2016年12月16日金曜日

記事の信頼性を損なう日経の「ブラックスワン」大安売り

これまでも指摘してきたが、経済記事に「ブラックスワン」という言葉が出てきたら眉に唾した方がいい。ほとんどの場合「ブラックスワン(あり得ないと思われていた出来事が実現すること)」には当てはまらない。似たような要注意用語としては「革命」がある。
佐嘉神社(佐賀市) ※写真と本文は無関係です

16日の日本経済新聞朝刊 投資情報面に載った「数字が語る行く年来る年(2)1286円 ブレグジット後の株価下落 2度舞ったブラックスワン」という記事によると、2016年に2回(あるいは3回)の「ブラックスワン」が起きたそうだ。だが、英国のEU離脱も米大統領選でのトランプ氏の勝利も「ブラックスワン」とは言い難い。

記事では以下のように書いている。

【日経の記事】

2016年6月24日、株式市場の歴史に新たな一ページが加わった。

日経平均株価の下落幅1286円安=史上8位、東証1部の下落銘柄1954銘柄=過去最高、日経平均の日中値幅1525円=史上10位。

記録ずくめとなったこの日。東京の投資家の目は英国の国民投票の開票速報にくぎ付けだった。事前予想に反し欧州連合(EU)離脱派の勝利が伝わるや、まさにつるべ落としに。「ブラックスワン」(実現可能性は小さいが実現すると影響が大きい出来事)が舞い降りた瞬間だった

50年以上、株式市場に身を置く岡三オンライン証券の伊藤嘉洋氏はバブル崩壊を思い出していた。「海外勢主導の暴力的な先物の下げと国内勢の投げ。あの頃以来だ」。日経平均下落幅10位の半分を1990年代初めのバブル崩壊が占める。株価水準が高い当時に肩を並べてのランクインが「ブレグジット」の衝撃を示す。下落率(7.9%)でも歴代9位だ。

「100年に1度」のはずのブラックスワン。今年はわずか約140日後、再び舞い戻る。11月8日の米大統領選でトランプ氏勝利が濃厚になると、またもや時差上、矢面に立たされた東京市場で9日の日経平均は919円下落した。下げ幅自体は歴代25番目程度。だが、今度のブラックスワンには続きがあった

 「トランプ相場」の始まりだ。翌10日に株価は1092円リバウンドし、上昇幅で歴代13位に入る。「政治イベントでの負のショックはあり得るが、続く上げ方向のブラックスワンは初めて」(JPモルガン・アセット・マネジメントの重見吉徳氏)と、プロも驚いた。

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例えば、共和党候補でも民主党候補でもない立候補者が米国の大統領選挙で事前の泡沫候補扱いを覆して勝利したら「ブラックスワン」と呼んでいい。しかし、トランプ氏は共和党の候補で、不利とは言われながらもクリントン氏と競っていた。「番狂わせ」かもしれないが「ブラックスワン」は大げさすぎる。

英国のEU離脱もそうだ。事前の世論調査でも賛否は拮抗していた。これを「ブラックスワン」と見なすのは無理がある。記事でも「『100年に1度』のはずのブラックスワン」と書いている(なぜ「100年に1度」か謎だが…)。それが1年に2度も起きたら「本当にブラックスワンかな」と疑ってほしい。

しかも、米大統領選後の上げ相場まで「上げ方向のブラックスワン」として扱っている。これだと「ブラックスワン」には「サプライズ」ぐらいの重みしかない。しかも、「2度」の“ブラックスワン”も相場急落は一時的で、市場への衝撃的なインパクトはなかった。見出しとしては「舞い降りなかったブラックスワン」の方がしっくり来る。

革命」もそうだが、大したことがないのに大げさな呼称を与えてしまうと、記事への信頼を損なってしまう。実際に日経の朝刊1面の企画記事などで「革命」という単語を目にするだけで、反射的に「この記事は大丈夫かなぁ…」と思ってしまう。「ブラックスワン」も同じ運命を辿りつつある。それが日経にとって好ましいかどうか記事の作り手はよく考えてほしい。

今回の記事の「大げささ」が分かる点をもう1つ指摘しておきたい。

日経平均下落幅10位の半分を1990年代初めのバブル崩壊が占める。株価水準が高い当時に肩を並べてのランクインが『ブレグジット』の衝撃を示す。下落率(7.9%)でも歴代9位だ」と記事では解説している。「下落幅」で見ると大したことがないように見えるかもしれないが、今は株価水準が低いので「下落率」では上位に来ると訴えたいのだろう。

だが、記事ではブレグジットで下げた「6月24日」について「日経平均株価の下落幅1286円安=史上8位」としている。つまり「下落幅」でも「下落率」でもランクはほぼ同じだ。結局、10位にようやく入ってくる程度の下げにしかつながらない「サプライズ」だったと言える。

今回の記事の最後は以下のようになっている。

【日経の記事】

そして2017年。10年前はサブプライム危機、20年前はアジア通貨危機、そして30年前はブラックマンデーと危機が巡る年回りだ。みずほ総合研究所の高田創氏は「10年サイクル7の年のジンクス」を警戒する。「火種はまず新興国の通貨不安、次に欧州の金融・政治不安にある」。再び欧州からブラックスワンが飛来するのか。3月オランダ総選挙、4~5月フランスの大統領選と続き、秋にはドイツ議会選挙が待つ。

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大胆に予言してみよう。2017年も「ブラックスワン」は起きる。「日経がブラックスワンと呼ぶ出来事は起きる」という意味ではあるが…。


※記事の評価はC(平均的)。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

投信の比較が恣意的な日経「数字が語る行く年来る年」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_17.html

説明が雑すぎる日経「数字が語る行く年来る年(6)」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_23.html

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