2016年12月5日月曜日

東洋経済のリテラシーに不安が…特集「情報の裏側」

週刊東洋経済12月10日号の特集「ググるだけではカモられる 情報の裏側」では、冒頭で「毎日接する情報洪水の舞台裏と、その荒波をうまく泳ぐ実践スキルを紹介する」と謳っている。そう言うからには、担当記者ら(島大輔記者、田嶌ななみ記者、又吉龍吾デスク、中山一貴記者、菊地悠人記者、倉沢美左記者、許斐健太記者、杉本りうこ副編集長)が情報を読み解く能力はかなり高いはずだ。ところが、そうとも言い切れない記述が特集の中に出てくる。
杖立温泉(熊本県小国町) ※写真と本文は無関係です

Part1 情報の深層~口コミ ネット メディア 人を惑わす情報洪水」という記事の一部を見てほしい。

【東洋経済の記事】

米国の有力メディアはトランプ支持の動きを十分に察知できなかった。投票直前の世論調査でトランプ氏の勝利を予想できたのは、ロサンゼルス・タイムズ紙が主導する調査チームだけ(左ページ図表4)。ほかは程度の差こそあれ、クリントン優勢と伝えた。こうした現地メディアを介して米国の世論を「孫引き」した日本のメディアにとって、当落はさらに予見不可能だった。

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図表4には「米大統領選の世論調査はほとんど外れた-主要メディアの投票直前時点の調査結果-」というタイトルが付いている。図を見ると、支持率でトランプ氏がクリントン氏を上回っているのは7つの世論調査のうち「ロサンゼルス・タイムズなど」だけだ(クリントン氏44%、トランプ氏47%)。

これを基に「米国の有力メディアはトランプ支持の動きを十分に察知できなかった。投票直前の世論調査でトランプ氏の勝利を予想できたのは、ロサンゼルス・タイムズ紙が主導する調査チームだけ」と筆者は読み取っている。これは正しいのだろうか。

特集に出てくる「池上彰 ニュースのプロの選別眼と盲点 私がトランプ当選を見抜けなかった理由」というインタビュー記事にヒントがある。池上氏は以下のように語っている。

【東洋経済の記事】

総得票数を見れば、ヒラリー・クリントン氏はトランプ氏より200万票も多く獲得しており、全米の世論調査は間違ってはいなかった。ただ、選挙人が選ぶという仕組みでクリントン氏は勝てなかった。ここでメディアは読みを外しました。

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池上氏の分析に異論はない。総得票数ではクリントン氏が上回ったのだ。世論調査に関しては、筆者の分析とは逆に「ロサンゼルス・タイムズ紙が主導する調査チームだけ」が選挙結果と合っていないとも言える。

付け加えると、支持率を調べる世論調査は勝敗を「予想」しているわけではない。支持率が分かるだけだ。米国の大統領選挙の制度上、勝敗を予想するためには州ごとの状況分析が不可欠だ。

最初に記事を読んだ時、「トランプ氏の勝利を予想できたのは、ロサンゼルス・タイムズ紙が主導する調査チームだけ」と書いてあったので、主要メディアが州ごとの分析をした上で勝敗を予想したのかと思ってしまった。しかし、図表4には「支持率」しか出ていない。仮に主要メディアが世論調査と同時に勝敗予想もしているのであれば、それは明記すべきだ。

自分たちが手掛けた特集をしっかり読み込んでいれば、今回のような問題のある情報分析にはならなかったはずだ。読者に情報を読み解く「実践スキル」を伝授する前に、自分たちのスキルをしっかりと磨いてほしい。


※特集全体の評価はC(平均的)。担当者への評価は以下の通りとする。

島大輔記者(暫定B→暫定C)
田嶌ななみ記者(暫定B→暫定C)
又吉龍吾デスク(暫定B→暫定C)
中山一貴記者(暫定C→C)
菊地悠人記者(暫定C)
倉沢美左記者(暫定C)
許斐健太記者(Cを維持)
杉本りうこ副編集長(Cを維持)

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