2016年12月3日土曜日

「低アルコール飲料(RTD)」の範囲が謎な日経の記事

低アルコール飲料(RTD)」がどういう飲料を指すか具体的に分かるだろうか。恥ずかしながら「RTD」という略語は3日の日本経済新聞朝刊 企業・消費面の「低アルコール飲料拡充 サントリースピリッツ 来年販売1割増」という記事を読むまで知らなかった。この用語を使うのは問題ない。ただ、記事を読むとRTDが何を指すのか分からなくなってしまう。
大分駅(大分市) ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

サントリースピリッツは、低アルコール飲料(RTD)の新商品を相次ぎ投入する。主力缶チューハイ「マイナス196℃」の定番商品を今月中旬から順次刷新するほか、17年1月に高級RTDの「こくしぼりプレミアム」の新商品も発売する。RTDの17年の販売を前年比1割増の7100万ケースに伸ばす。

ビールなどの代わりに飲む人が増え、急拡大するRTD市場の成長を取り込む。マイナス196℃はレモンなど定番の5種類を刷新するほか、新たにブドウも加える。アルコール度数が9%の商品が主力で、食中酒として人気が高い。

果汁と果皮を漬け込んだ酒でつくるこくしぼりプレミアムも注力する。1月31日に「ぜいたく檸檬」(350ミリリットル税別170円)を発売し、品ぞろえを増やす。高級RTDは17年は前年見込みの2倍にあたる160万ケース超まで伸ばす

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記事では「アルコール度数が9%の商品」をRTDに含めているので、少なくとも9%以下であれば「低アルコール飲料」なのだろう。また「ビールなどの代わりに飲む人が増え、急拡大するRTD市場の成長を取り込む」との記述からは「ビール≠RTD」と解釈できる。ここで分からなくなる。

ビールのアルコール度数は一般的に5%程度だ。9%以下にしっかり入っている。なのにRTDではないようだ。だとしたら、RTDとは何なのか。調べてみると「《ready to drink》蓋を開けてすぐにそのまま飲める飲料。特に、缶酎ハイや瓶入りカクテルなど、割る手間のかからないアルコール飲料を指す」(デジタル大辞泉)となっていた。

これを信じれば、RTDにはそもそも「低アルコール」という意味がない。また「割る手間のかからないアルコール飲料を指す」のであれば、ビールも入ってくる。もちろん、定義が定まっていない面もあるだろう。だとすれば、「低アルコール飲料(RTD)」をどういう定義で使っているのか、記事中で記者自身がしっかり説明すべきだ。それがないので、読む側も混乱してしまう。

推測だが、「RTD=サントリースピリッツにとってのRTD」との前提で記事を書いたのだろう。だが、ほとんどの読者は「サントリースピリッツにとってのRTD」が何かを理解していないはずだ。

この問題は「高級RTDは17年は前年見込みの2倍にあたる160万ケース超まで伸ばす」という記述にも感じる。記事では、何を以って「高級」とするのか謎だ。「高級RTDの『こくしぼりプレミアム』」と出てくるので「こくしぼりプレミアム高級RTD」とは分かるが、それ以外にも高級RTDがあるかどうか判断できない。

しかも新たに発売する高級RTDは「350ミリリットル税別170円」らしい。個人的には「その値段で『高級』なの?」との疑問も残った。

ついでに、日本語としてやや拙い部分を指摘したい。

果汁と果皮を漬け込んだ酒でつくるこくしぼりプレミアムも注力する」と書くと、「こくしぼりプレミアム」自体が「注力する」ように見える。実際は、注力される対象のはずだ。「つくるこくしぼり」と平仮名が続いて、商品名との境界が分かりにくいのも気になる。「果汁と果皮を漬け込んだ酒でつくる『こくしぼりプレミアム』にも注力する」と直せば問題はなくなる。

高級RTDは17年は前年見込みの2倍にあたる160万ケース超まで伸ばす」という文は、「」が続くのが上手くない。「前年見込み」も微妙に引っかかる。16年は17年の「前年」なので、正しいと言えば正しいのだが、16年が終わっていないのに「前年」とするのは、できれば避けたい。例えば「17年には高級RTDを今年の見込みの2倍に当たる160万ケース超まで伸ばす」としてはどうだろう。

こうした細かい点について、企業報道部のデスクが丁寧に指導してくれる可能性は低い。記者自身が自覚を持って技術を高めてほしい。


※記事の評価はD(問題あり)。

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