者の野村明弘氏(本誌コラムニスト)は以下のように説明している。

【東洋経済の記事】

プライマリーケアがウルトラC的な要素を持つのは、それが医療費抑制にも直結するからだ

病状や治療法の情報が少ない患者は医療設備や外観を見て病院を選びがち。結果、軽症の患者が大病院に押し寄せ、病院経営者は顧客獲得を狙って医療設備や人材を拡張する。その対応に本来2次・3次医療に特化すべき専門医が忙殺され、効率や質が低下。過剰な医療設備は医療費を膨らませる。

政府は現在、1〜3次の医療機関の機能分化を強化し、それによる医師の業務効率化で急性期など過剰病床を削減して医療費の抑制を目指す。だが、再編は遅れぎみ。欠けているのはプライマリーケアの制度化だ。プライマリーケアでは家庭医が軽症患者に対応し、重症患者は大病院に橋渡しする。このため、大病院は2次・3次医療に特化でき、顧客獲得競争も減少。機能分化と病床削減は加速する。

プライマリーケアでは国民の家庭医登録が必須であり、日本医師会は制度化に反対だ。医療機関を自由に選択できる現行のフリーアクセスに反するからだ。だが、患者が病状や治療法の情報を十分に持てない医療では経済理論的に消費者主権は成立せず、フリーアクセスを正当化する根拠は弱い。

医療制度に詳しいニッセイ基礎研究所の三原岳・准主任研究員は「政府は病床削減による医療費抑制を前面に出すが、プライマリーケアを制度化すれば質の向上も進む。国民の理解をもっと得られるのではないか」とみている。


◎どの「問題」を一挙に解決?

まず「プライマリーケアの制度化」が何の問題を「一挙に解決」してくれるのか謎だ。「医療」に関する全ての問題なのか。それはさすがに無理だろう。「プライマリーケアがウルトラC的な要素を持つのは、それが医療費抑制にも直結するからだ」と書いてあるので、とりあえず「医療費」に関する問題が「一挙に解決」すると考えよう。

だが、記事を最後まで読んでも、そう思えるだけの根拠は見つからない。「医療費抑制にも直結する」と野村氏は断言するが、「プライマリーケアの先進導入国」である「英国やオランダ、デンマーク、カナダ、豪州など」で問題が「一挙に解決」したと受け取れる記述はない。それどころか「医療費抑制」に関する具体的なデータさえない。

仮に「医療費抑制」に明らかな効果があっても、それで問題が「一挙に解決」する訳ではない。例えば「プライマリーケアの制度化」には「医療費」を1%減らす明確な効果があるとしよう。しかし、それを上回るペースで「医療費」が増えているのに、財源の手当てが追い付いていない場合、問題は「解決」しない。

思い出してみよう。「『この政策で問題は一挙に解決する』との政治的甘言は大半がウソで信用できない。だが医療にはこうしたウルトラC的かつまっとうな政策が珍しく存在する。プライマリーケアの制度化だ」と野村氏は書いていた。記事を読んだ限りでは「プライマリーケア」に関する野村氏の「甘言」も「信用できない」と判断するしかない。

ついでに言うと「患者が病状や治療法の情報を十分に持てない医療では経済理論的に消費者主権は成立せず、フリーアクセスを正当化する根拠は弱い」との解説にも納得できなかった。「商品やサービスに関して消費者が十分な情報を得られない状況では、フリーアクセスの制限が正当化できる」と野村氏は考えているのだろう。その場合、ほとんどのケースで「フリーアクセスを正当化する根拠は弱い」との結論を導き出せる。

例えば住宅だ。耐震偽装の問題などで分かるように、購入者は住宅に関して「情報を十分に持てない」まま取引をしている。外食でもそうだ。どんな食材を使っているのかについて「情報を十分に持てない」まま、消費者は出された料理を口にしている。住宅や外食に関して「フリーアクセス」を制限した場合、野村氏は「経済理論的に消費者主権は成立しないんだから、制限もやむなし」と考えるのだろうか。


※今回取り上げた記事「ニュースの核心~医療を救うプライマリーケア
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/20314


※記事の評価はD(問題あり)。野村明弘氏への評価もDを据え置く。野村氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

アジア通貨危機は「98年」? 東洋経済 野村明弘記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/98.html

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