能見邸(大分県杵築市)※写真と本文は無関係です |
【FACTAの記事】
9月5日、経済広報センターが主催する「企業広報賞」の表彰式が開かれた。今年で34回目。大賞はカルビーが受賞し、経営者賞にはANAホールディングス相談役の大橋洋治とジャパネットたかた創業者の高田明が選ばれた。
同賞には企業広報功労・奨励賞というものもある。広報マンを対象としたもので、今年はNECコーポレートコミュニケーション部長の飾森亜樹子と森ビル広報室長の野村秀樹が選ばれた。両者ともに広報経験が長い。飾森に至っては入社以来、広報一筋というキャリアだから、受賞にふさわしい人物といえるだろうが、表彰式の後で開かれたパーティで参加者の一人はこう呟いた。「会社があんな状態なのに晴れ舞台に引っ張り出されて、飾森さんも迷惑だろうなあ。僕だったら受賞を断るけれどね」
NECの経営悪化はよく知られた話ではあるが、最近、同社を退職した元研究者が書いたとされる「NECで何が起きているのか」というブログは、その惨状をかなり赤裸々につづっていて興味深い。
内容をかいつまんで紹介しよう。この研究者がSIについての研究発表をしたところ、当時研究所のトップだった江村克己(ブログではE氏となっている)が、「まだそんな研究をしていたのか」と酷評。その一言でこの研究には予算が付かなくなり、チームは解散となった。ブログでも指摘しているが、NECにとってSIは主力事業の一つ。にもかかわらず、「(チーム解散を機に)SIの研究はNECから完全に姿を消すことになった」と書いている。
ちなみにブログは飾森率いる広報についても触れている。「本当に優れた技術はNECからの広報には載らず、社外からの引き合いが先行する。なぜなら、広報はインパクトが優先され、そして広報ノルマを充足するために実施されるからだ」。その結果、研究者にしてみれば誰でもわかりそうな課題がクリアできていない研究途上の技術が新聞で大々的に紹介されてしまい、翌年、研究そのものを打ち切るという情けない“事件”があったことも暴露している。
話を元に戻すと、ブログは江村をかなりこき下ろした内容となっている。光通信の元研究者で、IT音痴はつとに有名。常務に昇格し、現在は最高技術責任者(CTO)と出世の階段を上ったが、なぜ偉くなったのか疑問。社内では“最高給”ブロガーと呼ばれ、毒にも薬にもならないビッグワードを垂れ流し、何かを言っているようで、実際は何ひとつ具体的な行動や指示を出せない人物である――といった具合だ。
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気になった点を列挙してみる。
(1)「何ひとつ具体的な指示を出せない」はずが…
「江村」氏の「まだそんな研究をしていたのか」という「一言」で「SIの研究はNECから完全に姿を消すことになった」らしい。だとしたら「具体的な指示」を出していると言える。「『NECで何が起きているのか』というブログ」の内容自体に矛盾があるのではないか。だとすれば、その点は記事中できちんと指摘すべきだ。
長崎駅(長崎市)※写真と本文は無関係です |
(2)「当時」っていつ?
「この研究者がSIについての研究発表をしたところ、当時研究所のトップだった江村克己が…」というくだりの「当時」がどの時期を指すのか記事からは判断できない。これでは困る。
(3)いきなり「SI」では…
「この研究者がSIについての研究発表をしたところ」というくだりで、何の注釈もなく「SI」が出てくる。「FACTAの読者はいきなり『SI』と書いても問題なく理解してくれる」とでも思っているのか。「システムインテグレーション(SI)」でも説明不足だと思えるのに、いきなり「SI」と表記できるのは悪い意味で凄い。上記の「当時」も含めて、今回の記事は説明が雑過ぎる。
(4)「本当に優れた技術」ならば…
「本当に優れた技術はNECからの広報には載らず、社外からの引き合いが先行する」という話も辻褄が合っていない。
「研究者にしてみれば誰でもわかりそうな課題がクリアできていない研究途上の技術が新聞で大々的に紹介」された話は「社外からの引き合いが先行」した例なのだろう。しかし「研究者にしてみれば誰でもわかりそうな課題がクリアできていない研究途上の技術」だとすれば、「本当に優れた技術」と呼べる段階ではない。
「本当に優れた技術はNECからの広報には載らず、社外からの引き合いが先行する」という話を持ち出すのならば、それに沿った例が欲しい。
(5)そもそも「広報」の話は要る?
