2016年5月2日月曜日

パナマ文書をほぼ論じない日経「パナマ文書が問う」(1)

4月30日から5月2日にかけて日本経済新聞朝刊1面で連載された「パナマ文書が問う」は、この内容ならば掲載の意味は乏しい。「パナマ文書が問う」にあまりなっていないからだ。(下)のテーマである「多国籍企業の法人税逃れ」は、少なくとも現時点では「パナマ文書が問う」問題ではないだろう。(中)で取り上げた「政治家とタックスヘイブンの関係」はかろうじて「パナマ文書が問う」になっているが、それも記事の前半でこれまでの経緯をなぞっただけだ。問題を深く掘り下げているわけではない。まず、そこから見ていこう。
住吉神社(福岡市博多区)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

「不公平だ!」。4月半ば、ロンドンの英首相官邸前はキャメロン首相辞任を求める数百人のデモ参加者であふれた。亡父がパナマにつくった投資信託で首相が300万円ほど利益を上げたとパナマ文書をきっかけに明らかになった。税逃れ対策を訴えてきたキャメロン氏だけに英国民の怒りも大きい。潔白を証明しようと政治家による納税や所得の開示ラッシュだ。

パナマ文書が突きつけた論点の一つは政治と倫理だ。増税や社会保障カットを強いる政治リーダーの税逃れは格差拡大にいら立つ世論に火を付けた。アイスランドのグンロイグソン首相はタックスヘイブン(租税回避地)を使った自国銀行への投資が判明し、即辞任した。

インドネシアのメディアは4月25日、ジョコ政権の有力閣僚が文書に含まれると報じた。新興・途上国で公金流用や汚職と結びついた税逃れが発覚すれば、各地で政治混乱のパンドラの箱があくかもしれない。

国境をまたぐ税逃れは1934年の「ヴェスティ兄弟事件」がはしりとされる。英国の食肉業者だった兄弟がアルゼンチン政府高官と売り上げを海外に移す課税回避にいそしんだ。当時の国際連盟は「国際的な経済活動で税収が確保できなくなる」と危機感を表した。

はるかに複雑になった現代の税逃れは二重三重に国境を越え、ぶ厚いベールに覆われる。「節税は一種の知的ゲーム」(中央大学の森信茂樹教授)。パナマ文書には、中国に進出する日本企業が中国当局の経営介入を防いだり、日本籍であることを隠したりといった狙いで回避地に新会社を設立したケースも含まれる。富裕層が回避地の会社に名義を貸しただけの例もあり一刀両断にできない。

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最初の3段落でせっかく「政治と倫理」の問題に踏み込む準備ができたのに、「各地で政治混乱のパンドラの箱があくかもしれない」と書いただけで、話は飛んでしまう。これでは「パナマ文書が突きつけた論点の一つは政治と倫理だ」と問題提起した意味がない。

国境をまたぐ税逃れ」の問題はパナマ文書が出る前から広く共有されていたはずだ。「パナマ文書が問う」とタイトルに付けるならば、「パナマ文書が出てきたからこそ広く認識された問題」を取り上げるべきだ。今回の連載ではそれができていない。

パナマ文書が問う」問題としてはメディアの取材協力もある。今回、文書を読み解く役割を果たした国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)について、連載では(中)で「国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は5月前半にパナマ文書の全容を公表する」と触れている程度だ。

パナマ文書を入手した南ドイツ新聞は文書をICIJに持ち込んだと報道されている。特ダネになるかもしれない情報を他社と共有するなど、日経を含め日本のほとんどのメディアでは禁じ手のはずだ。その意味でパナマ文書は報道の在り方も問うている。「パナマ文書が問う」というタイトルに合わない法人税の減税競争を取り上げるぐらいならば、メディアの取材協力について論じた方が意味がある。

「他メディアとの情報共有」といったテーマを思い切って紙面で論じられる雰囲気が日経にあるのかと言われれば、確かに難しそうではあるが…。

今回の記事では(上)に問題が目立った。それについては(2)で触れる。


※(2)へ続く。

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