2016年5月10日火曜日

日経が「日米同盟至上主義」に固執するのは自由だが…

安全保障政策に関する日本経済新聞の姿勢は一貫している。日米同盟至上主義だ。他の選択肢は一切考慮せず、ひたすら「同盟強化」「同盟の重要性」を念仏のように唱え続ける。そういう点では、もはや信仰に近い。結論が先に決まっているので、なぜその選択肢なのかという理由は時に無理が生じる。9日の朝刊総合・政治面に載った「Q&A トランプ氏発言、安保に波紋 在日米軍、日米に利益 米に『ただ乗り』批判も/日本の駐留費負担、突出という記事におかしな説明が目立つのも、結論ありきで理屈を付けているからだろう。
早稲田佐賀中学・高校(佐賀県唐津市) ※写真と本文は無関係です

具体的に見ていく。

【日経の記事】

Q 在日米軍の存在が日本への他国からの攻撃を思いとどまらせる「抑止力」になるか。

A 抑止力になるのは間違いない。朝鮮半島有事になれば沖縄の海兵隊が展開する。横須賀基地は西太平洋・インド洋で展開する米海軍第7艦隊を支援する機能を持っている。最近では横須賀基地配備のイージス艦が南シナ海で「航行の自由作戦」に参加した。

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抑止力になるのは間違いない」かもしれないが、その後の説明は「抑止力になる」と言える根拠になっていない。「朝鮮半島有事になれば沖縄の海兵隊が展開する」のであれば、日本が攻撃対象になる可能性は高まる。韓国と北朝鮮が本格的に戦火を交え、米国が韓国とともに戦う場合、北朝鮮が在日米軍基地を叩こうとするのは自然の成り行きだ。

「抑止力になる面もあるが、逆に戦争に巻き込まれるリスクを高める場合もある」といった説明が妥当だと思える。「在日米軍は日本にメリット」という点を強調したい“信仰心”が強すぎて、バランスの取れた解説ができなくなっているようだ。

この記事には他にも“信仰心”に起因すると思える問題がある。

【日経の記事】

Q 在日米軍が撤退すれば、日本の防衛費は一気に膨らむのでは。

A 大幅増は避けられない。現在の年間約5兆円から何倍にも増えるとの見方もある。これまでの専守防衛の枠を超えた空母や攻撃型の巡航ミサイルなどが必要になる。日米同盟を前提とした外交戦略の見直しも迫られ、仮に日米同盟の解消にまで至れば、米国の「核の傘」を離れることになる。日本の核武装論がくすぶる可能性もある。

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こういう「根拠なき不安煽り型」の書き方は感心しない。在日米軍が撤退したら「専守防衛の枠を超えた空母や攻撃型の巡航ミサイルなどが必要になる」と断定する根拠は、少なくとも記事中にはない。在日米軍が撤退しても、日米同盟を破棄するかどうかは別問題だ。基地なしで同盟維持の場合、防衛費を大幅に増やす必要が本当にあるのか。米国と同盟関係にある日本を、そんなに気軽に攻撃できるものなのか。

「基地なし同盟などあり得ない。在日米軍が撤退すれば、日米同盟は瓦解する」と考える人もいるだろう。その場合でも、憲法の制約があるので「専守防衛の枠を超えた空母や攻撃型の巡航ミサイル」を持つのは難しいはずだ。同盟は瓦解するとの前提なので、集団的安全保障の可能性を考慮する必要もない。「専守防衛」の範囲でやるしかないのではないか。新たな同盟国を見つけるか、憲法を改正するならば話は別だが…。

今回の記事によると在日米軍関連として「15年度に7250億円程度を日本側が支出」したらしい。在日米軍が撤退すれば、この予算の大部分は浮く。今の米軍基地を自衛隊基地に転用すれば、低コストで拠点を拡充できる。「在日米軍基地を置き続けるしかない」との“信仰”を持つのは日経の自由だが、他の選択を最初から排除した形でしか思考回路が働かないのは如何なものか。

記事に付けている「専門家の見方~地域の不安定化、撤退で加速」という識者コメントもかなり無理のある内容だ。全文は以下の通り。

【日経の記事】

伊藤俊幸・元海上自衛隊呉地方総監  在日米軍の駐留経費をめぐるトランプ氏の発言は、米軍人の人件費や作戦そのものに関わる費用まで負担を求めていると受け取れる。日本国民が受け入れられないだけでなく、在日米軍が事実上の日本の「雇われ兵」になり、米軍人のプライドも傷つく可能性がある。

米軍が日本駐留をやめてグアムやハワイまで撤退すれば、中国が沖縄県の尖閣諸島や台湾にすぐにでも展開するだろう。冷戦後にフィリピンから米軍が撤収した過去の事例を見れば分かる。地域の不安定化につながる。

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駐留経費を全額負担してあげると「在日米軍が事実上の日本の『雇われ兵』」になってくれるらしい。つまり、実質的には在日米軍が日本の指揮下に入るというわけだ。これはまともに論じるべき話だろうか。あまりに常識外れだと思える。

米軍が日本駐留をやめてグアムやハワイまで撤退すれば、中国が沖縄県の尖閣諸島や台湾にすぐにでも展開するだろう」という話も同様だ。伊藤氏は「冷戦後にフィリピンから米軍が撤収した過去の事例を見れば分かる」と訴えるが、フィリピンからの米軍撤退後に中国が台湾に戦争を仕掛けただろうか。

さらに言えば、「沖縄に米軍がいれば抑止力になるが、ハワイやグアムに米軍がいても中国は気にせず軍事力を行使する」という考え方は理解に苦しむ。「沖縄に基地を持たない米国が相手ならば、アジアでは軍事的に圧倒できる」と中国は判断するだろうか。

識者コメントで伊藤氏を使うなとは言わない。しかし、今回のような極端な主張を載せるのであれば、せめてもう1人加えて両論併記にしてほしい。社説や署名入りコラムで日米同盟至上主義の正しさを訴えるのはいいが、今回はQ&A方式の解説記事だ。あまりに偏りのある作り方をすると、かえって読者の信頼を失ってしまう。

「日米同盟至上主義ではない考え方もありますよ」と読者に紹介するぐらいの余裕を見せた方が、かえって日経の主張に説得力が出るはずだ。“信仰”を少し脇に置いて、記事を書いてみてはどうだろうか。


※記事の評価はD(問題あり)。

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