「NECコーポレートコミュニケーション部長の飾森亜樹子」と実名まで出しているが、今回の記事で長々と「広報」に触れる必要は感じない。NECの経営を論じるならば「『NECで何が起きているのか』というブログ」の話から始めれば事足りる。
記事の続きを見ていこう。
【FACTAの記事】
IT音痴をCTOに戴く不幸が、NECだけに害を及ぼすだけならまだいいだろう。しかしNEC研究所残酷物語は、世間で相当由々しき事態を招いている。
第5世代移動通信システム(5G)を整備するにあたり、年度末にはNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルに対する周波数の割り当てが決まる。各社はこれを受けてインフラの整備を始める予定だが、その設備をどのようなメーカーから調達するのかで、政府は頭を抱えている。
設備の調達はキャリアに任されており、ソフトバンクや楽天モバイルは華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)といった中国企業の製品に強い関心を示している。しかし仮に中国製品を使えば、通信データがバックドアを通じて根こそぎ中国に持っていかれるという懸念があるのだ。「政府としては面と向かって中国製品排除とは言えないが、米国や豪州と同じように正面から取り組まないとまずいのも事実だ」と政府関係者は強い危機感を募らせる。
NEC、富士通、日立製作所、OKIの旧電電ファミリー4社が製品を供給すれば済む。とりわけ4社の中で最も通信分野の技術に長けてきたNECのひと踏ん張りで問題は解決すると思われがちだが、「NECにもはや技術はない。韓国サムスン電子やスウェーデンのエリクソン製品を使うしかないのではないか」という声が総務省内で上がっている。日本の安全保障を守るのに、NECは役に立たないと監督官庁が嘆く事態に陥っているのだ。
◎残りの3社が「供給すれば済む」のでは?
「NECにもはや技術はない」という話を取りあえず受け入れてみよう。だが、「旧電電ファミリー4社が製品を供給すれば済む」のであれば、残りの「富士通、日立製作所、OKI」に頼ればいいはずだ。なのになぜか「韓国サムスン電子やスウェーデンのエリクソン製品を使うしかないのではないか」というコメントを使っている。
国東半島サイクリングコース(大分県国東市) ※写真と本文は無関係です |
「富士通、日立製作所、OKI」にも「技術はない」のならば、そう説明すべきだ。ちなみに日本経済新聞は今年2月24日付で「富士通、ドコモに5G基地局機器 19年度中に商用化」と報じている。
FACTAの記事の続きをさらに見ていく。
【FACTAの記事】
NECの体たらくは約20年前に始まった。1999年にNEC社長となった故・西垣浩司は、「天皇」と呼ばれた関本忠弘と壮絶な権力闘争を繰り広げた。そのあおりを食らったのが研究開発部門だ。
関本は晩節を汚したものの、技術開発にカネが注ぎ込まれることに鷹揚だった。技術部門のトップに元副社長の植之原道行がいたからだ。毎年のようにノーベル賞候補として名前が挙がる飯島澄男を87年に特別主席研究員として招聘したのは植之原。飯島の研究テーマであるカーボンナノチューブはNECの事業とほとんど関係がなかったが、「研究に必要な顕微鏡を欲しがった飯島さんに関本さんがぽんと1億円を出したのは、植之原さんの存在が大きかった」と関係者は言う。
しかし西垣は聖域化していた研究開発部門にメスを入れた。当時、NECの経営は悪化をしていたからやむを得ない面もあったが、「関本憎し」が高じて、ビジネスに結びつかない研究開発を必要以上に潰した。象徴的なのが2003年の研究所再編で、全国に8つあった拠点は5つに減少。これで「将来はNECの屋台骨を支えるかもしれない」といった類いの研究はことごとく中止が決まった。
NECをおかしくしたのは関本だろう。しかし、メーカーのメシのタネである技術の芽を最初に摘み、お先真っ暗にしたのは西垣で、続く故・金杉明信、矢野薫、遠藤信博、新野隆という歴代社長が西垣の技術リストラ路線を継承した。もっとも西垣が摘んだのは将来のメシのタネ。遠藤や新野はSIという今のメシのタネを潰したとブログは指摘しているわけで、それほど今のNECは窮している。
◎「SI」を「潰した」のは誰?
上記のくだりでは「遠藤や新野はSIという今のメシのタネを潰したとブログは指摘している」と説明している。しかし、記事の最初の方では、「江村」氏の「まだそんな研究をしていたのか」という「一言」で「SIの研究はNECから完全に姿を消すことになった」と述べていた。ここでも話の辻褄が合っていない。
「遠藤や新野」という歴代の社長が「SI」を潰す判断をしたのならば、「CTO」の「江村」氏が「まだそんな研究をしていたのか」と言うのは当然だ。会社が決めた方針に従って、自らが担当する組織を動かしているだけではないか。「IT音痴をCTOに戴く不幸」などと責められる筋合いはない。
やはり、この記事は問題が多い。最近のFACTAの実力をよく表している記事だと思える。
※今回取り上げた記事「NECが隠す『不都合な真実』」
https://facta.co.jp/article/201811011.html
※記事の評価はE(大いに問題あり)。この記事に関しては以下の投稿も参照してほしい。
「NECが隠す不都合な真実」は本当にある? 読者を欺くFACTAの記事
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/nec-facta.html
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