2016年12月23日金曜日

説明が雑すぎる日経「数字が語る行く年来る年(6)」

技量不足なのか、やる気の問題なのか分からないが、23日の日本経済新聞朝刊 投資情報面に載った「数字が語る行く年来る年(6)7323億円 任天堂株、空前の売買代金 ポケモンがリスク資金に火」という記事は雑な説明が目立った。
成田山新勝寺 三重塔(千葉県成田市)
          ※写真と本文は無関係です

具体的に見ていこう。

◎「超高速取引」だとなぜ「集中」?

【日経の記事】

特定の銘柄に資金が集中する背景には、1秒間に数千回の売買を繰り返す超高速取引もある。東証では取引所のシステムにサーバーを併設する「コロケーション」と呼ぶ超高速売買が活発化。16年は全取引の過半を占めるまでになった。

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超高速売買が活発化」すると「特定の銘柄に資金が集中する」らしいが、なぜそうなるか全く説明していない。高速売買は幅広い銘柄で可能なはずだ。「高速売買の広がり→特定銘柄への売買集中」と当然になるわけではない。


◎問題が多すぎて解読困難

【日経の記事】

一方、年金基金などを預かる機関投資家は運用資産が膨らみ、ここ数年、株価指数に沿って広く薄く投資するパッシブ運用に傾いてきた。BNPパリバ証券の岡沢恭弥グローバルマーケット統括本部長は「海外投資家の質問は8割が政治と日銀。個別企業の話題は乏しい」という。パッシブ運用の投資家も、市場平均以上の収益を稼ぐには任天堂のような成長株を無視できなくなっている

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このくだりは問題が多すぎて解読困難だ。仮にデスクが頼りにならないとしても、紙面化する前に「これじゃまずい」と誰か声を上げなかったのか。

流れを簡単に言うと「機関投資家はパッシブ運用傾斜、海外投資家も個別株に関心乏しい」という話を受けて「パッシブ運用の投資家も成長株を無視できなくなっている」と結論を導いている。話の前段を素直に受け継げば「パッシブ運用が中心の投資家は任天堂のような成長株に見向きもしない」などとなる方が自然だ。記事の書き方ではまともな説明になってない。

さらに言えば、「パッシブ運用の投資家も、市場平均以上の収益を稼ぐには」との記述が謎だ。パッシブ運用で市場平均以上の収益を稼ごうとする投資家などいるのか。そもそも市場平均を上回る運用成績を狙うのならば、その時点で基本的にはアクティブ運用になってしまう。


◎「需給」が「成長性の根拠」?

【日経の記事】

ただ、期待先行で急騰した銘柄ほど反動の谷は深い。任天堂は株価の最終的な決め手となる業績予測の難しさを示した。成長性の根拠は「いずれメガヒットを飛ばしてくれるという期待」(カブドットコム証券の佐野真営業推進部長)と売り買いの需給だけだ。

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いずれメガヒットを飛ばしてくれるという期待」が「成長性の根拠」と言えるかどうか怪しいが、これはまだ分かる。次の「売り買いの需給」は謎だ。需給が逼迫していても緩んでいても「成長性の根拠」にはなりそうもない。

筆者は「株式の需給が締まる=成長性が高まる」と考えているのだろう。しかし、例えば自社株買いには企業の成長性を高める効果があるだろうか。むしろ、増資して株式の需給を緩める方が、まだ増資資金を用いた成長への投資などが期待できる。

この記事には他にもツッコミどころがあるが、この辺りで終わりにしたい。記事の説明不足は十分に分かってもらえたはずだ。連載の担当者は「田中俊行、真鍋和也、井川遼、田中博人、岸田幸子、土居倫之」の各記者となっていた。6人がそれぞれ1回分を担当したのだろう。

誰がどの回を書いたのか分からないので、書き手への評価は見送る。ただ、「自分が書いた分以外は無関係」と思ってもらっては困る。今回指摘したのは、株式市場に関するある程度の知識があれば誰でもできる初歩的なものだ。

経済紙で株式市場を担当する記者が6人も集まって、このレベルでは寂しすぎる。記者にもデスクにも能力がない場合、周囲が補うしかない。同じ連載の担当記者なのに、問題に気付いていても黙っていたとすれば、読者への背信行為だ。

「自分たちは、こんなにレベルの低い記事をなぜ世に送り出してしまったのか」をそれぞれが改めて自問してほしい。


※記事の評価はD(問題あり)。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

記事の信頼性を損なう日経の「ブラックスワン」大安売り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_47.html

投信の比較が恣意的な日経「数字が語る行く年来る年」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_17.html

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