2018年2月2日金曜日

日経1面「人生100年時代 長生き年金相次ぐ」の宣伝臭さ

2日の日本経済新聞朝刊1面トップを飾った「人生100年時代 備え厚く 長生き年金相次ぐ 三井住友銀、初の外貨建て 資産形成に選択肢」という記事は、業界寄りで宣伝臭さが強かった。中身を見ながら、問題点を指摘してみる。
日産グローバル本社(横浜市)
        ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】 

日本人の長寿化が進むなか、老後の資金不足に備える動きが広がってきた。金融機関は個人が生涯にわたり、お金を受け取れるようにする年金保険や投資信託を開発。政府も70歳を超えてから公的年金を受給できる仕組みなどを検討している。老後の期間が長くなると、預貯金や年金だけでは生活費を賄えなくなる恐れがある。「人生100年時代」を迎え、高齢者が安心して過ごせる環境づくりが日本の課題だ。

日本人の平均寿命は男性81歳、女性87歳。2045年にはさらに2~3歳ほど延びるとされる。世界保健機関(WHO)によると、日本は健康で過ごせる期間を示す健康寿命が74.9歳で世界一。老後の生活費の確保は切実な課題だ。



◎「人生100年時代」を迎えた?

最近はよく「人生100年時代」という言葉を耳にする。そういう時代が近づいてきているのかもしれないが、現状では「人生100年時代」には程遠い。記事でも「日本人の平均寿命は男性81歳、女性87歳」と書いている。「人生90年時代」にすらなっていない。「2045年にはさらに2~3歳ほど延びる」としても、女性がようやく「人生90年時代」に辿り着くレベルだ。

なのに記事では「『人生100年時代』を迎え」と既に「人生100年時代」に突入したかのような書き方をしている。危機感を煽りたい気持ちは分かるが、大げさかつ不正確だ。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

金融広報中央委員会によると、60歳代の金融資産は平均2202万円にのぼるが、そのうち58%が預貯金に集まる。預金が金利を生まない低金利時代に預貯金を取り崩すだけでは、老後の生活費を賄うのは難しい。

三井住友銀行は「長生き年金」(総合2面きょうのことば)と呼ぶ終身年金保険に銀行として初めて参入する。三井住友海上プライマリー生命保険と開発し、米ドルと豪ドルで運用する国内初の外貨建て商品。今月初旬から扱う。

円建てより高い積立利率が見込める半面、円高の局面で円に転換すると受取額は目減りする。早く亡くなれば損に、長生きすれば得をするのが特徴だ。60歳で契約し、70歳から米ドルで受給すると、83~84歳まで生きれば払い込んだ保険料より多くの年金をもらえる。

長生き年金は生保各社が16年から扱い始め、昨年末の契約数は計約5万件。生保の営業職員による販売が中心だ。全国に支店がある銀行の参入で市場拡大に弾みがつくとみられ、先行する日本生命保険も保険ショップでの供給を増やす。


◎「早く亡くなれば損」は確かだが…

今回の記事の柱は「三井住友銀行は『長生き年金』と呼ぶ終身年金保険に銀行として初めて参入する」ことだ。朝刊1面で大きく扱うほどの話ではないし、「高齢者が安心して過ごせる環境づくり」に役立つとも思えない。
大刀洗平和記念館(福岡県筑前町)※写真と本文は無関係

問題は「外貨建て商品」である点だ。記事では「早く亡くなれば損に、長生きすれば得をするのが特徴だ」と書いている。正確に言えば「早く亡くなれば確実に損をして、長生きすれば得をする可能性もあるのが特徴だ」といったところか。

円高の局面で円に転換すると受取額は目減りする」のだから「100歳まで生きたけど、結局は払い込んだ保険料を取り戻せなかった」という事態も十分にあり得る。ギャンブルとして楽しむのなら別だが、これで「安心」が手に入るとは考えにくい。

外貨建て商品」にしたのは「払い込んだ保険料より多くの年金をもらえる」年齢が高くなり過ぎないようにするためだろう。その代償として余計な為替リスクを負っているのが問題だ。こんな商品を朝刊1面で「人生100年時代 備え厚く」と見出しを付けて紹介する気が知れない。

ちなみに、この分野で「先行する日本生命保険」が販売する「グランエイジ」の中身を見てみると、5年保証期間付き終身年金(年金額60万円、契約50歳、払込満了・年金開始70歳)の月間保険料は男性が5万790円、女性が6万2526円だ。これだけの金額を支払える余裕があるのに、長生きした時の「備え」が心許ないという状況はちょっと考えにくい。

日経には、金融業界に寄り添って「全国に支店がある銀行の参入で市場拡大に弾みがつくとみられ」などと書く前に、保険契約者にとって検討すべき商品設計になっているかどうかを念入りに検討してほしい。

もう少し記事の中身を見ていこう。

【日経の記事】

米国でもベビーブーマー世代の退職を控え中高年の加入が増加。第一生命経済研究所は15年末の米市場規模を約3千億円とみる。

野村証券も長寿化に対応する投信を開発。通常の商品と異なり、年3%程度の目標利回りを設定した。担当者は「預貯金の取り崩しに不安を覚える退職者の利用を想定し、多少のリスクをとりつつ生活資金を残せるよう提案している」と話す

同社によると、退職金と預貯金の平均額を計3500万円とした場合、65歳から月12万円取り崩すと89歳で使い果たす。年3%で運用できれば、同じペースで預貯金を取り崩しても105歳超まで資金が底をつかない。



◎どこが「長寿化に対応」?

野村証券も長寿化に対応する投信を開発」と書いているが、どこが「長寿化に対応」しているのか謎だ。「通常の商品と異なり、年3%程度の目標利回りを設定した」ことと「長寿化」への対応に直接の関係はない。

預貯金の取り崩しに不安を覚える退職者の利用を想定し、多少のリスクをとりつつ生活資金を残せるよう提案している」と野村は言うだろうが、それを記事で「長寿化に対応する投信」として紹介するならば、どう「長寿化に対応」しているのかは明示すべきだ。「年3%で運用できれば」長寿化にも対応できるだろうが、それは他の投信でも同じだ。「年3%程度の目標利回りを設定した」からと言って利回りを確実に達成できるわけでもない。

例えば「80歳以上では3%、90歳以上では5%、100歳以上では7%の利回りを保証する投信」であれば「長寿化に対応」と言われて納得できる。記事で紹介しているのは「長生きリスクを気にする人に野村が勧める投信」に過ぎないのではないか。それを「長寿化に対応する投信」と疑いもなく書いてしまうところに日経の業界寄りの姿勢を感じる。


※今回取り上げた記事「人生100年時代 備え厚く 長生き年金相次ぐ 三井住友銀、初の外貨建て 資産形成に選択肢
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180202&ng=DGKKZO26437670R00C18A2MM8000

※記事の評価はD(問題あり)。

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