2016年12月9日金曜日

朝日に完敗 日経「ユニクロ、ヒートテックで暖かさ2.25倍」

暖かさ2.25倍」と言われて、どうイメージするだろうか。今の暖かさを「1」として、それが2倍強になったかどうか、どうやって測定すればいいのだろう。9日の日本経済新聞朝刊企業・消費面に載った「ユニクロ、ヒートテックで暖かさ2.25倍の新商品」というベタ記事の見出しを見て、そんな疑問が浮かんだ。まずは記事の全文を見ていこう。
成田山新勝寺(千葉県成田市) ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

ファーストリテイリング傘下のユニクロは8日、機能性肌着「ヒートテック」で従来より2.25倍暖かい商品を19日に発売すると発表した。糸の編み方の工夫や裏地の起毛を長くして暖かさを高めた。価格は通常のヒートテックより1000円高い税別1990円。

「ヒートテックウルトラウォーム(超極暖)」の商品名で東レと開発した。氷点下に近い場所で長時間作業する人などの利用を見込む。

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記事では、何で「暖かさ」を測っているのか説明がない。ユニクロのニュースリリースを見ると「『ウルトラウォーム』は、『エクストラウォーム(極暖)』の約1.5倍※1(通常のヒートテックの約2.25倍※2)暖かいヒートテックです」と確かに書いてある。そして「※1」「※2」の注記によると「衣類の熱抵抗を表すCLO値を元に算出」したようだ。

まず、リリースに問題がある。「衣類の熱抵抗を表す数値が2.25倍暖かさが2.25倍」とは言えないだろう。「この服は暖かさが2倍ですよ」と言われたら、「実感としての暖かさが2倍」だと理解するのが普通だ。例えば気温は暖かさを示す数値の1つだろうが、気温が2度から4度になっても「暖かさが2倍」かどうかは、また別だ。

リリースの場合は、「衣類の熱抵抗を表すCLO値を元に算出」と断っているので大きな問題はない。だが、日経は何の注釈も付けずに「従来より2.25倍暖かい」と言い切っている。消費者に誤解を与える書き方だ。

CLO値2.25倍暖かさ2.25倍」を仮に認めるとしても、「従来より2.25倍暖かい」との説明には問題が残る。リリースでは「『エクストラウォーム(極暖)』の約1.5倍※1(通常のヒートテックの約2.25倍※2)暖かい」となっている。「エクストラウォーム」が既にあるのならば「従来の1.5倍暖かい」とすべきだ。

通常のヒートテック」と比べたいのであれば、「従来より2.25倍暖かい」ではなく「通常のヒートテックより2.25倍暖かい」などと表記するしかない。

記事には他にも問題がある。

まず「糸の編み方の工夫や裏地の起毛を長くして暖かさを高めた」というくだりは日本語として拙い。これだと形式的には「糸の編み方の工夫」や「裏地の起毛」を「長く」したと解釈するしかない。だが「糸の編み方の工夫を長くして」では意味不明だ。

例えば「糸の編み方を工夫したり裏地の起毛を長くしたりして暖かさを高めた」「糸の編み方の工夫や、裏地の起毛を長くすることで暖かさを高めた」とすれば問題は解消する。

氷点下に近い場所で長時間作業する人などの利用を見込む」との説明も引っかかった。「氷点下に近い場所」と書くと「氷点下の場所」は除外しているように思える。だが、「氷点下の場所」でも使えるはずだ。

これはリリースを見て謎が解けた。「寒さの厳しい地域に住んでいる方や氷点下に近い場所で長時間作業する方などのために開発した、ユニクロ史上最も暖かいヒートテックです」というリリースの表現の一部をそのまま記事に使っていたのだ。

こうしたところにも、あまり工夫せずに記事を仕上げる日経の記者の姿勢が透けて見える。

上記の指摘を踏まえて、朝日新聞の記事と比べてみよう。

【朝日の記事】

ユニクロは19日、保温力の高い機能性下着「ヒートテックウルトラウォーム(超極暖)」を発売する。従来のヒートテックやヒートテックエクストラウォーム(極暖)に比べ、一段と暖かい「最強のヒートテック」だ。長袖Tシャツとタイツ、レギンスがあり、税抜き1990円。

生地が厚いため、下着だけでなく、長袖Tシャツとしても着られる。寒冷地の消費者から「ヒートテックを2枚重ねで着る」との声があり、新たに開発した。寒冷地向けだけでなく、冬のスポーツや屋外の長時間作業での使用も想定している

生地はヒートテックを手がけてきた東レが開発。4種類の糸の編み方を変え、裏地の起毛部分の毛足も長くしたことで、生地中の空気層をさらに増やした

ユニクロはスポーツウェアに力を入れており、8日の発表会では、エベレストに日本人最年少で登頂した冒険家の南谷真鈴さんが商品を紹介した。ファーストリテイリングの堺誠也執行役員は「スキーの時など、これまでのヒートテックでは物足りなかった場面でも使える。生活シーンに合わせて選んでいただければ」と語った。(栗林史子)

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朝日の栗林記者は「従来より2.25倍暖かい」といった数値情報を入れていない。「一段と暖かい」と書いているだけだ。「暖かさ2.25倍」といった表現は誤解を与えるので、あえて捨てたのではないか。だとすると、日経の記者より一段レベルが高い。

日経の記事に関して指摘した問題点が、朝日の記事には全て当てはまらない。「最強のヒートテック」という表現に宣伝臭さは感じるが、許容範囲内だろう。同じユニクロの発表記事でも、作り手の実力差はかなり開いている。

日経の企業報道部で記事を書いた記者、記事をチェックしたデスクは朝日の記事を参考にした方がいい。そして「なぜ自分たちの記事はレベルが低いのか」をじっくりと分析すべきだ。


※日経の記事の評価はD(問題あり)。

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