2016年12月7日水曜日

データ解釈に問題あり週刊エコノミスト特集「ブラック企業」

相関関係があるからと言って因果関係があるとは限らないし、AとBの間に因果関係があるとしても「AだからB」と「BだからA」の2通りがある--。経済記事を書く者であれば、ここは頭に入れておきたい。だが、往々にしてご都合主義の結論を導いてしまう。週刊エコノミスト12月13日号の特集「息子、娘を守れ 電通過労自殺 ブラック企業」もその一例だ。
JR成田駅(千葉県成田市) ※写真と本文は無関係です

特集の中の「データで見る働き方最前線」という記事の一部を見ていこう。

【エコノミストの記事】

女性管理職割合と業績は、女性管理職割合が1%上昇した場合、2年連続増収する確率が0.52%上昇するという結果になった。女性が活躍できる環境は「女性管理職割合の上昇」→「2年連続増収の確率上昇」と段階を経て、企業業績を押し上げることが明らかになった。

----------------------------------------

まず言葉の使い方に触れたい。「増収する」には違和感がある。「2年連続増収となる確率」などとした方が良いだろう。

話を戻そう。特集を担当した酒井雅浩記者と大堀達也記者は帝国データバンクの2015年の調査を基に、女性管理職割合と企業業績の間に因果関係があると結論付けている。これは妥当だろうか。

まず気になるのが、記事に付けた「図2」には「環境整備と業績に相関関係」というタイトルが付いていることだ。前述したように、相関関係が確認できても因果関係があるとは限らない。なのに、なぜか「女性管理職割合」を増やせば「企業業績を押し上げる」と言い切っている。

時期が不明なのも引っかかる。2015年の調査なので、14年度の数字を使っている可能性が高い。仮に「女性管理職割合の上昇」は14年度の数字を13年度と比べたものだとしよう。そして「2年連続増収」は13年度と14年度の連続増収だと見なしてみる。

この場合、記事のような因果関係を見出すのはかなり無理がある。14年度に女性管理職を増やした効果で業績が上向くとしよう。その多くは15年度以降に出てくるはずだ。14年度にも多少は影響するかもしれないが、13年度には関係しない。

12年度に女性管理職比率を上げた企業は13年度と14年度に関して連続増収になる確率が高かった」というのならば、因果関係を検討するに値する。だが、そうした記述は見当たらない。

百歩譲って因果関係があるとしても、「業績の良い企業は経営面での余裕があるので女性管理職比率の引き上げに取り組む傾向が強い」という関係かもしれない。こちらの因果関係ではなく「女性管理職割合の上昇」→「2年連続増収の確率上昇」という流れを担当記者らは選んでいるが、その理由は不明だ。

この因果関係の問題は「投資家目線で問う 働き方改革 注目15社の本気度」(筆者は楽天証券経済研究所所長の窪田真之氏)という記事でも感じた。

【エコノミストの記事】

働き方改革には、生産性を高める効果もある。「会社にいる」ことではなく、「決められた役割を果たす」ことが問われるようになるからだ。従業員の役割分担を明確にし、多様な働き方で貢献できるようにすることで、多様な人材が会社に貢献できる「働き方の構造改革」が必要になる。

私がある会合で、働き方改革や女性の活用に真剣に取り組む企業は「買い」と話したところ、「業績が良く、株価が上昇している企業だからこそ、働き方改革にコストをかけるゆとりがあるのでは」と反論した人がいた。いまだに、採用の現場で起こっている現象を理解できていない経営者も多い。

----------------------------------------

業績が良く、株価が上昇している企業だからこそ、働き方改革にコストをかけるゆとりがあるのでは」と反論した人が間違っているならば、それでもいい。だが、なぜ間違っていると断定できるのかは説明してほしかった。根拠を示さずに反論を退けられても、窪田氏の主張に賛同する気にはなれない。

窪田氏の「働き方改革や女性の活躍に真剣に取り組む企業は『買い』」との解説にも疑問が残る。記事の冒頭では「働き方改革や女性の活用に真剣に取り組む企業は『買い』だ。働き方改革の進んでいる企業に投資することで、東証株価指数(TOPIX)を上回るパフォーマンスを得られる傾向が強まると考えている」と言い切っている。

こんな単純な方法で「東証株価指数(TOPIX)を上回るパフォーマンスを得られる傾向が強まる」のならば話は簡単だ。TOPIXを高い確率でアウトパフォームできるアクティブファンドが簡単に作れる。だが、本当にそんなおいしい話があるのか。

働き方改革や女性の活躍に真剣に取り組む企業」を集めて、過去何年間かの株価推移を比べればTOPIXを上回っているかもしれない。だが、それは今後を占う上で有用な情報とは言い難い。広く知られているように、株式投資に関しては、ある銘柄群の過去のパフォーマンスが良かったからと言って、今後の上昇確率が他の銘柄群よりも高いとは言えない。TOPIXを上回るかどうかは、日本株のどの銘柄群も基本的に五分五分だ。

もちろん「働き方改革や女性の活躍に真剣に取り組む企業」への投資が例外である可能性もゼロではない。だが、現時点では何とも言えない。窪田氏が「買い」と信じているのならば、それを否定はしない。とは言え、窪田氏を信じて投資する気にもなれない。「東証株価指数(TOPIX)を上回るパフォーマンスを得られる傾向」を見つけ出すのは、そんなに簡単ではないはずだ。


※特集全体の評価はD(問題あり)。酒井雅浩記者への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ、大堀達也記者への評価はCからDへ引き下げる。今回の特集については以下の投稿も参照してほしい。

「解雇の金銭解決」は得策? 週刊エコノミスト特集に疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_85.html


※酒井記者と大堀記者については以下の投稿も参照してほしい。

週刊エコノミストの特集「家は中古が一番」に異議あり
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post.html

0 件のコメント:

コメントを投稿