2016年12月10日土曜日

「シニア夢中」は騙し? 日経「サクッと天丼 シニア夢中」

見出しに釣られて記事を読んでみると裏切られるというケースが日本経済新聞にはよくある。10日の朝刊企業・消費面のトップ記事「サクッと天丼 シニア夢中 安さ人気、大手が力  松屋が専門店 『てんや』は地方拡大」もその1つだ。「天丼ってシニアに人気なのかぁ」と思って最後まで読んでみたが、「シニア夢中」と言えるような話はほぼなかった。
早稲田大学(東京都新宿区) ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

外食チェーン大手が天ぷら・天丼専門店に参入したり、出店を拡大したりする動きが相次いでいる。松屋フーズやセブン&アイ・フードシステムズが参入し、天丼店「てんや」を展開する最大手のロイヤルホールディングス(HD)は地方出店を加速する。調理の手間がかかる天ぷらを手ごろな価格で提供し、シニアなどの需要をつかむ

牛丼チェーン「松屋」を展開する松屋フーズは天ぷら専門の新業態「ヽ松(てんまつ)」の1号店を都内のJR立川駅前に出店した。天丼を500~790円で販売するほか、天ぷら定食なども用意する。売れ行きをみて、ロードサイドなどで多店舗化する。

ファミリーレストラン「デニーズ」を運営するセブン&アイ・フードシステムズは9日、天ぷら・天丼専門店「まん天丼」の初の路面店を13日に東京・板橋に開くと発表した。通常の天丼で490円。これまで試験運営してきたノウハウを生かし、多店舗化を目指す。

節約志向の高まりでファミリーレストランが伸び悩む中、天ぷら・天丼専門店は調理の手間がかかる天ぷらの揚げたての味を、専用の調理機械を用いた省力化などで手ごろな価格に抑えた「お得感」を売り物に伸びている。特に1世帯当たりの人数が少ないシニアや調理時間が取りにくい働く女性から支持を集める

富士経済(東京・中央)によると、16年の国内外食市場で138業態のうち「天丼・天ぷら」は15年比で21%増の259億円となる見込みで、伸び率は2番目に高い。

天丼店「てんや」を展開する最大手のロイヤルHDは地方への出店を加速する。国内では直営156店、フランチャイズチェーン(FC)28店の計184店(2016年末見込み)を出すが、直営店はほぼ全て首都圏にある。20年に5割増の280店に増やし、うち100店は地方を中心にFCで出店する。千葉県などで2店展開するドライブスルー型も増やし、持ち帰り需要を取り込む。

讃岐うどん店「丸亀製麺」を運営するトリドールHDも天ぷら専門店「まきの」を月内に都内に初出店する。17年3月期中に8店まで増やし、前期末比で倍増する。サトレストランシステムズもさいたま市の商業施設内に天丼店「さん天」のフードコート店を初出店した。運営ノウハウを蓄積し、商業施設内への本格展開につなげる。

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この記事の中で「シニア」に言及しているのは「シニアなどの需要をつかむ」と「特に1世帯当たりの人数が少ないシニアや調理時間が取りにくい働く女性から支持を集める」の2カ所だけだ。これで「シニア夢中」と見出しを付けるのは無理がある。シニアにどの程度の人気なのかは全く触れていない。

シニアに人気の理由も「1世帯当たりの人数が少ない」というだけだ。この理由ならば「世代を問わず1人暮らしや2人暮らしの人に人気」となる方が自然だ。「シニアが夢中」と見出しを付けるならば、他の世代と比べてどの程度の人気なのか、それはなぜなのかは必須で入れたい。

記事を担当した企業報道部に「シニアが夢中」という認識がないのならば、見出しを担当する整理部に「この見出しはまずい」と伝えるべきだ。見出しを受け入れたのならば、「シニアが夢中」という見出しを裏切らないような内容に作り変える必要がある。こういう記事に接すると「編集局内できちんと連携が取れてないんだろうな」と思えてしまう。

ついでに「出店拡大」にも触れておこう。

ロイヤルHDは地方への出店を加速する」と書いているが、記事中の情報だけでは「出店を加速する」かどうか判断できない。

まず、現状で地方店がどの程度あるのか不明だ。「国内では直営156店、フランチャイズチェーン(FC)28店の計184店(2016年末見込み)を出すが、直営店はほぼ全て首都圏にある」と書いてあるので、地方店は現状で最多でも30店ぐらいなのは分かる。ただ、FCの28店のうち地方店がどの程度を占めるのかは謎だ。なので地方店の数は、可能性として0~30程度とかなり幅が広くなる。

今後については「20年に5割増の280店に増やし、うち100店は地方を中心にFCで出店する」と書いている。これは「20年には地方の店舗数が計100店になる」と解釈していいだろう。仮に現状の地方店を30店とすると、4年で70店を出す計算になる。これが「出店を加速」かどうかは微妙だ。

例えば、地方への新規出店が15年5店→16年25店→17年20店→18年20店→19年15店→20年15店--だとしよう。これだと「出店を減速」の方がしっくり来る。「出店を加速」と伝えるためには、ある期間の出店数に比べて、その後の出店数が増えていく姿を見せる必要がある。

今回の記事では現状の店舗数と20年の店舗数を見せているだけだ(しかも現時点での地方店の数は不明)。これだと「出店を加速」ときちんと伝えたことにはならない。

さらに言うと、「讃岐うどん店『丸亀製麺』を運営するトリドールHDも天ぷら専門店『まきの』を月内に都内に初出店する。17年3月期中に8店まで増やし、前期末比で倍増する」という書き方も感心しない。これだと「17年3月期中に8店まで増や」すのは「都内」の店舗とも解釈できる。

月内に初出店であれば「前期末比で倍増」して「17年3月期中に8店」にはならないので、これは都内ではなく「まきの」の全店舗数だと推測はできる。だが、上手い書き方ではない。

今回の記事は、もう少し書き方と見出しを工夫すれば及第点に達していた。その「もう少し」が高い壁なのかもしれないが…。


※記事の評価はD(問題あり)。

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