2016年12月6日火曜日

日経「マネー底流潮流」で永井洋一NQN編集委員に苦言

NQNの永井洋一編集委員には期待している。日経にマーケット関連記事を書いている編集委員の中では、書き手としての能力が最もあると見ているからだ。だが、6日の夕刊マーケット・投資2面に載った「マネー底流潮流~日本株は来年の本命か」は頂けない。「日本株は来年の本命か」と問題提起しているのに、この問題をまともに論じていない。

日本女子大学(東京都豊島区) ※写真と本文は無関係です
記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

米大統領選でトランプ氏が勝利してから今週で1カ月が経過する。景気拡大への期待を先取りした日米株式市場の「理想買い」は一巡し、トランプ政策の実効性を見極める局面が近づいているようにみえる。一方、グローバルマネーには大移動の兆しがある。海外では「来年の本命は日本株」の見方が浮上している。

「割高な米株のバブルが崩れるのは時間の問題」(JPモルガン証券の足立正道シニアエコノミスト)。巨額の財政支出への期待に基づいた米金利上昇(債券価格の下落)、株高、ドル高に市場関係者の多くはなお疑心暗鬼だ。国際取引所連盟(WFE)のデータとMSCIオールカントリー・ワールド指数から試算した世界の時価総額は、10月末から11月28日までの間、0.7%しか増えていない。

重要なのはトランプ氏の「米国第一主義」に引き寄せられるように米国へと資金が還流している点、運用先に困ったマネーが、債券から株式へと動き始めた点だ。米投資信託協会(ICI)によれば米国投信(上場投信を含む)への資金流出入差額は株式型が年初から10月までに1160億ドル(13兆円)の流出だったが、11月単月(22日時点)では230億ドル(2.6兆円)の流入となった。債券型は10月までに2080億ドル(23兆円)の流入が11月は90億ドル(1兆円)の流出だ。

海外で日本株への評価が再び高まっている点も見逃せない。米モルガン・スタンレーのストラテジスト、アンドリュー・シーツ氏は11月27日付のリポートで、「ドル高や金利上昇の悪影響を考えると米株市場は過度に楽観的。2017年の株式の本命は日本だ」と指摘した。スパークス・グループの阿部修平社長は「日本企業の収益成長力は他と比べ高い」と指摘する

雇用の移動を通じて先進国の中間層から新興国へと所得移転が進んだのがグローバル化の特徴だ。新興国の経済成長は原油価格を押し上げて産油国を潤し、産油国資金が世界の株式や不動産に回った

自国の利益を優先し、中間層の復活を掲げたトランプ氏の登場で、こうしたマネーの流れにブレーキがかかることを市場は織り込み始めている。全方位型から集中型へ――。選別投資の時代が始まろうとしている中、日本株が輝きを増す可能性がある

----------------------------------------

記事を読めば「日本株は来年の本命か」どうか判断できるだろうか。結局、この問題を論じているのは以下のくだりぐらいだ。

米モルガン・スタンレーのストラテジスト、アンドリュー・シーツ氏は11月27日付のリポートで、『ドル高や金利上昇の悪影響を考えると米株市場は過度に楽観的。2017年の株式の本命は日本だ』と指摘した。スパークス・グループの阿部修平社長は『日本企業の収益成長力は他と比べ高い』と指摘する」    

まず一言。「指摘した指摘する」と「指摘」を繰り返すのは上手くない。

本題に入ろう。モルガン・スタンレーのリポートは「2017年の株式の本命は日本」と言っているらしいが、「なぜ他の国ではなく日本だとリポートで結論付けたのか」を永井編集委員は教えてくれない。

その代わりなのか「スパークス・グループの阿部修平社長」の「日本企業の収益成長力は他と比べ高い」とのコメントが出てくる。これが唯一の根拠だ。これだけで「日本株は来年の本命か」を判断するのは無理がある。

まず「日本企業の収益成長力は他と比べ高い」のは、いつの話なのか。来年の「収益成長力」と考えるのが自然だが、何とも言えない。

仮に来年の「収益成長力」だとして、他の市場と比べてどのぐらい高くて、それはなぜなのか辺りの解説は欲しい。さらに言えば、来年の「収益成長力」見通しが他市場より高いとしても、それが市場コンセンサスであれば株価には織り込まれているはずだ。織り込まれているのかいないのか、織り込まれていないとすれば、それはなぜかも知りたいところだ。

余計な前置きが長々と続くのに、本題にはわずかしか触れていないのが、この記事の特徴だ。それで「選別投資の時代が始まろうとしている中、日本株が輝きを増す可能性がある」と結論付けても説得力はない。

気になった点をもう1つ挙げたい。「全方位型から集中型へ」という解説だ。

新興国の経済成長は原油価格を押し上げて産油国を潤し、産油国資金が世界の株式や不動産に回った」というのが、これまでの動きだと思われる。だが「トランプ氏の登場で、こうしたマネーの流れにブレーキがかかることを市場は織り込み始めている」と永井編集委員は分析する。

まず前段が苦しい。今年7月の日経の記事では、オイルマネーについて「昨年以降の原油安で国の財政状態が悪化。流動性の高い日本株などの資産を売る動きが広がった」と書いていた。そんなに前の話ではない。産油国資金が世界中の株価や不動産価格を押し上げるのが、米大統領選前の潮流だっただろうか。

これまでは「全方位型」だったとの説明も引っかかる。世界の株式市場で一斉に上げ相場となっていたのならば分かる。だが、過去1年(11月25日終値時点)で見ても、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、トルコ、韓国などは下げている。一方、米国や英国は株高だ。ブラジルやアルゼンチンでは主要株価指標で見て3割を超える上昇となっている。

これでもマネーの流れは「全方位型」だったと言えるのか。仮に言えるとしたら、「集中型」とは何だろう。どちらも「株高の国もあれば株安の国もある」という点で同じではないか。

今回は苦言を呈する形となったが、永井編集委員への期待は消えていない。次は気を引き締めて優れた記事を完成させてほしい。


※記事の評価はC(平均的)。永井洋一編集委員への評価は暫定B(優れている)から暫定Cへ引き下げる。永井編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

他の筆者も見習うべき永井洋一NQN編集委員の大胆さ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_81.html

期待を込めて永井洋一NQN編集委員へ注文
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_14.html

0 件のコメント:

コメントを投稿