2016年4月12日火曜日

エンゲル係数は2015年に過去最高? 日経「もたつく景気」

12日の日本経済新聞朝刊1面に載った「もたつく景気(1)消費 再点火に時間 現役世代 負担重く」という記事には、「エンゲル係数は、15年に25%と過去最高」との記述がある。これは明らかな誤りだろう。まずは、日経への問い合わせ内容から紹介したい。

筑後平野の夕陽(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です
【日経への問い合わせ】

朝刊1面の「もたつく景気(1)」という記事についてお尋ねします。記事では「家計支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数は、15年に25%と過去最高になった」と解説しています。しかし1月24日付の日経MJ「エンゲル係数 上昇中 食費の負担、バブル期並み」 という記事には「エンゲル係数と食費に占める外食の割合」というグラフが載っていて、そこでは「1985年のエンゲル係数」が「27%」になっています。過去最高がいつかは分かりませんが、昭和20年代にはエンゲル係数が60%を超えた年もあったようです。昭和40年(1965年)でも38%ですから、「25%」を「過去最高」とするのは明らかな誤りではありませんか。問題ないとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

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日経では間違い指摘の無視が常態化しているが、それでも回答を待ちたい。日経の岡田直敏社長は年初の経営説明会で「すべての土台となるのは『クオリティー』の追求です」と述べている。上記の問い合わせを無視することが「クオリティーの追求」につながるかどうか、岡田社長も含め日経全体でよく考えてほしい。

ついでに、今回の記事で気になった点を記しておこう。

◎全体で見れば「中立かプラス」では?

【日経の記事】

個人消費と一見関係なさそうな制度変更が高齢者のマインドを冷やしているとの見方もある。ワコールでは50~60代の中高年向け女性下着の売り上げが減った。安原弘展社長は「相続税対策で生前贈与する世帯が増え、懐が寒くなったと感じた人が下着の購入頻度を落とした」と指摘する。

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「相続税対策をするほどの資産を持っている人が、多少の生前贈与をしたぐらいで下着の購入頻度を落としたりするかな」との疑問も湧くが、とりあえず受け入れてみよう。この場合、「高齢者のマインド」が冷える一方で、生前贈与を受ける人がいる。消費に与える影響は大まかに言えば中立だし、カネがあれば使う傾向は下の世代の方が強いのならば、むしろプラスに働く。なので、「生前贈与」を「高齢者のマインドを冷やしている」という側面からだけ捉えるのは頂けない。

さらに言えば、どういう「制度変更」が「高齢者のマインドを冷やしている」のか説明が全くない。簡単でもいいので触れるべきだろう。

◎消費増税は食品だけ?

【日経の記事】

家計支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数は、15年に25%と過去最高になった14年4月の消費増税で食料価格が上がったことが一因だ。食品スーパーマルエツの上田真社長は「低価格品の販売が増えている実感がある」と話す。だが食費さえ切り詰めようとする節約の裏側にはもう一つの構造要因がある。

団塊世代が60歳の定年に達した07年以降、働く世帯の消費支出の落ち込みが大きくなっている。15年の税や社会保険料の負担は月9万8千円と、07年と比べて約1万2千円増えた。この間、実収入は約3千円減り可処分所得が圧迫されている。

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「エンゲル係数の過去最高は2015年で正しいのか」という問題以外にも、上記のくだりには気になる部分があった。エンゲル係数の上昇に関して「消費増税で食料価格が上がったことが一因」と述べている点だ。消費税率の引き上げは食品でも衣料品でも同じだ。エンゲル係数が上がるためには「食品の価格上昇が他の品目より大きい」「増税後に他の品目の消費が抑制されたのに、食品ではその影響が小さかった」といった要因が必要になる。記事の書き方は誤りではないものの、きちんとした説明とも言い難い。


※「エンゲル係数に関する説明は間違い」との前提で、記事の評価はE(大いに問題あり)とする。回答が届いた場合は、その内容を検討した上で必要に応じて評価を見直す。ミスを厳しく責めるつもりはない。ただ、ある程度の常識があれば「エンゲル係数が2015年に過去最高ってあり得るかな?」との疑問は抱けたはずだ。記事を担当した景気動向研究班の全員が何も思わなかったとすると、記事を送り出す側としてはかなり苦しい。

追記)結局、回答はなかった。

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