2016年12月18日日曜日

都内でも「地方店」と書く週刊ダイヤモンド大矢博之記者

地方店」と言う場合、「地方」はどの地域を指すだろうか。辞書には「首都などの大都市に対してそれ以外の土地」(デジタル大辞泉)と出ているが、明確に範囲を決めるのは難しい。ただ、きっちりと線引きができないからと言って、東京都内の店まで「地方店」扱いになると違和感が拭えない。
阿蘇駅(熊本県阿蘇市) ※写真と本文は無関係です

しかし、週刊ダイヤモンド12月24日号に大矢博之記者が書いた「財務で会社を読む~三越伊勢丹ホールディングス  “優等生”の旗艦店に黄信号 百貨店一本足打法で崖っぷち」という記事では、「三越多摩センター」も「伊勢丹府中」も「地方店」に含めている。

【ダイヤモンドの記事】

百貨店の課題として業界に共通するのが地方店の不振である。三越伊勢丹も、閉鎖を決めた三越千葉、三越多摩センターの2店に加え、伊勢丹松戸、伊勢丹府中、松山三越、広島三越の4店について、抜本的な構造改革を行うと今回の決算発表で明らかにした。

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地方店三大都市圏以外にある店」と受け取るのが一般的だろう。やや狭くして「首都圏以外にある店」と考えても、三越千葉、三越多摩センター、伊勢丹松戸、伊勢丹府中は「地方店」から外れる。「地方店東京23区外の店」とすれば記事の説明で問題なくなるが、府中市や多摩市を「地方」に分類する人は稀だと思える。

大矢記者には「百貨店の課題として業界に共通するのが地方店や郊外店での不振である」という書き方を薦めたい。

記事には、他にも気になる点がいくつかあった。列挙してみる。

◎大丸東京店はJフロントの「旗艦店」?

主要旗艦店の売上高の前年同期比」というタイトルが付いた表を見ると、Jフロントリテイリングの旗艦店は「松坂屋名古屋店」「大丸東京店」「大丸心斎橋店」となっている。これは解せない。なぜ「大丸神戸店」は入らないのか。2016年2月期の店舗売上高を見ると、東京店の731億円に対し神戸店は850億円とかなり上回っている。地域での存在感という意味でも、神戸店の方が圧倒的に上だ。

ついでに言うと「主要旗艦店」という言葉も気になる。これだと「主要ではない旗艦店」が他にあるのだろう。しかし、百貨店の「旗艦店」がそんなに数多くあるとは思えない。大矢記者は旗艦店が何店あると考えているのだろうか。


◎本店の不振深刻でも「大黒柱」は崩れてない?

【ダイヤモンドの記事】

しかし、ここにきて深刻度を増しているのは“優等生”のはずだった旗艦店の落ち込みだ。百貨店事業の売上高の約2割を1店舗でたたき出す伊勢丹新宿本店は「圧倒的に利益率が高く、新宿本店が持ちこたえれば、大きく数字は崩れないはずだった」(大西社長)。

ところが、上半期、新宿本店の売上高が5.1%落ちた。高島屋新宿店の売上高がほぼ横ばいだったことと比べると不振が目立つ。

中略)新たな収入源が育つまでは旗艦店で稼いでしのぐほかないが、大黒柱が崩れれば一気に“負け組”へ転落する危険性も秘めている。

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旗艦店の落ち込み」が「深刻度を増している」のであれば、旗艦店頼みの百貨店事業は既に崩れ始めているのではないか。しかし、記事の最後には「大黒柱が崩れれば一気に“負け組”へ転落する危険性も秘めている」と書いてあり、まだ崩れる前のようだ。

落ち込みが深刻」でも崩れてはいないのならば、「大黒柱が崩れる」とはどういう状況を指すのか。今回の記事のような締め方では説得力に欠ける。


◎「製造小売業化」だと差別化しにくい?

【ダイヤモンドの記事】

インバウンド減少や優待制度の変更に加えて、新宿本店の変調の原因について、ある業界関係者は三越伊勢丹が進める「仕入れ構造改革」の影響を指摘する。

従来、アパレルメーカーは“花形”の新宿本店の売り場を確保するため、新宿本店向けの専用商品を積極的に提案してきた。こうした商品は利幅が大きく、新宿本店の利益の源泉となっていた。

ところが、アパレル業界の苦境で、メーカーは新宿本店の専用商品を開発する余裕がなくなってきた。そこに追い打ちをかけたのが、三越伊勢丹が仕入れ構造改革で、自ら商品を企画・開発する製造小売業化を推し進めたことだ。

このことは、苦しい条件をのんで専用商品を開発し、新宿本店を“特別な店”として支えてきたという自負を持つアパレルメーカーには裏切りに映った。このため「新宿本店向けの専用商品が減っている」(業界関係者)といい、“ファッションの最先端”だった新宿本店の差別化がしづらくなっているというわけだ

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三越伊勢丹が仕入れ構造改革で、自ら商品を企画・開発する製造小売業化を推し進めたこと」が原因で「新宿本店の差別化がしづらくなっている」と大矢記者は分析している。これは奇妙だ。

「(アパレルメーカーが手掛ける)新宿本店向けの専用商品が減っている」のが事実だとしても、その裏側には「製造小売業化」がある。普通に考えれば、メーカーに「新宿本店向けの専用商品」を多少作ってもらうよりも「製造小売業化」の方がはるかに差別化しやすい。「製造小売業化」すれば、自社ブランドでの展開も可能だ。それは新宿本店以外にも広げられる。粗利益率も常識的には製造小売りの方が高くなる。

製造小売業化」がきちんと機能しているのならば、「新宿本店向けの専用商品が減っている」ことは取るに足らないはずだ。新宿本店が不振に陥っているとすれば、原因はむしろ「製造小売業化」が思惑通りに進んでいないか、規模が小さすぎるからではないか。

在庫リスクを自ら負う「製造小売業化」はハイリスク・ハイリターンとも言える。失敗すれば傷も深くなるし、高度なノウハウも必要になる。三越伊勢丹に関してその辺りを探っていけば、より的確な分析になった気がする。


※記事の評価はD(問題あり)。大矢博之記者への評価もDを維持する。

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