2016年12月16日金曜日

本当に「地方は医師不足」? 週刊エコノミストの記事に異議

「地方は医師不足」とよく言われる。これはかなり乱暴なまとめ方だ。人口当たりで見ても、「都会には医師がたくさんいて、田舎には少ししかいない」とは言い切れない。なのに、なぜか単純な見方がまかり通っている。週刊エコノミスト12月20日号の「エコノミストリポート~総数は『医師余り』も地域、診療科偏在解消めど立たず 社会的責務に反する医師の自律」という記事にも、その傾向が見られた。
大分県立日田高校(日田市) ※写真と本文は無関係です

当該部分を見ていこう。

【エコノミストの記事】

(2040年に「医師余りになる」という)この結果に異論を唱えたのが地方の医療現場だ。計算上は医師総数が確保されるとしても、地域、診療科の偏在解消にめどが立っていないためだ。「いつになっても田舎は医師であふれない。医師の総数議論は偏在対策をやってからすべきだ」(辺見公雄・全国自治体病院協議会会長)との声が上がる。

医師の地域偏在はいまだに大きい。14年の調査では、人口10万人当たりの医師数は、最多の京都府(307.9人)と最少の埼玉県(152.8人)で2倍の開きがある(図2)。同じ都道府県でも、地域の一体性を踏まえて入院医療体制を整備する「2次医療圏」で比較すると、県庁所在地と周辺部で2~3倍の開きがあることも珍しくない

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筆者であるメディカルライターの田中尚美氏は「医師が『都市部やラクと言われる診療科に集まる流れ』を変えるのは簡単ではない」とも書いているので、「地方の医療現場」は医師不足で、都市部は違うと見ているのだろう。

だが、「図2」の「都道府県別の人口10万人当たり医師数」を見る限り、田中氏の見立てと必ずしも一致しない。記事でも書いているように、医師数が「最少」なのは都市部に分類できる埼玉県だ。千葉、神奈川、愛知、兵庫も全国平均を下回っている。一方、中国、四国、九州は軒並み全国平均より上だ(宮崎だけはわずかに全国平均以下)。

県庁所在地と周辺部で2~3倍の開きがあることも珍しくない」と田中氏も書いているように、同じ県内での格差も当然に無視できない。また埼玉や千葉では東京の病院を利用する住民も多いので、医師数が少ない弊害が出にくい面もあるのだろう。だとしても、「いつになっても田舎は医師であふれない」と単純化できる状況には見えない。

例えば、福岡県久留米市のホームページには「平成24年の調査では、全国の政令市と中核市を合わせた62都市のうち、人口10万人当たりの医師の数は568.5人で1位、病院・診療所の数も6位になりました」との記述がある。県庁所在地から離れた「田舎」でも、医師がたくさんいる地域はある。実際、久留米市には周辺部も含めて「こんなに…」と驚くほど医療機関がある。感覚的に言えば、「田舎」に医師があふれている。

図2」から浮かび上がるのは、都会と田舎の格差というより、東日本と西日本の差だ。北海道、東北、関東で全国平均を上回っているのは東京のみ。しかし、記事では都会と田舎の格差としてしか医師の地域偏在を捉えていない。

付け加えると、以下の説明も気になった。

【エコノミストの記事】

医師への規制強化を実現するため、最後の手段として「医局制度」の復活を求める意見まで出始めた。自民党の国会議員でつくる「医師偏在是正に関する研究会」の小島敏文衆院議員は「医師が勤務地を自由に選べる現状では、どのような改革を進めても意味がない」と指摘する。

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はっきりとは書いていないが、「医師の地域偏在を解消するためには医局制度の復活も1つの選択肢」と田中氏は見ているようだ。なので「医師が勤務地を自由に選べる現状では、どのような改革を進めても意味がない」というコメントを肯定的に使っているのだろう。

だが、「医師が勤務地を自由に選べる現状では、どのような改革を進めても意味がない」との考え方は明らかに間違っている。例えば、東京は人気だが埼玉には行きたがる医師が少ないという状況ならば、収入でインセンティブを与えてあげればいい。極端な話、埼玉の病院に勤務すれば東京よりも10倍以上の収入が得られるとすれば、埼玉に医師は集まってくるはずだ。

そのための十分な財源が確保できるかといった問題はある。だが「どのような改革を進めても意味がない」と諦める必要はない。「医師が勤務地を自由に選べるとしても、偏在を解消する道はある」と考えるのが妥当だ。田中氏には、その点に触れてほしかった。


※記事の評価はC(平均的)。田中尚美氏への評価も暫定でCとする。

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