東京駅(東京都千代田区)※写真と本文は無関係です |
今回のテーマは「トークンエコノミー」だ。その「破壊力」に触れたくだりを見ていこう。
【日経の記事】
ニューヨーク、マンハッタンのイーストビレッジ。日本食レストランや雑貨店などがひしめき、リトル東京と呼ばれる通りもある人気観光スポットの一角にこのほど新築コンドミニアムが完成した。各戸1700平方フィート(約158平方メートル)、12戸からなるこの物件が世界の投資家から関心を集めている。
「不動産市場を変貌させる画期的な手法だ」。セレブ不動産ブローカーで不動産物件を扱うテレビ番組の人気タレント、ライアン・サーハント氏は米メディアのインタビューでこの新築コンドミニアムを称賛した。この物件が注目を浴びているのは、単にセレブが関わるからではなく、資金調達の方法が新しいからだ。
デベロッパーの建設費用は審査に時間のかかる銀行融資ではなく、この不動産を担保にした小口の「トークン(デジタル権利証)」で投資家から集めた。調達額は約3000万ドル(約33億円)。ブロックチェーン技術を活用し、公的な不動産登記の情報をデジタル化して売買の手間を減らす。「トークン不動産」は開発資金を提供した投資家が不動産の"持ち分"であるトークンを、交換業者を通じていつでも売却できる。
不動産投資では物件からあがる賃料収入などの権利を小口に分ける証券化が一般的。トークン不動産は従来の証券化商品と異なり、物件情報を改ざん不可能な分散型台帳であるブロックチェーン上に保存する。複数の機関に散らばっていた情報を一括管理し、手続きを簡略化する。そうすれば手数料も従来の金融商品より低く抑えることができるとみられる。
不動産はいったん購入すると、売却には時間がかかる。特に投資のプロである不動産ファンドの場合、一般的に投資してから5~7年は「ロックアップ」期間として持ち分を売却できない。運用先がトークンになれば、投資家はコストをかけずに24時間売却できるメリットがある。
◎「証券化」と大差ないような…
「不動産市場を変貌させる画期的な手法だ」というコメントは使っているが、記事を読む限りでは「トークン(デジタル権利証)」の破壊力はかなり小さそうだ。
従来と何が変わるのか。「『トークン不動産』は開発資金を提供した投資家が不動産の"持ち分"であるトークンを、交換業者を通じていつでも売却できる」らしいが、不動産の「証券化」商品も似たようなものだ。「24時間売却できる」とは言わないが、売却のしやすさで決定的な差はないだろう。「証券化」商品の方が市場に厚みがあり流動性が高いかもしれない。
「手数料も従来の金融商品より低く抑えることができるとみられる」という説明も引っかかる。「低く抑えることができる」かどうか確認できていないのか。「交換業者を通じていつでも売却できる」と言い切っているのに、手数料が高いか低いかもはっきりしない。ひょっとすると、現状では手数料が高くなるのではないか。
仮に「トークン」の方が手数料が低いとしても、5%や10%の安さならば「ディスラプション(創造的破壊)」といった類の話ではない。
「不動産はいったん購入すると、売却には時間がかかる」という問題には「証券化」商品で対応できる。「トークン」独自の利点ではない。結局、「手数料」以外に「トークン不動産」には目立った魅力がなさそうだ。しかも「手数料」が魅力的かどうかも明確になっていない。
記事では「テンプラム社のビンセント・モリナリ最高経営責任者(CEO)はトークン不動産について『流動性のない資産に流動性を与える』と説明する」というくだりもある。これに関しても「流動性の問題には証券化商品で対応できるのでは?」との疑問が消えない。
第2回で連載を中止してディスラプション面を廃止するのは難しいとは思う。しかし、このまま続けても苦しさが増すだけだ。「ブロックチェーン」によって「ディスラプション(創造的破壊)」が起きるという話に説得力を持たせられる記者は稀だろう。能力の問題ではない。課題の設定に無理がある。
※今回取り上げた記事「Disrution 断絶の先に 第1部 ブロックチェーンが変える未来(2)トークン不動産 マネー動かす」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190410&ng=DGKKZO43247750S9A400C1TL1000
※記事の評価はD(問題あり)。記者への評価は見送る。
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