2018年2月19日月曜日

株式も「空前の低利回り」? 日経 滝田洋一編集委員の怪しい解説

日本経済新聞の滝田洋一編集委員が19日の朝刊オピニオン面にツッコミどころの多い記事を書いている。「核心~誰もがそれをやっていた 適温相場の幻想 市場踊る」という記事の中身を見ながら、気になった点を指摘してみたい。

今川沿いの菜の花(福岡県行橋市)
        ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

変動率の売りを組み込む金融取引は、ここ数年で広まった。空前の低利回りが世界を覆い、株式市場は波音ひとつ立てない。そんな感想を大多数の投資家が抱いたからだ。



◎株式市場は「空前の低利回り」? 

滝田編集委員は「空前の低利回りが世界を覆い、株式市場は波音ひとつ立てない。そんな感想を大多数の投資家が抱いた」と信じているようだ。だとしたら怖い。滝田編集委員は株式市場の動向をきちんと理解しているのだろうか。米国株に限っても「ここ数年」は順調に値を上げ、投資家はそこそこの「利回り」を得ているはずだ。

債券市場は「空前の低利回り」かもしれないが、株式には当てはまらない。株式相場がずっと横ばい圏で推移してきたのならば「株式市場は波音ひとつ立てない」と書くのも分かる。しかし、そうはなっていない。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

彼らはリスクを意識せず収益のかさ上げを狙った。米投資アドバイザー、ビニア・バンサリ氏らが2月6日に発表した論文「誰もがそれをやっている」の副題は「ボラティリティー売り戦略と影の金融保険」。代表的な取引に次のようなものを挙げている

価格変動の大きさであるリスク量に応じて資産を配分する「リスク均等ファンド」。株価の変動率が長らく低下傾向にあったため、リスク量が低水準となっていた株式への配分は多めになった。

設定したボラティリティーになるよう資産を配分する「ボラティリティー目標ファンド」。これまた株式のボラティリティー低下で、従来より多めに配分する結果に。

資産価格に生じたゆがみに目を付けた「リスクプレミアム収穫ファンド」。割安になった資産を買う戦略だが、株高を受け株式を買っていた

推計運用額はそれぞれ5000億ドル、3500億ドル、3000億ドルにのぼる。そのほか株高などの相場の流れを追う「トレンド・フォロワー」の運用額も3000億ドルに。

これらを積み上げると取引残高は1.5兆ドルにもなる。



変動率の売り」を組み込んでる?

変動率の売りを組み込む金融取引は、ここ数年で広まった」「代表的な取引に次のようなものを挙げている」と書いた上で、「リスク均等ファンド」「ボラティリティー目標ファンド」「リスクプレミアム収穫ファンド」を取り上げている。普通に解釈すれば、これらは「変動率の売りを組み込む金融取引」のはずだ。
キリンビール福岡工場(朝倉市)※写真と本文は無関係です

しかし、どうも怪しい。例えば「リスク均等ファンド」は「価格変動の大きさであるリスク量に応じて資産を配分する」だけだ。オプションの売りを組み込むケースもあるかもしれないが、一般的とは思えない。他の2つのファンドも同様だ。「設定したボラティリティーになるよう資産を配分する」だけならば、オプションの売りは必要ない。「割安になった資産を買う戦略」でもそうだろう。

リスクプレミアム収穫ファンド」に関する「割安になった資産を買う戦略だが、株高を受け株式を買っていた」という説明にも疑問が残る。「割安になった資産を買う」戦略ならば、基本は押し目買いを狙うはずだ。「株高を受け株式を買っていた」のであれば、戦略から外れているような気もする。

そのほか株高などの相場の流れを追う『トレンド・フォロワー』の運用額も3000億ドルに」と書いているが、これが「変動率の売りを組み込む金融取引」でないのは滝田編集委員も異論がないはずだ。なのに「リスク均等ファンド」「ボラティリティー目標ファンド」「リスクプレミアム収穫ファンド」に足して「これらを積み上げると取引残高は1.5兆ドルにもなる」と紹介して何の意味があるのか。どうせならば「変動率の売りを組み込む金融取引」の合計額を見せるべきだ。

また「1.5兆ドルにもなる」と単独でこの金額だけ出されても、多いのか少ないのか判断できない。市場全体との比較などがないと苦しい。

さらに記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

今回の米国株急落の引き金として、米国の株価変動率の売りを組み込んだ証券が脚光を浴びた。恐怖指数の異名を持つボラティリティーの指数(VIX)が急上昇し、この証券の損失が雪だるま式に拡大。たった1日でほとんど無価値になった。

投資家は損失の拡大を防ごうと株式先物市場で売りに走った。相場の流れを追う取引が下げに拍車をかけ、米国株は空前の下げ幅を記録した。

実はVIXそのものの売りを組み込んだ証券の残高は30億ドル、VIXに的を直接絞った取引も30億ドルにとどまるとバンサリ氏らは推計する。となると、2月の米国株急落は尻尾が犬の胴体を振り回したようなもので、最高値圏にあった株式市場の過剰反応にすぎないとの指摘も聞かれる。



◎VIX関連が「引き金」?

様々な報道から「米国株式相場の下落を受けてVIXが急上昇した」と理解していたが、滝田編集委員の解説によると逆のようだ。まずVIXが急上昇し、その関連の「証券の損失が雪だるま式に拡大」したことが「今回の米国株急落の引き金」らしい。

これが本当ならば「2月の米国株急落は尻尾が犬の胴体を振り回したようなもの」だが、滝田編集委員が書いているだけに信用する気にはなれない。VIXの急上昇が株式相場の下げを加速させる面はあったかもしれないが「引き金」ではないと思える。


※今回取り上げた記事「核心~誰もがそれをやっていた 適温相場の幻想 市場踊る
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO27013890W8A210C1TCR000/


※記事の評価はD(問題あり)。滝田洋一編集委員への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。滝田編集委員については以下の投稿も参照してほしい。


日経 滝田洋一編集委員 「核心」に見える問題点(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_4.html

日経 滝田洋一編集委員 「核心」に見える問題点(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_24.html

日経 滝田洋一編集委員 「核心」に見える問題点(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_5.html

引退考えるべき時期? 日経 滝田洋一編集委員 「核心」(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_32.html

引退考えるべき時期? 日経 滝田洋一編集委員 「核心」(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_40.html

市場をまともに見てない? 日経 滝田洋一編集委員「羅針盤」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_69.html

日経 滝田洋一編集委員「リーマンの教訓 今こそ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_16.html

市場への理解が乏しい日経 滝田洋一編集委員「羅針盤」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_9.html

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