2016年4月6日水曜日

「ユニクロ値下げも客離れ」で日経 岩戸寿記者に問う

5日の日本経済新聞朝刊企業総合面に「ビジネスTODAY~ユニクロ値下げも客離れ 3月国内既存店 客数8.6%減 値上げ後遺症深く 企業の価格戦略、転機に」という記事が出ていた。値下げがなぜ客数増加に結び付かないのかを、筆者の岩戸寿記者は「2度の値上げで薄れた『低価格』イメージは簡単には取り戻せない」などと分析している。しかし、そもそもユニクロがまともに「値下げした」と言えるのか。その点を記事から検証してみよう。

桜が満開になった靖国神社近くの靖国通り(東京都千代田区)
                ※写真と本文は無関係です
【日経の記事】

ファーストリテイリングが4日発表したカジュアル衣料品店「ユニクロ」の3月の国内既存店客数は前年同月比8.6%減だった。売上高も0.3%減と前年実績を3カ月ぶりに下回った。客足を回復させようと2月上旬から一部の商品を値下げしたが、2度の値上げで薄れた「低価格」イメージは簡単には取り戻せない。値上げの後遺症に悩まされる姿は企業の価格戦略が転機を迎えていることを映し出す。

 「この商品は平日も週末も、毎日お買い求めやすい価格に見直しました」――。オックスフォードシャツやジャケット、チノパンなど定番商品の売り場に、こんな販促用の看板が並ぶ。ユニクロは2月上旬、一部商品を300~1000円程度値下げした

以前は金曜日にチラシを打ち、月曜日までの4日間、対象商品を値下げするセールを展開してきた。今はセールの対象商品や頻度を減らして数十品目を常時値下げしている

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この記事でまず気になったのが客数が「8.6%減」なのに、既存店売上高が「0.3%減」にとどまっている点だ。これは客単価が9.1%も増えているためだ。買い上げ点数に大きな変化がないと仮定すると、1点当たりの単価は前年同月に比べてかなり高くなっている。商品構成も変わるので断定的には言えないが、「2月に値下げしたとはいえ、依然として前年同月の価格水準よりもかなり高い」との推測は成り立つ。

では、2月の値下げとはどの程度のものだったのか。記事によると「一部商品を300~1000円程度値下げした」らしい。値引き率が分からない上に、値下げ対象も「数十品目」とかなり限定的だ。さらには「セールの対象商品や頻度を減らして」いるらしい。これでは全体として見ると、むしろ値上げとなっている可能性も否定できない。

岩戸記者には、そうした問題意識を持って記事を書いてほしかった。そうすれば、もう少し鋭い分析ができたはずだ。今回の記事には、それほど大きな問題は見当たらない。ただ、全体的に「浅さ」を感じる。せっかくの機会なので、「浅さ」が見えた部分を他に2つ指摘したい。。

◎「あえて急いだワケ」を説明できてる?

【日経の記事】

柳井正会長兼社長ら幹部が値下げを決断したのは1月末とされる。商品タグの価格表記はそのままで実行に移した。商品タグと実際の価格の違いに消費者が混乱する懸念もあったが、あえて急いだのにはワケがある

2014年に5%、15年に10%と2年連続で値上げしたユニクロ。原料高や急激な円安を受け「品質を維持するためには必要」(柳井氏)と考えた。賃上げが広がるなか、ある程度の値上げは消費者に受け入れられるとみていたが、客数の減少が止まらなくなった。昨年4月以降の1年間で、国内の既存店客数が前年実績を上回ったのはわずか3回にとどまる。

「このままの状態をよしとはしていません」。柳井氏は昨年末にこう話し、強い危機感を示していた。回復への切り札の一つが今回の値下げだ。

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客数の減少は昨年後半には顕著になっていたはずだ。なのになぜ「今年1月末に決断、2月上旬に実施」と急ぐ必要があったのか、記事には納得できる説明が見当たらない。例えば「1月に入って急激に客数が落ち込み、経営陣の危機感が一気に高まった」といった事情があるならば分かるのだが…。

◎「しまむら」復調の説明が不十分

【日経の記事】

ユニクロが値上げで失速している間にライバルは息を吹き返した。しまむらが4日発表した16年2月期の連結決算は3期ぶりに増益となり、3月の既存店売上高も11.8%増と好調だ。

まむらの1商品あたりの単価は900円以下。客単価は2600円強にとどまり安い製品に強い。野中正人社長は「消費者は潜在的に安い製品を求めている」と業績回復の要因を説明する。

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消費者は潜在的に安い製品を求めている」という「しまむら」の社長コメントだけでは「業績回復の要因」がよく分からない。単価の高い店から「しまむら」に客が流れてきただけなのか。それとも積極的な値下げでもしたのか。簡単でいいので説明が欲しい。ちなみに3月24日の日経の記事では、しまむらの16年2月期について、以下のように説明している。

【日経の記事(3月24日)】

「独自ブランド「クロッシー」がけん引し主力業態である「ファッションセンターしまむら」は客単価が3%上昇した。裏地に起毛のある「裏地あったかパンツ」の価格を昨シーズンより約3割引き上げたが、起毛の密度を高めるなど品質を向上させて販売を伸ばした。

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これを見る限り、しまむらもユニクロ同様に客単価を引き上げる方向へ動いていたようだ。なのに、ユニクロは苦戦して、しまむらは復活してきているとすると、岩戸記者の説明では全く不十分だ。

今回の記事の完成度でも、日経の中では十分にやっていけるだろう。しかし、本当に優れた書き手を目指すのであれば、明らかに物足りない。個人的には、今の出来に満足せず上を目指してほしいし、岩戸記者にはそれができそうな予感がある。


※記事の評価はC(平均的)。岩戸寿記者への評価も暫定でCとする。

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