2015年8月5日水曜日

日経 西條都夫編集委員「日本企業の短期主義」の欠陥

4日の日経朝刊投資情報2面に載った「一目均衡~日本企業の短期主義」という記事には多くの問題を感じた。 筆者である西條都夫編集委員の分析能力には大きな疑問符が付く。

記事の具体的な内容を見ていこう。


【日経の記事】
ゴッホの「ひまわり」 ※写真と本文は無関係です

「同族経営」と聞くと、どこか時代遅れの感じがして、いいイメージを持たない人が多いだろう。最近では大塚家具やロッテで親子や兄弟間の骨肉の争いが起こり、否定的な印象がさらに強まった気がする。

だが、実証研究によると、実は同族経営のほうがいわゆるサラリーマン経営より概して成績がいい。例えば京都産業大学の沈政郁准教授らが一昨年に発表した、日本の上場企業1000社以上を対象にした大がかりな研究によると、売上高成長率でも総資産利益率(ROA)でも同族会社が非同族会社を上回った。それも一時的な現象ではなく、40年近い長期の時間軸で比べた結果である。

さらに興味深いのは同族企業の中でも、経営者の類型によって業績にばらつきがあることだ。

最も成績がいいのは、いわゆる婿養子が率いる企業群だ。創業家を頂く会社でも、一族と関係のないサラリーマン(いわゆる番頭)が経営することもあれば、直系の息子や娘が経営する場合もある。だが、そのどちらよりも、創業ファミリーの一員ではあるが、実は血縁関係のない養子がトップに座ったほうが業績がいいという結果が出た。


まず「同族会社」の定義が不明だ。「一族と関係のないサラリーマン(いわゆる番頭)が経営することもあれば」と書いているので、経営者が創業家出身かどうかは問わないのだろう。ならば出資比率で見るのだろうが、上場企業の場合、創業家の出資比率が数パーセントでありながら、創業家が経営を実質的に支配しているケースは珍しくない。何を以って同族会社と言っているのかは、きちんと示してほしかった。

記事では、同族会社の中でも「最も成績がいいのは、いわゆる婿養子が率いる企業群だ」と解説している。しかし、その理由が理由になっていない。婿養子が優れている要因について、西條編集委員は以下のように書いている。


【日経の記事】

なぜ同族経営であり、中でも養子なのか。後者については、「同族の弱点は後継者の選択肢が限られることだが、社内外の優秀な人を選んで一族に迎え入れる婿養子の仕組みを活用すれば、それが克服できる」と沈准教授はいう。


これは記事の最もダメな部分だと思える。「なぜ養子なのか」の説明になっていない。「同族の弱点は後継者の選択肢が限られることだが、社内外の優秀な人を選んで一族に迎え入れる婿養子の仕組みを活用すれば、それが克服できる」とのコメントを紹介しているが、これは「一族と関係のないサラリーマン(いわゆる番頭)が経営する」場合も同じだ。創業家以外から優秀な人材を迎え入れるという点では、婿養子よりも有利かもしれない(婿養子は娘がいないと成立しないし、娘との結婚に同意できる人に限られてしまう)。

研究に携わった沈准教授は「なぜ番頭ではなく婿養子なのか」の答えも持っているのだろう。しかし、西條編集委員がその点に言及していないので、沈准教授が「まともに分析できていない人」に見えてしまう。

今回の記事では、言葉遣いも気になった。最後の段落を見てほしい。


【日経の記事】

中計の数字が一人歩きすると、会社全体がそれにフォーカスして、もっと先の長期的な視点や戦略は抜け落ちる。四半期利益に目の色を変える米株主資本主義とは少し肌合いは違うが、これはこれで将来の成長を阻害するショート・ターミズムの一種ではないか。同族経営の優位は企業一般の弱点を映す鏡でもある。


ショート・ターミズム」を使う必然性が感じられない。どうしても使いたいのならば訳語を入れるべきだ。注釈なしでほとんどの読者に理解してもらえる言葉だとは思えない。そもそも記事中では見出しを含め「短期主義」という言葉を使っていた。それを最後に「ショート・ターミズム」に言い換える意味はない。文字数は増えるし、分かりにくい。西條編集委員が読者のことなどあまり考えずに記事を書いているから、こうなるのだろう。

ついでに言うと「フォーカス」も使う必要のない横文字だ。「会社全体がそれに焦点を当ててしまい~」などとしても何の問題もないはずだ。


※記事の評価はD(問題あり)。西條編集委員の評価もDを維持する。

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